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破壊の女神の加護

「……はぁ!?姉様が拉致られた!?」


色とりどりの花が咲き乱れる庭園ーー地上の人間が天国と呼ぶ場所ーーヴァルハラの世界にて、私はたった今従者からもたらされた情報に声を荒げた。


「姫様、はしたのうございます」


そう私を諫めるのは私の専属メイドのルティ。

赤紫色の髪を腰まで伸ばしたクール系メイドである。


「いやだって、ねぇ?……しかし拉致ってどこに??

……………え?地上??それってもしかして…いや、流石のお人好しの姉様でも流石にそれは………」


「詳しい事は旦那様が存じ上げており、またそのことに関して旦那様がいらっしゃるようにとの事です」


それだけ告げると私に衝撃の報告をした従者は席を離れていった。


「……姫様」


「わかってるわ。父様の所に向かいます」


ルティにそう返事をすると重たい足取りで私は両親の元へと向かうのだった。
































「……はぁ」


あれから父様の執務室に行き、丁度母様もその場にいらしたので家族で事の端末を聞く事になったのだけど。


「………はぁ」


流石にそんな事は…と思った事が現実に起きため息が止まらない。


「エスティア……」


父様、そんなもの言いたげな目でこっちを見ないで。


「流石にため息もつきたくなります。拉致…もとい誘拐など、しかも地上へとなるとまずあり得ないと思っていましたが、まさかのまさか、姉様ご自身の意思で行ったとは…」


そう姉様は拉致……誘拐などではなく、自分自身の意思で地上に降り立ったのだ。

簡単な経緯としてこう。


今地上では大規模な飢饉が襲っているとのこと。

まあこと、というかそうしているのは神様…ひいては父様なのだけれど。

あ、先に言わせてもらうと、これは父様が邪神の類であったり人間なんか滅しちゃえー!とか思ってやっているわけではない。

まあ所謂星単位の調整であり、神様の正式な仕事だったりする訳だ。


ーー神は常に平等であれーーこれはこのヴァルハラでの基本スタイルのひとつだ。

そしてその平等というのは何も人間に対してだけではない。動物であったり植物であったり、時には魔物なんかも含めて星全体でのトータルでの話である。

ただその中でも星の覇権を取って久しい人間はその繁殖力も合わさって、どうしてもその均等を崩す事が間々ある。

そこで行われるのが今回のような調整である。

方法としては今回のような飢饉や嵐などの自然災害、たまに新しい趣向をと、魔物による大規模なスタンピードを発生させたりする。

まあ魔物のスタンピードに関しては他にも色々な意味合いがあるんだけど…。










閑話休題










しかし、人間というのは知性がある故の傲慢故か、それとも必然か、自分達は特別で、神は常に自分達の事を見守り、そして導いてくれるというなんともまあ、素敵な()()()をするようになった。

確かに歴史の中には女神の寵愛を受けた勇者や、神の言葉を聞き、群衆を導く聖女なんかも存在していたりしたのだが……それらも例外なく星単位の調整のひとつでしかたないのだ。そう神様(私達)にとっては普通にお仕事なのである。

今回の事もそうだ。


そのような事を考えながら父様の机に置かれてある聖魔具に目を向ける。

地上の様子を垣間見ることの出来る聖魔具である水晶からは私たちに救いを求める人の姿が多く見て取れる。

確かに平民と呼ばれる階級の人達を見ていれば、思う事がないと言えば嘘になる。

けれど、この状態を引き起こしているのは私たち。そして…いや、だからこそ。()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。


姉様もそれは分かっていたはずだ。現にこのような場面をそれこそ山のように見てきたし、姉様も辛そうではあったが納得はしていた。……なのにだ。今回に限っては地上に降りてしまった。



















あれから他にも数点父様から情報を聞き、私は執務室から退室した。

姉様はなぜ今回のような行動を起こしたのか…答えのない問いを抱きながら、私は先ほどの庭園を当てもなく歩いていく。

そこでふと、何気なく庭園に咲くフリージアの花が目に入った。

この花は姉様の好きな花だ。

当時、輪廻クラスのホームシックに掛かっていた私を庭園に誘い、この花の前で立ち止まり、花の目線に合わせてしゃがみ込み私に対して、大輪…というには少々心許ないけれど、それでも可憐に咲く姿は勇気を貰えるし、素敵なのだと嬉しそうに微笑みながら姉様は語ってくれた。その姿とフリージアの花言葉も合わさって当時の私はとてもそれが尊く映ったのである。

