第4話 便意よさらば
大魔王との激闘から数日。
レットの帰還を見送ると、俺は早速、魔王城の一室で便所改革について、計画を練り始めた。というかレットは絶対に痔だぞ、明らかに尻から推進力を得て飛んでいたし・・。いつかウォシュレットを送ってやろうか。
だがまずは、余り乗り気ではなかったヘデラーや、魔物たちにウォシュレットの魅力を伝える必要があると俺は考えた。
あの肛門に水流をあてがう、天にも昇るような心地よさを知れば、必然的に便所の需要も高まるとふんだからだ。
材料は驚くほど簡単に手に入った。
必要なのは、伸縮性のある袋、とノズル部分。
袋は家畜の胃袋と表皮を縫い合わせたもの。もちろん耐水性もある。ノズル部分は金属で作り上げた。
今まで人間と争っていただけあり、金属加工の技術も高い。
組み合わせて出来る物は、袋の部分を押し込みノズルから水流を噴射する、いわゆる携帯ウォシュレット。
これをまずヘデルに使わせる。本人はかなり嫌がっていたが無理やり便所に押し込んだ。 すると中から、恍惚とした、それでいて悲鳴にも似た叫び声が廊下まで響き渡った。
その声を聞きつけ魔物たちも集まってくる。
「なっ・・なんと、この様な悪魔的快楽が、この世界に存在するとは!」
ヘデルの、夢見る乙女のような表情に興味を持った者たちが、一人また一人と便所に消え、恍惚の叫び声を響かせていく。
ノズルさえ変えれば、多様な魔物の形状に合わせることができるのだ。
「今すぐに全ての魔物に配るべきだ!トイレの増設も急がねば!」
やはりヘデルは肛門が弱点だったか。分かりやすい奴だ。
魔物たちが歓声を上げる。女神の使者万歳!と俺を讃えている。
完全にウォシュレットの魅力にとりつかれたようだ。
ここからの魔物たちの行動は迅速で、携帯ウォシュレット加工のための工場と、各種族に対応した便器の工場がすぐに作られ、その噂は人間界まで瞬く間に広がり、多くの商人たちが買い付けにくるほどだ。
それとともに、洗浄し、濡れた肛門を紙で拭く文化も広がりを見せ、これもまた魔物たちの飽くなき探求により製紙技術はすぐに発達した。
今まさに平和になった世界で、便所文化が花開こうとしていた。
数年後、従業員僅か50名で始まった魔物たちの便器メーカーMAMONOは、今や世界シェア8割を超える巨大便所メーカーとなった。
世界に便所が多く作られるにつれ下水事業も拡大を見せ、汚臭のしていた街並みは、現在では、人々の活気と笑い声に満ちている。
俺は今も魔王城に住んでいて、時折訪ねてくるレットと昔話に興じたり(レットはやはり痔でありウォシュレットを送ると涙を流し喜んでいた)
ヘデルのウォシュレット中の、廊下の外まで響き渡る嬌声に毎朝聞き入ったり(最近は、顔を赤らめるだけで殴りかかってこなくなった)
楽しい毎日を送っている。
「何をしている士郎?」
今日は、俺が珍しくセクハラを働かないので、訪ねてきたヘデルが扉から心配そうに顔出す。
「便所掃除だよ。久しぶりに完璧に仕上げたくなってさ」
「・・いい加減トイレを変えたらどうだ?奴が使っていたトイレだろう」
「思い出の便器だからなぁ。最後まで使うさ」
異世界に来て、この便器で排便し全てが始まったのだ。感慨深いものがある。俺は一生忘れないであろうこの便器を。
そして、俺は学んだ。世界には様々な知識で生きている者達がいる。
どんな知識だって役に立つ、全ての便所に携わる者たちに俺は感謝したい。
磨いた便器は窓からの暖かな日差しに当てられ、今日も鈍く輝いていた。
排便英雄~完~
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