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自重の必要は無かろう

部屋に入ると、小なベッドが二つ、それと二人掛けのソファ、ただそれだけの粗末な部屋だ。

夕日も沈みかけ、部屋の中は暗い。


ソファの横にあるサイドテーブルにランプが一つある。

当然、灯油などで灯す物では無い。

燃料は魔力結晶。

バーテンからは、使うならば手持ちの魔力結晶を使う様に言われている。


この世界においては、有り触れた物らしいが、ワシに取って初めて見る魔道具だ。

興味が湧かない訳がない。

一応使い方は、さっきジムに聞いておいた。

小さな米粒大の魔力結晶を、ランプの根元に有る小さな引き出しに入れ、ランプに描かれた魔法陣に一度触れる。


仄かな明かりが灯る。

「思いの外暗いな」

これが、普通なのか、単にこのランプの質が悪いのかわからん……。


バラして原理を調べたい処では有るが、まあ、今日の処は自重しておこう。


取り合えず、窓際のベッドに横に成り、少し仮眠をとる事にする。

もし、何か事が起こるとすれば、夜も更けてからだろうからな。



小一時間程して目を覚ます。

まあ熟睡したわけでは無いが、この世界に生まれて、初めてのベッドだ。

疲れは取れた気がする。


一応、他の乗客には出来るだけ外に出ない様には言って有る。

何しろ乗客は女性が多いからな、何かとトラブルに成らないとは限らん。


だが、一応見回りしておく方が良いだろう。

隣のベッドに放り投げた軍帽を冠り、部屋を出る。


二階は、まあ、静かな物だな。

そして、そのまま階段を降りる。


バーの中は先ほどより、少し客が増えてはいるが、流行っているとは到底言えんな。


うん?

あれは……。


バーの入り口の横にあるテーブルを囲んで、四人の男がカードゲームをしておるようだが、その内の一人、見知った顔がある。

「ジム、何をしておるのだ」

「うん?ああ、旦那か。何って見ての通りポーカーさ。ちょっと様子を見に下に降りたら誘われてね」


成るほど、探りを入れるには、そう言う手も有りだな……うん?

それとも、この男、ただギャンブルしたいだけでは無かろうな……。


「で、戦果は?」

ワシの問いに、ジムはテンガロンハットのつばを人差し指でチョンと下げ、目線を隠す。

成るほど、芳しく無さそうだな。


ん!?

何となく、カードを配っている男に目をやると、ジムには手に持った山札の一番下のカードを配っておる。

中々器用に、気付かれん様にしている様だが、ワシの目は誤魔化せん。

で、ジムが手にしたカードは……てんでバラバラだな。

成るほど、イカサマでジムをハメておると言うことか。


その事にジムは気付いて……ハァ~、おらん様だな。

脂汗(あぶらあせ)をかいておる。


当然、このゲームもジムの負けで終わる。


「ジム、ワシが代わろう。このままだと、お前さん、身ぐるみを剥がされるぞ」

「はぁ~、確かに……今日はついてねえ」


ジムに代わって席に着く。

イカサマでカモろうとする輩だ、自重の必要は無かろう。

ワシも、イカサマさせて貰う。


テーブルの下でザミエルの魔法陣を描き、結んだ刀印の指先を胸に押し当てる。

さあ、ゲームを始めようか♪


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