立ち退きの覚悟
「ジムも聞いておると思うが、この町は散々ゴブリン共に荒らされてな。この町は小さいながらも豊かな町じゃし、一度や二度の襲撃程度なら、まあ何とか皆も食い繋ぐ事も出来たんじゃが……こう何度もと成るとな……。それで、已む無く町で銀行から金を借りる事にしたんじゃ。その金で町の立て直し、損害を被った事業者への補填、それと、ゴブリン共の巣の討伐依頼をと。じゃが、結局……討伐は失敗に終わり、それ以降もゴブリン共の襲撃は止む事無く続いて、町の借金も、返済の目途も立たんまま膨れ上がっておった。そこに来て、一昨日の襲撃じゃ……。銀行からも、もうこれ以上は町の返済能力を超えておるからと、追加融資を断られた。この町の町長として力及ばず、皆にはホントに申し訳無いことじゃ」
コリンと呼ばれた男は、力無くうなだれる様にもう一度首を垂れる。
「経済的に困窮しているとは聞いていたが……まさか、そこ迄だったなんて……。コリン、なんか手は無いのか?」
「デュモンさん……その銀行の頭取さんなんじゃがな、彼が言っとった。これ程の借金を返済するには、もう町ごと売り払うか、黒の森でリントヴルムでも討伐して、その魔力結晶でも売るかせんと無理じゃとな……。別に彼も悪気が有って、そんな事を言っとる訳じゃ無い。どちらかと言えば、同情してくれておるほどじゃ。儂らに、もう良い潮時じゃと、諦めさせる為にそう言ったんじゃろうな」
これ以上負債を重ねて苦しむよりは、と言う事だろう。
その頭取とやらの言い分も理解は出来る。
しかし……そのリントヴルムとは、何のことだ?
「それじゃあ、この町を売っ払うってことか?町の皆は?」
「そりゃ……誰も納得してる者何ぞ居やせんよ。この儂を含めてな。じゃが、覚悟をしている者は多いじゃろな」
「して、売ると言う成らば、買い手が必要な事と思うが、もう決まっておるのか?」
「うん?今の声は……?随分大人びた声じゃったから、お前さんって事は……」
どうやら、子供と勘違いしておる様だが……ま、いつもの事だ。
「いや、今聞いたのはワシだ」
軍帽を取る。
「ね、猫!?あ、いや、これは失礼。で、あんたは?」
「ワシはドウマと申す者だ。訳あってジムと旅をしておったのだが……宿屋が使えん様でな。今晩は此方で厄介に成る。して先ほどの話」
「ああ、買い手の話じゃったな……確かに、あんたの言う通り、決まっておる。じゃが……ハァ~……」
コリンの表情により一層影が差す。
どうやら、何ぞ訳アリの相手らしい。




