この町を捨てて
「で……旦那……コイツは……なんか……不公平じゃ……無えのかい……?」
切り落としたカウ・リザードの尻尾を、ワシとジムの二人で担いで、家の方に向かう。
ジムの不平の原因は、その尻尾の形状に在る。
まあ、大抵のトカゲの尾は根元が太く、先に行くにつれ細くなる。
カウ・リザードとやらとて、その例に漏れることは無い。
つまり、巨大な尾の根元側をジムが、先の方をワシが担いでおると言うことだ。
「気にするなジム、気のせいだ♪」
ドサッ!
厨房に辿り着き、中央に有る大きな作業台にカウ・リザードの尾を降ろす。
ジムはと言うと……息を切らしてヘタレ込んでおる。
「おや、まあ、見事な切り口だね♪ジム、あんた見ないうちに腕を上げたじゃない♪」
「いや、マーサそいつは……。ん、客人かい?」
リビングの方からだろうか、話し声が聞こえて来る。
「はぁ~、町長さんだよ……。町の跡片付けとか色々有って忙しいんだろうけどさ、今頃お悔やみだとさ。それに、話はそれだけじゃ無いみたいだね……」
「その話って?」
「例の話だよ……。家の旦那はもう腹を括ってるみたいなんだけどね……あたしゃ、まだ割り切れ無くってね……」
「例の話?腹を括るって……何の事だい?」
「そう言やあんた、帰って来たばっかだもんね。はぁ~……つまりその、この町を捨てて何処かに移り住むって話さ」
「この町を捨ててって!」
ジムが目を見開きあ然としておる。
「ここに来る前オーウェンに、もう詰んだかも知れんって聞いたが、まさかそこまで……」
「さすがに今回の襲撃で、町の借金も限界超えちまってね……それで……」
へたり込んでいたジムは立ち上がると、慌てて厨房を出てリビングの方へ。
軍帽のつばに軽く手を触れ、マーサに挨拶を済ますと、ジムの後に付いてリビングへ向かう。
「コリン、町を捨てるってどう言うこった!」
「ん、おお、ジムか!?オーウェンから帰って来たと聞いておったが……。随分立派に成ったもんだ、はっはっは」
「はっはっは、じゃ無え!町の事だ!」
「おお、済まんかったな……お前さんにもちゃんと説明せんとな……。だが、その前にエドの事、改めてお悔やみを言う。町の為に助けを呼びに向かって、運悪く雷に打たれたなんてな……。本来なら直ぐにでも、町を上げて葬儀をしてやりたいところなんだが……色々とまま成らんでな、済まんなジム」
禿げあがった頭を、深々とジムに首を垂れる。
マーサは今頃お悔やみをと、不満そうであったが、見た所この男には含むところは無さそうだ。
事実、多忙を極めておったのだろう。
「そうそう、この町の事じゃったな」




