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荒野に火を放つのさ

「なに変な声を出しておる。此処(ここ)からは英雄らしくしろ。それで、町の皆は安心する」

せっかくだ、ゲティスバーグの炎龍の名は有効利用せんとな。

指揮が上がれば、混乱も最小限にとどめる事が出来る。

そして、人も(うご)き、対処もしやすくなる。


「ヘイヘイ」

そして、ため息を一つ付くと、ジムの目付きが変わる。

「で、旦那、その策ってのを聞かせてくれ」

ほう、口調はさして変わらんが、雰囲気が別物だ。

この男の(まと)う空気が、歴戦の戦士のそれに代わったのが分る。

伊達に、この年で大佐迄上り詰めたと云う分けでは無い様だな。

フッ、それにしても器用な男だ。


「少々人手と、時間が掛かる策なのだが?」

「人手なら、自警団(うち)の若い者を自由に使ってくれて構わん。それで足りん様なら、こっちで人手を集めよう。時間に付いても、直ぐに大規模な襲撃が有るわけじゃ無い。ゴブリン共の手口は大抵、先ず数十匹ほどの小規模な襲撃の後に、大規模な襲撃が来る」

「ほう、それは、威力偵察か何かか?」

「いや、さっきも言ったが、ヤツ等にはそんな知性は無い。そう言う習性だそうだ。ま、その習性が、実質戦術にかなうモノに成ったと云う事らしい。まったく厄介なヤツらさ」


「で、旦那?」

「うむ、さっきも言ったが、火責めだ。そのゴブリン共とやらを焼き払う」

「おいおい、旦那、まさか町ごと焼き払おうってんじゃ……」


「そんな訳無かろう。町を守る為に町を焼き払うなぞ、本末転倒だ」

「それじゃ旦那、何処に火を放つってんだ?こんな荒野の真ん中にある町で……」

「フッ、なに、その荒野に火を放つのさ」




ジムやオーウェン達を引き連れて、廃坑へと向かう。

そして、昨日錬成した大量のソレの前に。


「旦那、これはいったい……」

「ま、見ての通り樽だ。大体三百ほど有る」

そう、昨日錬成した物は、何の変哲も無い単なる樽だ。


「コイツに原油を詰めて、荒野にまき散らす」

「確か、この原油ってのは、火を着ければ燃えるって言ってたな。って事はそれで、ゴブリン共を。だけど旦那、どうやってその罠にゴブリン共を誘い込むんだい?」


「そうだな……オーウェン、そのゴブリン共はいつもどの方向から攻めて来る?」

「うーん、必ずと決まっているわけでは無いが、町の南側だ。何しろ、ヤツらの巣がある方向だからな」


「町の南ってぇと……第二鉱山か。成るほど、第二鉱山の露天掘りの廃坑が、まるまるゴブリン共の巣に成ってるって事か。確かに露天掘りの跡って事なら、横穴は掘り放題……ゴブリン共が増える分けだぜ」

「ハァ~、ジム行くなよ」

「ヘイヘイ、オーウェンの旦那」


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