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廃坑の黒い沼

馬を降り、ゲートへ向かう。

恐らく、そのゲートを閉ざしていたであろう南京錠は、朽ち果て地に転がっている。


「で、旦那、コイツはどうする?」

ジムが持参したランタンを指さす。

「夜襲を仕掛ける分けでも有るまい。()けて行こう。その方が相手の反応も分かり易かろう」


そして、幼少の頃遊び場にしていたと云うジムに先導されて、奥へと向かう。


暫くして、巨大な露天掘りの穴が見えてくる。

結構深い穴だ。

その大穴の奥底に小さな灯りが一つ。

見た所、やはり先客は一人らしい。


「旦那、こっちだ」

ジムに急かされ、後に付いて行くと、朽ち果てた木造の小屋。

その横を、細いスロープ状の道がくねくねと蛇行しながら下に伸びている。


ジムの後に続いて、スロープを降りて数分、(ようや)く底に辿り着く。


先客の人物がワシらに気付き、ランタンをこちらに掲げ、固まる様に静止している。

今のところ攻撃してくる気配は、見て取れ無い。


近付くにつれ、その人物の影がはっきりしてくる……ん、あの背が低く、小太りの体型……。


「おや……もしかして、ジム?それと……猫の旦那?どうして、ここに……?」

「トマス!?トマスこそ、こんな夜中に何してんだ?」


「ハァ~……何って……ホント、肝を冷やしましたよ。てっきり、ゴロツキ共に見つかったのかと……」

成るほど。


「フッ、どうやら、お前さんとワシらの目的は同じらしい。お前さんも、コイツを見に来たのだろう?」

そう言って、露天掘りの底に広がる、黒い沼に視線を向ける。


「と、するとお二人も……で、猫の旦那、この液体はやはり……」

「うむ、間違いなかろうな」

トマスはこの液体が何なのか、既に感付いておる様だな。

この嫌な匂い間違いない。


「ああ、旦那にトマス、オレにはさっぱりなんだが、この黒い液体はいったい?」

「コイツは原油だ。これを精製すれば石油に成る」


「石油?それって確か、トマスが仕入れたって云うランタンの?」

「ええ、そうです。昼間、お二人と別れた後、町長さんを訪ねて行きましてね。町の復興に付いて入用な物資が有ればとお話ししたんですが……もしかすると、復興も何も、町を捨てるかもしれんと、お伺いしましてね。それで、色々と詳しくお話を伺ったところ、例のヘルマス一家でしたか、彼らと、この廃坑に湧き出た黒い液体の話を聞きまして、それで、もしやと思って見に来たんです」


「こんな夜中にかい?」

「ハハハ、私はお二方と違って、臆病者でして。もし、明るい所で、ヘルマス一家のゴロツキに、顔を覚えられでもしたら厄介な事に成るかもと、それで、こんな夜中に」


「で、トマス。もしコイツが二人が言う、石油だか原油だか言う物だとして、これで、町の財政が助かるほどの物か?」

「うーーん、そうですな……」


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