猛り狂う、オーガ
ん、そうだ!
こ奴、ゲティスバーグの炎龍殿に英雄に成って貰うのも悪く無い。
どうせ、この町は、その炎龍殿の生まれ育った町だからな。
「ジム、それと、猫のアンタ!早く逃げた方が良い。アレは手が付けられん」
さっきのレナードとかいう砦の士官か。
それと、他にもう一人、声を掛けて来る者が居る。
「クックック、そうされた方が宜しい。見た所、この町は終わりだ。あのオーガ、やたら家を壊してるでしょ。アレ何してるかお分かりですか?」
ん?意味無く暴れてる様にしか見えんがな……。
この小男何が言いたい?
「クックック、アレはですな。巣作りの材料を作っているのですよ。ああやって、木材を打ち砕いて、彼らのベットにでもするんですな。クックック、御覧なさい。あの角の大きいのが雄です。で、小さいのが雌。此処を彼らのコロニーにする積りなんでしょうな。悪趣味な事だ。ハハハ」
「で、お前さんは逃げんのか?」
「クックック、私は紳士ですからな、慌てたりはしませんよ。それに、人には親切にする様に心掛けているのですよ。どうです、ドウマさん。最後のチャンスを差し上げよう。此処がオーガのコロニーに成れば、先ほどお買いに成った債券は、不渡り確定だ。今なら、私が、そうですな……三十万ドルで買って差し上げよう。一割でも戻ってくるんですよ。悪い話じゃないでしょう。クックック」
まったく、しつこい男だ。
まあ、手間暇かけて、この町にちょっかいを出していた分、引くに引けんのだろう。
五体のオーガのうち三体が北に、一体が南に方向を変え、一体が此方に向かって来る。
そして、そのオーガが左手に見える家の屋根をひん剥く様に破壊する。
「キャャャーーー!」
刹那、悲鳴が上がる。
あれは、オーガに壊されている家の中から逃げ遅れた子供。
その、半壊した家の玄関先で、オーガに睨まれ腰を抜かしておる。
マズイ!
咄嗟に飛び出そうとした矢先。
ズドン!
ジムが銃を抜き、オーガに向かって走り出す。
グオォォーーー!
ジムが放った銃弾を左目に受け、オーガが此方を睨んで雄たけびを上げる。
「ヒィッ!」
小男が、その雄叫びに小さく悲鳴を上げる。
「ド、ドウマさん。私の好意を無下にした事、こ、後悔しますぞ」
そう捨て台詞を残して、小男は集会所の裏口へと向かう。
オーガが雄たけびを上げている隙に、ジムが子供を抱えて走り出す。
ズドン!ズドン!
レナードと云う男も銃を抜き、ジムと対峙しているオーガを撃つ。
その銃口からは、凄まじい炎と爆音。
見覚えがある。
以前ジムに見せて貰った魔弾だ。
確か、ファイヤーブレットと言っておったか。
トロール・ベアにあれ程の深手を負わせたその魔弾も、目を庇う様に覆ったヤツの左手の甲で弾かれる。
「ちっ!まったく歯が立た無え!あんたも早く逃げな!」
レナードはそう言うと、ジムに向かうオーガの気を引く様に、銃撃を加えながら向かっていく。
中々勇敢な男では無いか。