尊過ぎて鼻血を出さなかった当時の私、グッジョブである。

それ以来私はこの庭園がこのヴァルハラで一番好きになった。ちなみにシスコンを発症したのもこの時期である。



しかしなぜ私が家族と共にあるのに輪廻クラスと評するほどのホームシックに掛かったのか疑問もあるだろう。まあそれは日本人なら結構馴染みが深い理由がある。

実は私には神様になる前の記憶ーーー所謂前世の記憶ーーーというものがある。

前世の私は日本の大学生で、特別何かに秀でた人間ではなかった。

容姿はザ・日本人と言うべき見た目だったし、性格はまあ暗くはない方かな?って感じだけれど、間違ってもクラスの中心にいるような人間ではなかった。

趣味は乙女ゲーを中心とした恋愛系のサブカルチャー全般が大好きなちょっと恋に恋する感じの至って普通の女の子だったのだ。


そんな私だが死ぬ間際…いや、死因というべきかな?他の人達とは違っていた。



その日はとても晴れた春の日だったって覚えてる。

私は基本引き篭りなのだが、その日は当時ハマっていた乙女ゲーをコンプした事もあり、珍しく散歩に出たのだ。

近くにあるそこそこ有名でそこそこ大きな公園を抜けてさあ!帰るか!と思った矢先である。

目の端にとことこと可愛さを振り撒きながら道路を渡る子犬が見えたのだ。その光景に癒させれているとーー道路なので当然だがーー向こうからトラックが迫ってきたのである。

問題は、トラックの運転手は眠っているのか、はたまた子犬が目に入っていないのかスピードを緩める事なく子犬に向かって行っている事だろう。


私はもふもふが大好きである。それはもう大の大好きである。

念押しで2回言う程には大好きだ。そしてそんな私は迷う事なく子犬とトラック目掛けてかけて行った。

……結果、子犬は救う事は出来たけれど、自分は間に合わなかったと言うわけだ。


しかし、奇妙な話はそれからで。助けた子犬は実はある神様家族が飼っている神狼でそれに大変感謝した神様家族は自分達の家族にする事にしたそうだったのだ。

丁度神としての役割が空いていたのもあるだろう。

そしてその役目というのが『破壊』だ。

聞いていておっかないでしょ?私も思う。

実際地上でも後ろ暗い連中に好かれているし。

まあ平和を愛する者からは遠ざけられる加護ではあるよね。

うん、まあそれはそれとして。それから私は今の家族の元、転生をして今日まで幸せに暮らしてきたという訳だ。















「はぁ…」


死んだ時の事含め、前世の事を思い出すのはやめよう…。もう戻れない日々に思いを巡らすのも、死ぬ間際の絶望感も、今浸る必要のない事柄だ。


そんな事を考えながら、今日何度目かになるため息をついて私は立ち上がった。


立ち上がった目線の少し先。庭園の真ん中には小さな神殿のような物があり、その中央には父様の執務室にあった水晶が置かれていた。


何気なく私は水晶に近づき、私は地上の様子を眺め出した。

そこには野営をしている集団がおり、しかし決して穏やかな様子ではない。


………あれはオーガ種か。

そう、水晶に映し出されている映像には結構な数のオーガに囲まれて人間側がピンチに陥っている様子が流れているのである。





……





…………





………………







……………………ピーン!





そう!ピーン!ときたのである。


まさに天命。神様の一員である私が使うのも変であるがその表現が正に正しい。


先ほど父様から得た情報と地上の情勢とを合わせた結果、ある事を思いついた!


ちなみに姉様は自力でこちらに帰ってくることはないだろう。なぜなら……

まず、姉様は戦闘能力が皆無である。

人間に姉様を傷つけられる事は出来ないだろうが、また姉様が人間を害することも性格が合わさって無理だろう。

そもそも人間を助ける為に降りたであろう(確信に近い予想だ)姉様が、人間を傷つけるわけがない。


人間側に懇願されれば際限なくそれこそ何百年単位で地上に居続けるだろう。……その結果、神の規約違反に触れ、ヴァルハラ(ここ)を追放される事になろうとも。

それは嫌だ。私がとてつもなく嫌だ。きっと父様も母様も望んでない。姉様は仕方がないですね。って困り顔で苦笑するだけだろうけど、そんな事私が絶対許さない。


……ならどうするか。

簡単だ。姉様が帰って来れない(来ない?)なら私が迎えに行けばいい!


