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駅馬車と別れ

町のゲートをくぐり中に入ると、オーウェンと言う男が話した通り、惨憺(さんたん)たる有様だ。

町の至るところが破壊され、瓦礫と成っている建物も散見される。


駅馬車の一行は本来なら、ヌアザの宿屋で宿泊し、明日立つことに成っていたが、その宿屋も宿泊できる状態に無く、このままヌーグを目指すそうだ。

とは言え、日暮れまでに辿り着くのは無理な為、途中キャンプを張る必要が有るが、バリー(いわ)く、一旦砦の近く迄行って一泊すれば、例えゴブリンが出たとしても何とかなるだろう、との事だ。


「アンタには随分世話に成った。ヌーグの町に来たら是非うちの店に寄ってくれ。良い酒と美味い料理を御馳走する」

「ああモーリス、必ず寄らせてもらう」

「絶対来てね♪」

「ああ、勿論だケイティ」


「ドウマさん本当に有難うございました。もうお会いする事も無いかも知れませんが、夫婦共々この御恩は忘れません」

「ああ、達者でなレオナード、リタ」


「アタシたちも感謝してるわ。どの町に落ち着くかはまだ決めてないけど、今度会った時は、いっぱいサービスさせて貰うわね♪」

「姉さん抜け駆けは、ズルいわ!」

「そうよ、そうよ!」

「フッ、お前達も達者でな」


「じゃあ、猫の旦那、お世話に成りました」

「気を付けてな、バリー」

「ハッ!」と声をひと掛けし、バリーは馬車を走らせ去って行った。


彼らは口々にワシに礼を言っておったが、(むし)ろ感謝するのはワシの方かもしれんな。

もし、彼らに出会わなければ、ワシは見知らぬ地で路頭に迷って()ったやもしれん。


「どころで、トマスはヌーグには向かわんのか?」

「ええ、ヌアザのこの様子、何かと物資が必要に成ると思いましてね。これから町長さんの所に伺おうかと。馬車に積んだ荷物の方は、バリーに頼んで店に届けてもらう事に成っているんですよ」

「成るほど、商売熱心な事だな」

「ハハハ、まあ、そうなんですがね。今回は儲けの方はホドホドにと考えて居ます。あまり人の弱みに付け込んで、あくどく儲けても恨みを買うだけですからな。一時、利益を上げても今後の商いに悪影響ですから」

成るほど、この男見かけに寄らず、なかなかの人物やも知れんな。

「では猫の旦那、それとジム、またお会いしましょう」


で、問題はジムの方だな……。

放心状態に成って居る。

皆から掛けられた別れの言葉や、お悔やみの言葉も耳には入ってはおるまい。


「ジム、しっかりしろ!お前さんの気持ちは分からんでも無いが、そんな顔、夫を亡くした妻と、父を亡くした子供達に見せる積りか!」

ジムの目がハッと見開く。

そして、両手で両頬をパン!と叩く。


「そうだな、旦那。その通りだ。じゃあ、案内するぜ」


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