そん時ゃ旦那に任せるさ
「それで、そうだとして、何でヌーグへの早馬は見逃したんだ?」
「それは、単純にオーウェンだったか、彼の機転の方が奴らより勝ったと言うことだろう。ヌーグへは早馬で片道三時間ほど掛かると言っておったが、往復で六時間、さらに深夜に人を集めると成ると、援軍が来るまでもっと掛かる事に成る。まさか、ヌーグへの援軍要請に貴重な人員を割くと迄は、そ奴らも考えて居らなんだのだろうな。ところで、そのオーウェンと言う男、何者だ?」
「ああ、オーウェンの旦那は、この町の有力者で、自警団の団長さ。気難しい処も有るが面倒見が良くって、ガキの頃は良く叱られたものさ。ジェシーの手紙だと、何度もゴブリンの襲撃を受けて、人的被害が出てい無かったのはオーウェンの旦那のお陰らしいぜ」
「成るほどな」
「どうする旦那?旦那の推理、オーウェンの旦那にも話しておくか?」
うむ……そう、これはあくまでも推理だ、彼らに取ってはな。
ワシに取っては、エドの胸に残った残留魔力から、彼が魔法攻撃を受けたのは一目瞭然なのだが……。
「そう言えば以前、魔紋とやらを採取する役人がいると言っておったが、その者にお前さんの兄を調べて貰う事は可能か?」
「ハァ~、そいつは無理な相談だぜ。魔紋調査官ってのは特殊なお役人だ。こんな小さな町にゃ居無えし、寄り付か無え。偶にヌーグの町に巡回する程度だ。それもいつ来るか分から無え」
已むを得んな……犯罪性を立証する為に、その役人を待ってエドの埋葬を遅らせると言う訳にも行くまい……。
「成らば、この事はワシとお前さんの胸に仕舞っておくとしよう。下手に確証を示せん事を言いふらす事にでも成れば、小さな町だ、疑心暗鬼の種を町中にばら撒く事に成るやもしれん」
「そうだな、旦那の言う通りだ。オレと旦那、二人が用心すれば良い事なんだが……手伝ってくれるんだろ、旦那?」
「フッ、愚問だな」
ここ迄関わって、見捨てる様な事はせんさ。
「だが、一つ問題が有る」
「問題って?」
「お前さんの敵の事だ。可能ならば、お前さんに譲る積りだが、それは譲る余裕が有ればの話だ」
「ハァ~……そうだな……いいぜ。そん時ゃ旦那に任せるさ」
話が終わり、家の中に戻ろうとすると、マーサと呼ばれておった女性に声を掛けられる。
しかも、その手には何やら巨大な……鉈か?
だが、刃渡りは大太刀ほど有る。
「ジム、丁度男手が無くって困ってたのよ。はい、これ」
と、その巨大な鉈をジムに渡す。
「って……マーサ、八年ぶりに帰って来たんだぜ。それにカウなんか、何処にも居無えじゃねえか?」
ジムが何やら、ウンザリとした表情をしておるが……ん、カウ?
まさか今からジムに牛の屠殺でもさせる気か?