名案だ!

なぜ直ぐに思いつかなかったんだろう?自分の事ながら不思議過ぎる。

そうと決まれば即行動あるべし!

これがバレれば当然父様や母様には止められるからね。


「姫様、ここにおられましたか。………姫様?姫様一体何を!?おやめください!!」


地上に転移する直前、ルティが私を探してこちらに来たけれど、ごめんちょっと行ってくるわ。


ルティの焦った姿久々に見たな、と場違いな事を思いながら私の視界は白く塗りつぶされていったのであった。

































♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢


〜sideリツア〜


油断した。


この状況になった時、真っ先に頭に浮かんだ事だ。

俺達は王族を含めた宮廷貴族の傲慢なやり方、民を民と見ない奴らに国を任せられないと立ち上がった人間だ。

年齢も性別もバラバラだが、皆理想を持って戦ってきた。

ここまでは順調に来ていたが…….。どういう手段を使ったのか奴らは魔物を使って奇襲を仕掛けてきた。

最初は善戦していたが、準備不足と覚悟、さらに単純な戦略差……それらが重なり俺達は追い詰められていった。



……もうダメか。

その考えが頭を過った瞬間、正に奇跡とも呼ぶべき事が起こった。


オーガと俺達の間に眩い光が天から降ってきたかと思うと、そこにはひとりの少女?が立っていた。俺達もそして知性が低いと言われるオーガでさえも惚けていると少女はこちらを振り返り、ニカッと表現するのが正しい可憐でいて、しかしどこか獰猛な笑みを見せるとそのままオーガの群れへと突撃していった。


「ちょっ!?……待て!!」


その行動を見ていち早く意識を取り戻した俺が危険だと止める為に声を上げたのだが、それすらも無駄な心配だと言わんばかりに彼女は縦横無尽にオーガの群れの中を縫って走って行った。

そしてその少女の通った後には等しくオーガの亡骸が出来ていったのである。

そして永遠と思える時間ーー実際はものの数分の出来事だったがーーが過ぎるとそこには先程まで目の前を埋め尽くしていたオーガ達ではなく、無謀にもそのオーガ達に向かっていった少女がひとり、佇んでいたのだった。


