化け物の姿
ヤツは此処を縄張りにしているのだろう。
これ程の暗闇でも、獲物の居場所の分かる奴にとって、暗闇に包まれたこの森は絶好の狩場と言う事か……ん?
いや、あの火球、当たれば灰に成ってしまう……それでは肉が食えんではないか。
何をしたいのだヤツは?
そう言えば、以前仕留めた六本脚の熊が獲物の魔力結晶を喰っておった。
奴も同様、ワシの腹の中の魔力結晶なり、精霊結晶なりを狙っておると言う事か。
さて、逃げてばかりでは性に合わん。
ダン、ダン、ダン。
放たれる火球から、敵の潜む位置を推測して十四年式のトリガーを引く。
手応えは有る……が、しかしやはり手傷を負わせた反応は無い。
放たれ続ける火球も止まらん。
どうやら、中の刻印の弾倉では、傷も付かんらしい。
未だ数発弾丸が残って居るが、十四年式から弾倉を抜き捨てて、大の刻印の弾倉を新たに差す。
一度コッキングして、薬室に残って居た中の弾丸も捨て、大の弾丸を装填する。
ズドーン、ズドーン、ズドーン。
続けざまに三発叩き込み、素早く大木の真後ろに潜む。
勿論、大木が見えたわけでは無い、ワシのヒゲの違和感が、そこに大木が在るのを教えてくれる。
恐らく、今度の銃撃も命中したはず。
その証拠に、ヤツの火球が飛んで来ん。
だが、やはり手傷を負わせた手応えは無い。
未だ、強い殺気を感じる。
ヤツが撃って来んのは、大の弾丸を喰らって怯んだスキにワシを見失ったのだろう。
それにしても、大の弾丸を三発喰らって、斃せない敵だと……。
一度、ヤツの姿を拝んで見たい物だな。
これ程の強敵、この緊張感、血が滾る。
フフフ……、一体どんな化け物とワシは対峙しておるのだ。
成らばその姿、拝ませて貰おうではないか。
ヤツがワシを見失っているうちに、魔法陣を一つ描き上げる。
描くは、ウァサゴの魔法陣。
魔法陣からは、無数の蛍が召喚される。
この蛍どもは、本来隠されたモノを探し出す為のモノだが、今対峙している敵に対してはその必要は無い。
何しろ、デカい敵だからな。
「蛍どもよ、辺りを飛び回り、その仄かな光で暗闇を照らし出せ」
蛍どもが一斉に散らばり、辺り一帯を仄かに照らす。
猫の目は、良く夜目が効く。
ほんの少しの光でも、十分良く見える。
例え、蛍の放つ僅かな光でも。
そして、木の陰からそっと、対峙している敵を覗き込む。
そこには、巨大で鱗に覆われたヤツが、その鎌首をもたげ、炎の様に舌をチロチロとさせておる。