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発掘5「メイド・カフェ」



 人類が滅んだ事により、地球は自然あふれる姿を取り戻した。

 ――などと、昔に流行ったというSF小説なら書いてあるのだろう。

 だが現実はどうか。


 核戦争による放射能被害はとっくの昔に収まった、巨人兵器は人類の居住地帯の半分を焼いたが、当時のしぶとい人類は見事復興を果たした。

 では何が問題なのか。


 それは最後の世界大戦の終わり、月の半分が落ちてきた被害による重力異常だ。

 といっても、地球が大幅に欠けた訳ではない。

 月落としに使われた重力兵器が、そこらかしこに降り注いだ影響だ。


「ご主人様、シラヌイばかり見ていないで前を見て運転してくださいまし」


「えー、ちょっとぐらい良いじゃん。アキハバラまでのルートは開拓済み、重力変動ポイントだって少ないんだし」


「確かにポイントは少ないですが、いつ重力鉱が不安定になるか分からないのですよ?」


「ちぇっ、メイド様の言うとおりにっと……」


 左に座る、探索装備に身を包んだシラヌイから視線を戻し。

 ウグイスは気怠げにハンドルを握りなおす。

 今の時代、思考制御とオートパイロットの併用は当たり前で直接操作する必要など無い筈だが。

 どうもAI達はそう考えていないらしく、ある程度の操作が必要なのだった。


 ともあれ。

 現在彼らは、フィールドワークとしてアキハバラへ向かっている途中である。

 無論、徒歩ではない。

 ダイ・ドローンと呼ばれる、空飛ぶ車に乗っているのだ。

 ――余談だが、名前の由来は20世紀に発明されたドローンに姿が似ている事から来ている。


(いやー、和メイド服姿も良いけど。シラヌイさんはコッチも良く似合う)


 いつもは簪で纏めている黒髪を下ろし、体の線がくっくり出る漆黒のボディアーマーを装着して。

 顔には大きな多目的ゴーグル、背中には八本のアームが付いた反重力飛行装置を。

 そして左肩に担いでいるのは、ランチャーソードというビーム兵器である。


 実の所、シラヌイは護衛部隊に所属するアンドロイドであった。

 彼女達の任務は、コロニー外で仕事をする人間達の補助及び護衛、レスキューなど。

 スコッパーであるウグイス、護衛アンドロイドであったシラヌイ。

 二人の初めての出逢いは、彼の初めてのフィールドワークだったのだ。


(あの時のシラヌイさんは格好良くて……)


 ウグイスが思い出に浸ろうとしたその瞬間、ビィーッと電子が一回。


「マッパー009様から、メールによりご連絡ですご主人様」


「読み上げてくれ」


「アキハバラ地区の重力鉱の無力化、廃棄に成功」


「そいつは朗報、私の探索も捗るってもんだ」


「まだ続きがございます、――どうやら未探索区画にて奇妙な建物を発見した模様。協力を求むと」


「私に協力? それは興味深いね」


 マッパーは、地図を作り直すのが任務だ。

 たとえ無傷の建物が発見されても、位置を記録するだけで素通りする。


「私向けの建物ってだけってなら、位置情報を知らせるだけで良い。何があったんだろう?」


「彼方の同胞に連絡を取っていますが、そちらも困惑している様で」


「アンドロイドが困惑?」


 マッパー009も昨今の人類の例に漏れず、伴侶アンドロイドを連れている。

 自分と同じ性別のアンドロイドを伴侶としている風変わりな人物であるが、彼女もその伴侶も肝が据わっており。


「到着しない事には分からないか……シラヌイ」


「コース変更は終了しております、到着まで凡そ五分」


「もう少し早く着けない?」


「ダメです、速度違反は見逃せませんわご主人様」


「都市の中ならともかく、外で意味があるのかなぁ……」


 そうこうしている間だに、ダイ・ドローンは指定された場所に到着した。

 ウグイスはマッパー009の隣に着陸させ、意気揚々と建物へ向かい。


「…………成程、彼女達が困惑する訳だ」


 途端、彼は顔を険しくした。


「お心当たりがおありで?」


「ああ、建物自体は第五次世界大戦前の物だけど。この看板の文字が何を意味するかは知ってる」


「文字? ……これはかなり昔の英語の綴りですね、読めるのですか?」


「あれ? シラヌイさん達にはインストールされてないの?」


「今の英語と三十世紀に使われた英語では、文法も単語もアルファベットの数も違いますので」


「成程、じゃあ帰ったら翻訳プログラムに入れておこうか」


「ToDoリストに入れておきますわ。それで意味は?」


 するとウグイスは看板を睨みつけながら、拳を握りしめ。


「…………これは、メイド・カフェだ」


「メイド・カフェ? ――――っ!? 真逆、真逆そんなっ!?」


「ああ、そのまさかなんだ……」


 涙を流す、滂沱の涙を。

 メイド・カフェ、その存在は西暦3456年では忌むべき存在として語られている。


「おのれ……おのれっ!! これがメイド・カフェ!! 人類からメイドという文化を駆逐した諸悪の根元! 全アンドロイドの敵!!」


「20世紀に始まったメイド・カフェ、それはメイド文化の再建を期待されていた。だけど、そうはならなかった。メイドとは名ばかりの、偽物が跋扈し。メイドが持つ奉仕の精神は忘れられ。僅かに残った本物のメイドは歴史の陰に追いやられた」


「…………破壊してしまいましょうご主人様」


「ダメだ、こんな物でも貴重な歴史資料なんだ。すまないが耐えてくれ」


「そ、そんな……」


 華奢な肩を震わすシラヌイを抱きしめて、ウグイスは囁いた。


「祈ろう、かつて迫害されたメイド達に。そして喜ぼう、一度滅びた後とはいえ。今ここにシラヌイ達がメイドという存在を継承出来た事を……」


「はい、はいっ。祈りましょう、そして喜びましょう」


 二人はしばし抱き合った後、決意の瞳で建物の中に入る。

 残酷な真実を仲間に伝える為に。

 その後、このメイド・カフェは機密として扱われ。

 建物丸ごとコンクリートの壁で覆い、存在そのものを隠蔽されたのであった。



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