絹のような銀色の腰まである艶やかな髪に月すらも霞んで見える金色の瞳はどこか気紛れに人間と戯れる生き生きとした子猫のような魅力を放っている。

胸はその…スレンダーと呼ぶべきか。些か主張は小さいが、体全体は細くバランスが良い。

控えめに言って女神と呼ぶべき美しい少女がこちらを振り返り今度は先程とは全く違う、慈愛に満ちた表情で微笑んでいた。

その笑顔に最初と同じように、しかし確実に違う意味でまた惚けてしまうのであった。





♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎
































さて、父様の情報と地上の情勢を私なり精査した結果、この国ーーイルスワ王国ーーは危機に扮している事がわかった。

飢饉を引き金にし、今までの圧政を

王族を中心とする宮廷貴族に対してクーデターを起こした……。これが今の国の現状である。

そして私が助けた集団にはそのクーデターのトップである辺境伯子息がいたのである。


地上に降りる時に、姉様をいかにして連れ戻すか?私はそれを考えた。

まあ力づくでも私には然程問題はないのだが、それだとスマートではないし、姉様もきっと納得せず一緒に帰ってくれないだろう。

そんな事を考えている時に、水晶からここの風景が映し出され、ピーン!ときたのだ。

姉様を利用しているのは王族を含めたこの国の上の人間だ。

なら今の時勢を利用してその元凶を摘み取ってしまおう!そう考えた。


丁度信頼を得るには抜群のシチュエーションも整っていたというのもあったので自分のそのピーン!を信用してここに来たという訳だ。


「…君は、いったい、何者だ?」


助けた集団は一様に惚けていたのだが、この集団のリーダーらしき男ーーおそらくこの男が辺境伯子息だろうーーが意識を取り戻し、話しかけてきた。


いまだ少し呆然とはしているものの耳が隠れる程の長さの黒髪に、顔に広がる黄金比の組み合わせのパーツはどれも完璧で私は思わず


「やべぇ…乙女ゲーのヒーロー(攻略対象)みたいじゃん。

おまけに君乙のグレイツに激似…」


そう呟いてしまった。


「……オトメゲ??なんだそれは??」


おっとしまった。私とした事が。


「あーと……ごめんなさい。何でもないわ。私()この国を憂う者の1人よ。

……さっきの光?あー、あれは光魔法の応用よ。まあ私のオリジナルだと思ってくれて構わないわ」


多少…というかかなり不自然に思われただろうが、ここは自信満々で答えておく。オドオドしていたら余計に怪しいからね。


「なるほど…わかった。()()()()()()()()()()()()()()それで君は俺達の正体を知っているようだが、どうしてだ?」


納得はしていないが、話を進めようって事ね。思った以上に融通が効きそうね。


「…ふふ」


「……なぜ笑う?」


私が笑うとよりはっきりと不満を表に出して彼は私に問いかけてきた。

がっつく男はモテないよ?


「いえ、可笑しな事を聞くな、と思ってね?

貴方達の正体なら結構有名だよ?民衆からは大分人気で、その民衆からは『救国の黒騎士』って呼ばれてるらしいじゃない?」


私はくすくす笑いながらその事実を告げた。

彼も心当たりがあるのか、顔を少し赤く染めていた。

相変わらず冷たい目をしてはいたが。







ちなみに暗がりでそれが分かるのは女神仕様だからです。





























その出会いから1年が経った。

私はあの後彼等の懐に上手く入り込み革命軍として日々活動している。

……最も、短く、さりとて長かったそれらも終わりを迎えようとしているが。


明日、いよいよ王都へと乗り込み決着を付ける時が来たのだ。


王都を望める高台から私は明日の目標ーー姉様がいるであろうーー場所を眺める。

ここに来るまでにいろいろあった。


魔物のスタンピードや敵との奇襲戦。

時には私の天敵である虫の魔物かわ蔓延る森の中を横断した時もあった。……あの時笑いながら私に虫の魔物をけしかけたこと一生忘れてやんない…。

それに迷子の親探し、なんてのもしたな。


そして何より大きく変化したものは私の気持ちーー・・・



「こんな所にいたのか」


人の気配がするのでそちらへ意識を向けるのと同時に、この1年私にとって聴きなれた声が降ってきた。


「……リツ」


「…お前でもそんな真剣な顔するんだな?」


「失礼ね!私だって真剣に考えることぐらい…んむぅ!?」


リツのその失礼な物言いに抗議をする様に私は彼へ向けて声を発したが全てを喋り切る事が出来なかった。

原因は私に喋りかけてきたはずのリツのせい。


「…ん。………ちゅ」


私は頭が真っ白になる中、うわ、これ私前世含めて初めてのやつじゃん…。もっと雰囲気良い感じの時にしたかった……。なんて事を考えていた、というかそういう現実逃避を無意識にしていた。

そんな私を知ってか知らずか、リツは一度私から離れると今度は触れる程度のモノをして顔を離したのだった。


「…はぁ…はぁ……はぁ………な、なななんて事をっーー」


「知っていたんだ」


「……え?」


私が浮上し、文句を言おうとした時、愛おしそうに、それでいて切なそうに言葉を発した。


「…知っていたんだ。最初から。まあ確信を持てたのはここ数ヶ月くらいの話だがな」


「いったい何を・・・ーー」


「お前が俺達のように国を憂いて戦っていた訳じゃない事も、お前に別の目的があった事も、全部、な」


何を言われたかわからなった……それが最初の感想。続いて息が詰まるほどの衝撃が私を襲った。そして最後には焦燥感。

何か言わなくては……でも一体何を?リツは疑っていた。最初から。そしてここ最近は確信を持っていたと。なら私が何を言っても無駄ではないか。

そう結論に至り私は情けなく下も向いてしまった……それが自ずと肯定を意味するものだったとしても。


………にも関わらずリツは私の頭に手を置き、優しく撫でながらその行為に負けないくらい優しい声で私に語りかけた。


「別に責めてる訳じゃない。お前にはお前の事情がある。俺にも事情があるようにな。ただひとつ。確認する事があるとしたら、お前は俺達を裏切るつもりで最初から・・・ーー」


