盗賊共を迎え撃つ
ニーリーを離れて暫くも経たん内に、馬車を引く馬たちが泡を噴き出してきた。
宿屋から此処まで、全速で走らせてきたからな、やむを得まい。
「バリー、此処までだ。馬車を停めよう」
「し、しかし猫の旦那……」
「どのみち、馬が持たん。此処までだ」
バリーが馬車をゆっくりと停める。
「ジム、猫の旦那、この後、どうなさるんで?」
「此処で、奴らを迎え撃つのさ」
「そう言う事だ」
「ジム、猫の旦那……」
「乗客は馬車から出ん方が良い。お前さんも、御者台に居ろ。追手はワシとジムで始末する」
「しょ、承知しました」
「さて、お出ましだぜ、旦那」
馬車の後方、ジムの目線の先に土煙が舞っておる。
やはり、追って来たか。
馬を降り、もう一つ小の刻印の弾倉を取り出し、ジムに投げて渡す。
「ソイツも使って構わん。合わせて十六発。それだけ有れば、お前さんならば事足りるだろう」
多く見積もっても、それ以上後ろに逃がす積りは無い。
「弾倉の交換の仕方は分かるな?」
「ああ、問題無い。この前見せて貰ったからな」
「では、参るか。ワシを抜け、馬車に近付く者は撃ち殺せ。馬上でライフルを構えた奴らより、拳銃を持ったお前さんの方が射程は遥かに長い。無傷で、皆殺しに出来る筈だ。間違ってもワシを撃つなよ」
「フッ♪旦那こそ、俺の射線の前に飛び出すんじゃ無ぇぜ……って、旦那?」
再び、グラシャ=ラボラスの隠身で姿を隠す。
更に、アモンの魔法陣で、身体能力を上げる。
まあ、目の前の敵は只の人と馬に過ぎん。
今回は、軍刀に電撃を付与する必要も無かろう。
舞い上がる砂煙の先頭に、騎馬が確認出来るほど近くに迫って来た。
軍刀の鯉口を切り、全力で駆け出す。
瞬時に騎馬の目の前に躍り出て、軍刀を一閃。
馬の脚を切断。
馬は土煙を上げ、地面と衝突する。
その倒れた馬に巻き込まれて、数体の騎馬も投げ出される様に転倒。
落馬した盗賊共は死んではおらんが、機動力を失ったこ奴らなど、脅威にも成らん。
混乱して、暴れる騎馬の足を狩り取る様に、切りつけていく。
パーン、パーン!
遠くで、十四年式の銃声。
ワシの斬撃を逃れた騎馬を、ジムが的確に射貫いておる。
フフ、向こうは心配無かろう。
バン、バン、バン!
さすがに、もう隠身の効力は消え失せた。
奴らも、ワシの存在に気付いておる様だ。
だが、奴らの放つ弾丸は、てんで明後日の方に飛んでいく。
隠身は解けても、この砂煙。
ろくにワシが見えておらんのだろう。
「う、撃つんじゃ無ぇ!同士撃ちに成るぞ!」
「ハハッ、その通り!だが、撃たねばワシを殺れんぞ!」
そう挑発しながら、その男の前を通り過ぎる。
バン、バン!
ワシが上げた声を目掛け銃声が轟く。
だが、そこに、ワシの姿は既に無い。
「ぐわっ!」
断末魔の声が聞こえる。
さっきの男が、仲間の銃弾で命を落としたらしい。
フッ、因果な物だな。




