不運×5、有り得るモノか!
「ジム、例えばなんだが、そのゴブリンとやら、人為的に町にけし掛ける事は可能か?」
ジムは腕を組んだまま、考え込む様に目を閉じる。
「うーん……」
「どうした、ジム?」
「考えた事も無かったが、可能か不可能かって話なら、可能だ。ゴブリン共ってのは、蜂や蟻なんかと同じで、女王に統率されている。単純な話、その女王ゴブリンを未成熟なうちに何処かの巣から捕まえてきて、けし掛けたい町の近くに横穴でも掘って、そこに住まわせちまえば良い。そうすれば勝手にコロニーが作られて、自ずと獲物を求めてその町をゴブリン共が襲う事に成る。更に、そのコロニーのゴブリンを何匹か殺して、その死骸を町に放り込んでやれば、その仲間の死の匂いに釣られて、ゴブリン共が町を襲撃する。実際、戦時中に南軍の奴らがそんな戦術で、味方の砦に嫌がらせしていたと聞く。だが、戦争も終わってもう二年経つ。この町にそんな面倒な事を仕掛けて何の意味が?それに、落雷で死んだ兄さんと何の関係が?そろそろ、話してくれても良いんじゃ無いか、旦那」
「うむ、そうだな……単刀直入に言おう。お前さんの兄は落雷で死んだのでは無い。十中八九、何者かに殺害されたとワシは考えておる」
「殺害されたって!?おいおい、さっき旦那は、兄さんの胸の傷を見て、落雷の証拠だって……」
「ああ、だがリヒテンベルク図形が刻まれるのは、なにも落雷だけとは限らんさ。強い放電を浴びれば、同じことだ。リヒテンベルク図形は、放電を受けた個所から枝が伸びる様に放射状に広がる」
「強い放電って……」
「ジム、雷は何処から落ちる?」
「何処からって、そりゃ空からさ」
「で、お前さんの兄は何処に、そしてどうリヒテンベルク図形が広がっていた?」
「何処にどうって……胸に、丁度心臓の真上辺りだ。そこから円を描く様に放射状に……!?」
「気付いたか」
「空からじゃ無ぇ、兄さんの真正面から!」
「うむ、そういう事だ。確かに、稀に少し離れた所に落ちた落雷の放電が、枝分かれしたり、地を這ったりして、横っ飛びの落雷を受けたと言う話も聞かんでは無い。だが、それなら馬はどうした?馬に乗って居れば、当然騎手の正面には馬の首が有る。横っ飛びの落雷を受けたとするなら、胸に当たる前に馬の頭に落ちるのでは無いのか?」
「だが、兄さんの乗っていた馬の死体は無かった……いくらタフな馬でも、頭に雷を喰らって無事な馬なんて居無え」
「つまりだ、不運にもゴブリン共に襲撃され、不運にも落雷に見舞われ、それは不運にも真正面からの横っ飛びの落雷、不運にもその放電は馬の頭を避け直接その体に、しかも不運にも心臓の真上に。さてジム、お前さんの兄は、いったい幾つの不運が重なって命を落とす事になった?」
「幾つって……」
「フッ、これ程不幸が幾つも重なる事など、有り得るモノか!」




