巨大な戦利品と強敵の正体
閃光で白一色だった世界に、色彩が戻る。
それと同時に、ドス、ドス、ドスッ!と重い何かが地面に突き刺さる音。
特に三つ目の音は一際重々しい。
「ヤツの魔力結晶か……デカいな」
ヤツがもたげていた、鎌首の何処かに埋まっていた物が、バアルの槍で鎌首諸共上空に吹き飛ばされ、落ちて来たのだろう。
さっきまでは枝葉に覆われ、夜空の無い暗闇に包まれていたこの一帯に、月明かりが明るく差し込む。
半径十メートルほどが、円形にくり抜かれたように、辺りの木々の幹や枝葉も吹き飛ばされ、無く成っている。
月明かりに照らされる赤、黒、無色の魔力結晶。
どれも大きく、赤と黒の魔力結晶は、ワシの頭よりも二回り程大きい程だが、特に無色の魔力結晶は一際巨大な楕円形で、高さはワシの背丈より五割増程高く、太さはワシの胴回りより五倍はあるだろう。
「これは、もう岩だな……。どうしようかと悩むまでもない。こいつは、置いていくしかあるまい」
「それにしても、中々の強敵であった。人の身であった前世なら、もっと苦戦していたろう……もっとも、負けていたとも思えんがな」
改めて、その強敵の骸に目をやる。
その長い胴は、暗い森の奥深くまで延び、ここからでは尻尾の先までは見る事は出来ん。
そして、バアルの槍に吹き飛ばされたその断面は、優にワシの背丈の倍はある。
「うん?なんだこれは……足か」
吹き飛ばされた断面のすぐ後ろに、鍵爪を持った、やけに小さな前足が付いておる。
ワシの手よりも遥かに小さい、その申し訳程度の前足全体がワシの手のひらに収まるほどだ。
「こやつ大蛇ではなく、大蜥蜴で在ったか……」
せっかくだ、どれほどの長さがあるか、尻尾の先まで見せて貰おう。
中々、この様な物は拝めるような事も有るまいからな……まさか、この様なバケモノがわんさと湧いてくる世界では無かろうな、もしそうなら……ふふふ、それも一興か。
辺りに振り撒かれた毒を避ける為に、大蛇あらため大蜥蜴の上に飛び乗り、シッポに向かって歩いて長さを計る。
ワシ自身の寸借が分らん以上、正確な長さは分からんが、恐らく二百メートルは下るまい。
シッポの先からの帰り道、何かを踏んだ違和感に立ち止まって、足元に目をやる。
「まさか、羽だと!?」
蝙蝠が持つような膜で出来た小さな羽が、先ほどの前足同様、申し訳程度に付いておる。
「小さいとは言え、鍵爪の有る前足、それに蝙蝠の様な羽を持つこやつは……ドラゴンと言う事か!?羽は退化し飛べるとも思えんが、地を這う竜。差し詰め地竜と言うところか……。前世では魔人と呼ばれ、多くの敵、魔物を屠ってきたが、さすがに竜を屠ったのは始めてだ。ハッハッハ、道理で手こずらされた訳だ」