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クイーンの幼生

外は未だ薄暗い。

馬にまたがり、町のゲートまで走らせる。


ゲート付近には、既に数人の男たちが横転した幌馬車を囲んでいる。

オーウェンと自警団の男達、それとギルドのガンスリンガー三人だ。

馬を降り、ジムと二人、彼らの元に。


「ジム、それと……ドウマと呼んで構わんか?」

「うむ、自由に呼んでくれて構わん」


「まだ、夜も明けておらんのにスマン。とにかく、コイツを見てくれ」

オーウェンに促され、横転した幌馬車の後方に誘導される。

そして、その積み荷が目に入る。


「これがゴブリンか」

成るほど、バリーが小さな小鬼と言っておったが、確かにそんな感じだな。

角こそないが、体躯はワシと同じくらいか一回り小さい、緑色の肌、醜悪なその容姿。

その死体は一体だけでは無い、何体も折り重なる様に積み込まれている。


「ヤツら、もう隠す積りも無いらしい。敢えて、これ見よがしにこんな事を!」

オーウェンが怒りをかみ殺す様に、そう呟く。

「もう、と云うと、やはり以前から?」

「ああ、薄々はな。今までは、ゴブリンの(むくろ)は見つかっていなかったが、恐らく何処かに埋められてでもいたんだろう。何しろ、襲撃のタイミングや良すぎたからな」


「タイミングと云うと?」

「襲撃の後、町を整備し直して、家を修復して、町がいつも通りに戻ったと思ったら襲撃される。それを何度も繰り返していたからな。人為的な物は感じて居たさ。当然、そうなるとそんな事をしそうなやつ等の心当たりは一つしか無い。だが、証拠も無くてな……」

成るほど、さすがはこの町を守る自警団の団長だけのことは在る。

以前から気付いて居たと云う事か。


「それとだ、最悪な事に……コイツを見てくれ」

オーウェンはそ云うと、折り重なるゴブリンの死体を一つ、蹴る様にしてどける。

すると、その下に、妙な死体が一つ。

上半身は普通のゴブリン共と変わらん。

だが、下半身は異様だ。

まるで、蜘蛛の胴体の様では無いか。

しかも、そこから同じく蜘蛛の様に、四対の足まで生えておる。

そして、他のゴブリンよりも、ふた回りは大きい。

「ん、コイツは?」


ワシの問いに、ジムが呟く様にして答える。

「こ、こいつは……クイーン……クイーンの幼生体じゃ無えか……」

「クイーンだと?」


「ああ旦那、ゴブリン共がこれほどまでに増殖する為には、普通のゴブリンの姿じゃ到底、物理的に無理って話さ。だから、クイーンってのは産み増やす為にこんな姿をしているのさ」

「お前さん、クイーンの幼生体と言ったが?」

「こいつは、まだ、生まれたての子供さ。そのうち、一昨日(おととい)のオーガほどの大きさに成る」


成るほど、小鬼とは言え、それを何千と産み落とすには、姿を変え、巨大化せねば成らんと云う事か。

そして、その巨体を維持し、且つ、更に一族を生み増やす為にどん欲に成ると。


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