「そんな訳ないじゃないっ!!!」


私は彼の言葉を遮るように大きな声を上げた。

彼は私の態度に少し目を見開いていたが、それからまた優しい表情になり、そうか。と、だけ呟いた。



それからどれだけの時間が流れたであろう。数時間は経った気がするし、数分しか経ってないような気がする。

顔を上げ、彼を見上げると、偶然目が合い、2人で微笑み合うと言うのを数度繰り返した。

その何度目かの瞳の邂逅の中、ふとそんな彼の表情が強張った。


どうしたのかと首を傾げると、彼は居心地悪気に口を開いたのだ。


「……その、だが。言い難い事かもしれないが。お前のその事情というのはグレイツとか言う奴の事じゃないよな?」


「…….グレイツ??」


………グレイツグレイツグレイツ。・・・あー!君乙の!!なぜリツがグレイツのことを??


…………まさか初対面の時の!?


私がそんな衝撃を受けている中、リツはとても不安そうな顔でこちらを見ている。……その顔は普段の凛々しくカッコいい姿とはかけ離れて可愛く見えたのだった。


「グレイツ、は関係ないよ?というかあれは創作物の中の人物だし!うん、リツは全然気にする事じゃないんじゃないかな!?」


その可愛らしさに思わず笑ってしまったのがダメだったみたいで、リツはそのまま私に顔を近づけてきた。それに驚いたのと、先ほどのことがフラッシュバックし、私は必死に否定の言葉を口にするのだった。


「……そうか。創作物か。それならまあ、まだ許容範囲範囲だな。全く紛らわしい真似をするんじゃない」


そう言葉では語るが、その表情は蕩けるような甘さを含んで微笑んでいた。


私はその表情と先ほどの行為を思い浮かべ


「…………ごめんなさい」


そう口に出すのが精一杯だった。


「別に問題ないさ。だからそんな顔をしないでくれ。

これは俺の個人的な…その嫉妬……だからな。

……だから、明日無事にお互いの成すべき事をやり終えたら、俺の思いを聞いてほしい」


そう彼は呟き、私の額に唇を落とすと、野営中の仲間の元へと去っていった。


「……違うの。そうじゃない。私が謝りたかったのは…。

……ごめんなさい。貴方の気持ちには答えられない。ごめんなさい。ごめんなさい……」


彼の唇が触れた場所を両の手て包みながら私はそう懺悔を繰り返したのだった。





























ーー時刻は朝の5時。

まだ陽は上り切ってはおらず、周りは未だ薄暗い。

そんな中、私達はリツの激励の元、恐らく最後になるであろうその戦いへと赴いた。


私達が向かうのはもちろん王城。

リツ達にとって妥当すべき敵の本拠地、そして私にとって愛すべき家族(姉様)がいる場所。

ちなにみ私の女神的な力で姉様の居場所は確定している。

後はお迎えするだけだ。

そしてその後は………。

そこまで考えた後、私は頭を振ってその考えを思考の外へ追い出した。

今考えるにはまだ早い。今はまだ、何もなし得ていないのだから。


王城に兵は実に簡単に制圧出来ている。

こんな朝早くのしかも王城への奇襲など考えもしなかったのだろう。

……全く時勢を読み切れてない愚か者どもめ。


そんな考えの中、一際立派な扉の前へと到着した。

この部屋は謁見の間だろう。……そしてその中からは姉様の力を感じる。


…やっと姉様に会える!



