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マーサのテールスープ

コリンは最後に、明日の朝、集会所で町の売却に付いての最後の話し合いが行われるとだけ告げ、忙しそうに帰って行った。

どうやら、この後その話し合いの準備が未だ残って居るとの事だ。

話し合いの場に、先ほど話に出ておった頭取の男と、ルパート・ヘルマスと云う男も同席するらしい。


そして、ジムとジェシーには、必ず集会所に来る様にと。

当然だな、町の行く末を決めるものだ、二人に係わらず町の者は皆、立ち会う義務がある。



それから暫くも経たぬ内に、日も暮れ始め、マーサに食卓に呼び出される。

その食卓の中央には、見た事無い程の巨大な深皿。

更に、その皿の中には、なみなみのスープに色とりどりの野菜、そして何やら巨大な円形の肉……肉の中心に見えるのは骨か?

とすると、これは、さっきワシが切ったカウとやらの尾の輪切り肉。


「どうよ♪私自慢のカウのテールスープよ♪美味しそうでしょ♪実際、美味しいわよ♪さ、さ、皆座った座った♪」

そうマーサに急かされて、真っ先に座ったのは子供達だ。

「ワー♪おっきいお肉♪」

「おいしそー♪マーサが作ったの♪」


「そうよ♪いっぱい食べなさい♪」

そう言いながら、子供達の前に置かれたスープボウルに、切り分けた肉と野菜とスープを注ぐ。

「さ、ジムとジェシーも。状況は悪いけど、私は未だ諦めて無いわ。こんな時こそ美味しいものを食べて力を付けないと」


ワシも、子供達の隣の席に付く。

「そうだ、どんな辛い状況と言えど、人は食わねば生きては行けん。それにだ、町長は明日最後の話し合いをすると言っておった。つまりは未だ、話し合う余地が有ると言うことだ。全てが決まった訳では無い」


「へぇ~、猫さん……ドウマさんって言ったかしら。アンタ良い事言うじゃない♪その通りよ。明日の為にも食べなきゃなね」


「そうだな、オレもマーサ自慢のテールスープを一杯貰おうかな。ジェシーも」

「ええ、そうね」

二人も席に付き食事が始まる。


カウとやらの肉は、匙で簡単にほぐれる程柔らかい。

その肉の欠片を、匙に乗せ、スープと共に口に運ぶ。

肉の良質の油と、スープに溶け込んだスパイスの風味が口に広がる。


駅馬車との旅で、コクラン夫妻に馳走になったポトフも美味かったが、このテールスープは別物だ。

熟練の料理人が作り上げたかの様な、洗練された味わい。


マーサと言う女性、確かこの町の有力者のオーウェンの妻と聞いていたが、中々どうして、料理人としての腕前は一流だな。

それに、気さくな振る舞い。

有力者の奥方として(おご)る様子は無い。

好感の持てる人物だ。


ワシの表情に気付いてか、マーサがワシに勝ち誇ったかのように微笑みながら問いかける。

「どうよ、ドウマさん♪」

「うむ、実に美味い」


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