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カウ

「カウだったら厩舎の中よ。ゴブリンの襲撃が有った時に、エドが急いでカウ達を厩舎の中に入れたらしいのよ。それで、結構無事に残ってるわ。じゃ、宜しくねジム♪」

「宜しくって……行っちまった……ハァ~。しゃあ無え……ん!そうだ、さっき旦那手伝ってくれるって」


「おいおい、ワシが手伝うと言ったのは……」

「まあまあ、そうお固い事は無しで頼むぜ、旦那♪」

強引にジムに背中を押されて、裏手に連れていかれる。


白い家の裏手には、広大な牧草地が広がり、荒らされてはいるが、牧草は青々と生い茂る。

肥沃な大地なのだろう。

その、牧草地の中に、かまぼこ型の屋根が見えてくる。

あれが厩舎か。


ジムは巨大な(なた)を肩に担ぎ、厩舎の扉の(かんぬき)に手を掛ける。

「ジム、手伝うと言っても、ワシは牛の屠殺などしたことは無いぞ」

まあ、殺めた命は数え切れんがな……。


「牛?屠殺?何の事だい、旦那?(うち)の牧場に牛なんか居無えぜ。それに、出荷する訳でも無いのに、貴重なカウを屠殺なんかする訳無いだろ」


うん?

カウとは牛の事では無いのか?

それに、屠殺せんなら何故、あんな巨大な(なた)を持って厩舎なんぞに?


そして、ジムは(かんぬき)を外し、厩舎の扉を開ける……な、何だこれは!?


呆けているワシにジムが声を掛ける。

「どうした、旦那?ハハ、まさかカウを見た事無え、なんて冗談は止してくれよ」

「すまんが、始めて見る。コイツがそのカウとやらか?」


「ハァ~……この地でカウを見た事無え、なんて初めて聞いたぜ……。前に黒の森を出たのは初めてとか何とか冗談言ってたが……旦那の場合、何処までが本気か冗談か、いまいち判んねえとこが有るから、始末に負えねえぜ……」

ハァ~、冗談などでは無いのだがな……。


「ま、いいぜ。コイツはカウ・リザードってヤツさ。見ての通りでっかいトカゲの一種さ」

そう、目の前の巨体は、巨大な爬虫類のそれだ。

だが、ワシの知る爬虫類と異なるところもある。


ワシの知る牛よりも巨体なのはもとより、その巨体のわき腹に(すが)り付く小さな個体……恐らくは子供か……。

「ジム、アレは乳でも吸っておるのか?」

「見ての通りさ。乳牛の様に乳を出して、肉も牛の様に美味い。だからカウ・リザードってんだ。この過酷な試される大地じゃ、牛は中々育た無えからな。だから、この地で牧場と言えば、カウ・リザードの牧場の事さ」


成るほど……あの黒の森と呼ばれておった地を離れ、ここのところ人里を旅しておったから忘れていたが、ここは異世界で有ったな。


「で、ジムそのデカい(なた)でどうするのだ?屠殺もせんと言ったが?」

「ああ、コイツの事かい。そりゃ勿論、シッポを切るのさ♪」


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