時間の猶予を与える必要はないと言うようにリツはその扉を蹴破った。……比喩ではなく本当に。

見た目通り結構頑丈そうだったんだけどなー…。


「き、貴様ら…何奴だ!?」


私はその不快な声で意識を現実に戻した。

扉の向こうには王だろうふくよかな男と


「姉様!!!」


そう姉様がいた。


「エスティアちゃん!?」


姉様は私がいた事に驚いたのだろう。

目を見開いてる。

私はその姉様を観察する。

1年前の記憶の時より痩せている。

力も多少落ちているところを見ると想像通り酷使されていたのだろう。


「どうして??」


姉様はなお信じられないという風に私に問いかけてきた。


「姉様を迎えに来ました。さあ、帰りましょう」


私は笑顔で手を伸ばします。

しかし姉様はそんな私に対して躊躇しています。


「姉様…。私達は私達の成すべき事、責任があるのです。それを止め、無闇矢鱈に力を使うのであれば、それは人間にとって毒にしかなりえませんよ?」


そう、今回のこの国の上層部の人間がそうであったように。

彼等は姉様の力を利用し、権力をフルに使った。民はその力の恩恵を授かる為に少なくない代価を支払う事になったのだ。

普通なら代価を払う事もないだろう。

しかし相手はなまじ本物の女神だ。

払わなければ罰が降る事を恐れるし、盲信的に信じて払うものも少なくないだろう。……その後、破滅する事になったとしても。

姉様も思う事があったのだろう。

今度は素直に私の手をとった。


さあ、私達の家(ヴァルハラ)に帰ろう。

家に帰ったら勝手に出て行った事を一緒に両親に怒られよう。甘いお菓子も食べたいな。また一緒に庭園を散歩しよう。


…たがら、だから・・・・・・。


「エスティ!!」



そんな風に私を呼ばないで!!


「エスティアちゃん」


手を握っていた筈の姉様が私の背中を押す。


「…これがきっと最後になるかもしれないでしょう?

だから、ね?」


……姉様。ありがとう。


「……リツ」


「お前、いや貴女様は…」


「今まで通りに話してよ…」


私の正体を知り、態度を変えようとした彼を止める。


「そうだ、な。…ああ。しかし、女神様みただな、って思ったがまさか本当に女神だったなんてな。流石に驚かされたよ」


「ふふっ。女神、といっても私は姉様みたいに優しさ溢れる女神じゃないよ?何せ破壊の女神だから」


私はリツの言葉に笑いながら答えた。


「いや、似合ってるんじゃないか?」


「もう!」


「だって、お前はいつだって俺達の絶望を破壊してくれた。

最初に会った時、俺達の死の運命を破壊してくれた。もうどうしようもないって自暴自棄になりかけた時、それがなんだってそう言ってその思いを破壊してくれた。魔物に囲まれた時だってあの暴力的な魅力を持つ笑顔を携えてその状況を破壊してくれた。そして何よりーー」


一呼吸後、


「俺の冷え切った心を壊してくれた」


その言葉を聞いて私は涙止めることが全く出来ない。


「俺はエスティ。お前が好きだ!虫が大嫌い所も。普段冷静なくせに大事な場面で天然を発揮する所も、意外に泣き虫な所も!ただの何者でもない。ただのエスティを愛している」


あいも変わらず涙が止まらない。

それでも私は……


「私も、好き。意地悪な所も。カッコつけな所も。それに意外に照れ屋な所も。貴方の全てを愛してる!」


この思いが枯れる前に。この思いが枯れ果ててしまわないように。

私に出来る最大限の祝福を。


「……だからこそここでお別れだよ?




そして私は見守る者として貴方に祝福を与えます。



貴方の敵対する者に破壊を…。


貴方を苦しめる病の元に破壊を……。


貴方の導くこの国の明るい未来を阻む全てに破壊を………。


この私、破壊を司る女神、『エスティア』の名において貴方に祝福を授けます」




私のその言葉と共に世界に銀色の光が喜びを伝える様に舞い踊った。


そしてその光の中。私達姉妹はこの世界(地上)から姿を消したのだった……。





























ーー数年後。



「エスティアちゃん、また地上を観てるの??」


そう言って私に話かけてきたのは今日も麗しい姉様である。

…ただその発言には物申すけれど。


「姉様。発言の訂正を求めます。私は言われるほどの頻度で観てはいません。それに姉様の方が観てるでしょ?」


「はいはい」


私は必死に抗議するも姉様はそんなのどこ吹く風。

くすくす笑いながらまた庭園の方へと歩を進めた。


「ちょっと姉様!適当にあしらわないでください!」


私はそんな姉様を追いかけてかけていった。

これが私が待ち望んだ平穏だ。昔のような。

いや、昔と違う部分もある……。




















地上を写す聖魔具の水晶にはとある国のとある式典の模様が映し出されている。


そこには民を救わんと声を上げ、悪しき権力者を打ち倒し国民からの絶大な支持を受ける青年王が写っていた。




そして、青年王は語る。我等の平和は破壊の女神によって未来永劫守られていると。





その演説を見ていたとある国民は後に自分の家族にこう話したという。

その王の姿は、偉大な女神について語るのではなく、まるで唯一愛すべき恋人について語っているようだった、と。










〜fin〜

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