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この町の現状

部屋の外から、歩幅の狭い足音が駆けて来るのが聞こえる。

「ジム、子供達だ」

「ああ、分った」

ジムが器用にエドのシャツのボタンを閉じ、襟を整えると、丁度子供達が部屋に入ってくる。


「猫ちゃん、ジム叔父さん、ママがお茶の準備が出来たって♪」

「ああ、分った、今から行く」


「ハァ~」

とジムがため息を付く。

「どうした?」


「いや、猫ちゃん、ジム叔父さんだとさ」

「うん?ああ何だ、ワシが先に呼ばれたのが気に食わんか。案外細かい男だな、お前さん」

「細かいんじゃ無え、繊細なんだ、オレは」



リビングへ向かいお茶を戴き、ジェシーや子供達に礼を言った後、ジムを表に連れ出す。

何しろ、他には聞かれたく無い話をせねば成らんからな。


「それで旦那、わざわざ兄さんの傷を確認したのは、そのリヒテンベルク図形って奴を見たかったって訳じゃ無いんだろ?」

ジムは庭木にもたれ掛かる様に背を預け、腕を組んでワシに問いかける。


「その前に幾つか聞きたい事が有る。町の入り口で会ったオーウェンと言う男が、お前さんの兄は腕が立つと言っておったが、どのくらいだ?お前さん程か?」

「さあな……何しろ八年ぶりだ。オレが家を空けている間、兄さんがどれほど腕を上げたか、それとも劣ったか、今のオレには知る(よし)も無え。だが幼い頃、オレに銃の手ほどきをしてくれたのは、兄さんだ」


「お前さんのファニングショットもか?」

「ああ、あれは兄さんの十八番(オハコ)さ。だが、オレも軍で修羅場をくぐって、腕を上げたし自分なりに技に改良も加えた。兄さんから教わった物とは、大分別物に成ってると思うぜ」


「成るほどな。戦場で修羅場を潜り抜けたお前さんとは比べるべくも無いだろうが、それでも、お前さんに銃の手ほどきをした程ならば、なかなかの腕だったのだろう。お前さんを見れば良く判る。それと、もう一つ。確かお前さん、町の状況を知って、軍を辞めてこの町に戻って来た様な事を話とったが?それも、存亡の危機とか何とか?」


「ああ、その事か……まあ、見ての通りさ。一年ほど前からこの町の近くにゴブリンの巣が出来て、何度も襲撃を受けていたらしい。人的被害は大した事は無いとは聞いていたんだが……度重なる襲撃で農地や家畜を荒らされて、それで経済的にかなり困窮してるって話さ」

「確か、近くに砦が有ると聞いたが、軍が出張ってそのゴブリンとやらを退治はせんのか?それと、フロンティアギルドだったか、彼らは?」


「砦には何度か要請は出したって話だ。だが、どう云う分けか、何かと理由を付けて動こうとしないらしい。それで、しびれを切らして大枚はたいて、フロンティアギルドにゴブリンの巣の討伐依頼を出したんが……見事に返り討ちに有ったんだとさ」


「それで、お前さんは軍を辞め、この町を守る為に……か?」

「まぁな。ジェシーからの手紙で今の話を知って、ダメ元でヌーグ砦への転属願いを出したんだが……上官に目の前で破り捨てられちまってな」

「フッ、それで頭に来て辞表を叩きつけたか」

「ま、ご推察通りさ」


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