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駅馬車の護衛

翌朝、御者のバリーがワシの元に来る。

「猫の旦那。旦那はこれから何方(どちら)に向かわれるんで?」


「そうだな、何処(どこ)とは決めてはおらん」

何しろ、土地勘が皆無だからな。

「だが、何処(どこ)か町に向かおうかと考えておる」


「でしたら、俺たちと一緒にヌアザかヌーグの町を目指してみては。ヌアザは此処から馬車で四日ほど行ったところにある町なんですけどね。この辺りには珍しく、広大な農地と牧草地帯が有りまして、牧歌的で良い街ですよ。ヌーグの方は、ヌアザから馬車で一日の距離にある結構栄えた町でしてね。蒸気機関車の駅も有るんですよ。もし、更に西の町に向かおうとお考えなら、ヌーグから汽車に乗られると良いですよ」


「わかった、そうしよう。ワシもその方が心強い。だが、生憎ワシは徒歩でな。乗車賃を払って乗せてもらうのはやぶさかでは無いのだが、お前さんの馬車は九人乗り。既に満席では無いのか?」


「ああ、その事でしたら、俺の隣に御者台に、てのでも良いんですがね」

そう言いながら、バリーが街道の方に視線を向ける。


「よう♪旦那とバリー。街道沿いで、草を()んでる二頭を捕まえて来たぜ。旦那なら乗れるだろ?」

盗賊共が乗っていた馬だ。

銃撃戦の後、何処かに逃げて行ったと思っておったが、戻って来たのが二頭いたらしい。


「ああ、多分な」

(あぶみ)には足が届かんだろうが……。


「ん、二頭……お前さんも馬に乗るのか?」

「実家が牧場なもんでね。良い土産に成ると思ってさ。と言っても、コイツも戦利品と考えれば、五分の三は旦那に権利があるんだが……」

「フッ、構わんよ。生きた馬を肉にして分けるわけにも行かんからな。その馬はお前さんの取り分だ」

「ハハッ、感謝するぜ旦那」


「はぁ~、これで、心強いよ……」

「ん、如何(どう)した。この先に何ぞあるのか?」

「ええ、実はですね。最近この辺りはめっきり治安が悪く成ってしまって。本当なら、ここから先ヌアザの町までの間に、何か所か駅が有ったんですけどね。先月、その駅が全て何者かに襲われましてね。しかも、ヌアザに繋がる橋を落とされてしまいまして。それで、迂回してニーリーと言う町を経由しないといけないんですが……この町がまた、柄の悪い連中が多いと言うか……その~……」


「つまり、ニーリーの連中が、この辺りを荒らしてる盗賊団を仕切ってんじゃ無いかって、バリーは心配しているのさ」

「成るほど、ではワシは用心棒と言う分けか」


「済まねえ、猫の旦那。殺されたタッドは、治安の悪いルートを通るからと、警護の為に乗り込んだショットガン・メッセンジャーだったんですがね……昨日、ああなっちまって……。旦那には出せる程の報酬は無いんですが、ヌアザまでの食事と酒は此方が持つという事で、どうですかね?」


治安が悪いとすれば、ワシが一人で旅を続けたとて、この見た目だ、良いカモだと思って襲って来るアホも多かろう。

それに、一晩飲み明かした彼らが、盗賊共の餌食に成ったとしたら、寝ざめも悪い。

「構わんよ。どのみち同じことだからな」


「ありがてぇ、猫の旦那」


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