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その2 相棒の憂鬱と双子の戦い

空はすっかり濃い夕暮れとなり、夜の始まりも顔を覗かせていた。

グレーのパンツスーツに、ヒールの低い黒のパンプスといったいかにも「仕事終わりのママ」スタイルで、歌子は目的の「ほんわか保育園」へ到着した。

脱兎のごとくママチャリで疾走した為乱れた髪と、呼吸を整える。


園の時計に目をやると、17時53分になった所だった。

変身時は14歳に戻り、さらに魔法により強靭な肉体へと変化するため疲れ知らずだが、ノーマルな状態では確実に老いを感じる。

30歳からはさらに老いを感じると周りから聞いたことがあるが、まだ20代後半で自分はこうなのだから、数年後の自分はどうなるのか先が思いやられる。


「すいませーん!!お願いしますー!!!」

「はーい!お疲れ様です、お待ち下さいねー!」


気力で馴染みの保育士に声をかけた。


間に合った・・・。しっかしあのクソガキめ・・・。


安堵したのと同時に、この事態を招いた張本人に対し再び怒りが混み上げる。

今日はトントン拍子で仕事が終わり、何なら迎えに行く前にスーパーにだって寄れそうだったのに。

こういう時に限っていつもいつも現れるのだ。

いっそわざとなのか?力で敵わないとみて姑息な嫌がらせを繰り返して精神的に追い詰めるとか・・・だとしたら一定の効果は出ている。

今回で懲りてくれればいいのだが、おそらくまた来るだろう。

思わず拳を強く握りしめて奥歯をぎりっと噛み締めた。


(歌子からまた負のオーラが出てるヨン・・・ここ、怖いヨ~ン。)


歌子のスーツのポケットでキーホルダー化し、潜んでいたダヨンがただならぬ何かを感じ取ってマナーモード状態になっていた。

長年の付き合いだが色んな意味でどんどん「強く」なっていると感じる。

世界平和を目的としてまさに無双状態の今、そこに何の心配もない。


しかしなんと言うか・・・時々その強さが恐ろしくもなる。

魔法少女になりたての頃の純朴さと、謙虚さ、自分を頼ってくれる可愛らしくも、儚いあの子は一体どこに行ったのか・・・。

今うっかり地雷を踏みぬくような真似をすれば、文字通り命の危機を感じる。


歴代の魔法少女の中で強くなる実力も才能も歌子がダントツだ。

慢心は隙を作りかねないので、本人には伝えていないのだが。

結果としてここまでの強さを誇っているので、自身の導きは正しいと思いたい。

思いたいのだが、


(もう少し魔法少女らしく振る舞ってくれてもいいんじゃないかヨン?!今のメロディは魔法少女というよりもまるで女帝、暴君、絶対支配者・・ぐえぇ?!)


(ちょっとダヨンっ、何してるのよじっとしててっ・・・!)


異変を感じた歌子の手によってダヨンの心の訴えは本体ごと握りつぶされた。

その時バタバタと足音が聞こえてきた。


「ママン!!!!」


天然パーマのようなふわふわのセミロングで栗色の髪、ややたれ目でその瞳は大きい。そして誰が見ても将来美人になるだろうなという印象を受ける。

そして向かって右耳の上辺りに水色の小さなオーガンジーのリボンをつけていた。


「ゆき~!ただいま。」

「本日もお勤めご苦労様なのだわ~ゆきはいい子にしていたので、ハグからのなでなでを要求するのだわ~。」

「はいはい、おいで。」


愛乃雪花(あいのゆきか)、歌子の愛娘であり現在三歳。

一体どこで覚えたのか、大人のような言い回しとゆったりとした癖のある話し方だった。

靴を履き替え、上靴もきちんと下駄箱にしまい、広げた歌子の両手の中に飛び込んで、猫のように目を細めてなでなでを堪能する。

母親に沢山甘えたい所は子どもらしく微笑ましい。


「あれ?ゆずちゃんは?」

「ゆずはまだお片付けしているのだわ~先生が手伝っていたのですぐ来るのだわ~。」


すると廊下の奥から話し声とバタバタ足音が響いた。

保育士とともに、荷物を持ってもう1人子どもが現れた。


「ママ(うえ)!」

柚子花(ゆずか)ちゃんお片付け頑張りましたよ。」


その容姿は雪花と見分けがつかないほどだった。

違いは向かって左耳の上辺りに黄色のオーガンジーのリボンがついているのと、ややつり目な所だろうか。

背丈も同じで、後ろ姿だけでは区別がつかないだろう。

愛乃柚子花(あいのゆずか)、雪花の双子の妹で、歌子のもう1人の愛娘だ。


「お片付けしてきたの偉いね!ゆずも良い子にしてたのね。」

「当たり前なのだ!さぁハグからのなでなでを要求するぞっ!!」


柚子花はやや早口で答えると、靴を履き替えるのもそこそこに雪花を押し退けるようにして歌子の胸に飛び込む。


「おおっと・・・はいはい、よしよし良い子ね。」


雪花と同じく猫のように目を細めてなでなでを堪能する。


「・・・・・妹よ?」

「・・・何だ姉上よ?ゆずは今至福の時を味わっているのだ!邪魔をしないでなのだ!」

「まぁ偶然なのだわ~今まさにゆきも至福の時を味わっていたのだわ~。誰かさんが邪魔したせいで台無しにされたのだけど~。」

「・・・誰かさんってゆずの事なのだ?!」


あ、また始まった。

直感的に歌子と保育士は悟った。

カーンと双子の中で開戦の鐘が鳴り響く。


「あら~ゆずの事だなんて言ってないのだわ~。強いて言えばギリギリまでおもちゃ出しっぱなしで~上靴も脱ぎっぱなしのだらしがない子の事なのだわ~~。」


「にゃあにー?!やはりゆずの事なのだ!姉上は言い方が意地悪なのだ!!おもちゃはきちんとお片付けしたし、上靴だって今しまおうと思っていたのだ!いちいちうるさいのだ!」


「言われなくともきちんと出来てこそ立派な良い子なのだわ~。あと姉に向かって意地悪とは心外なのだわ~。姉をもっと尊敬するべきなのだわ。」


「姉だ姉だって言うけどそもそもほんの数分、お腹から出てきたのが早かっただけなのだ!そーゆーの()()()()()っていうのだ!」


「タッチだろうとドッチだろうと先は先なのだわ~!ゆきが姉で、ゆずは妹、その事実は変えられないのだわ~!」


「にゃきーーー!!!!だから順番はお医者さんが勝手に出しちゃったからゆずたちにはどうしよもなかったのだ!あ!お腹の中でゆずを押し退けたのだ!その時から意地悪するとは姉を振りかざす資格はないのだ!!」


「にゃにお~?!そんな事してないのだわ~?!強いて言えばお医者さんがゆきに姉として感じとる何かがあったからなのだわ~。姉の星に生まれたのだわ~。だから言うことを聞きなさい、妹よ~。」


「そーいうのを()()()()って言うってテレビで見たのだ!!」


「にゃーんですってぇえええ~~~~?!」

「にゃによう?!」


本当にこれは三歳児の喧嘩なのだろうか。

暴君なんて一体どの番組でやっていたのか。とかくこの「どちらが先に生まれたのか」論争は二人の中で譲れない何かがあるらしかった。

正直どちらでも良いのだが、わざわざ二人の地雷を踏む必要はないので、歌子が深くその話題に触れることはなかった。

双子ちゃんって見る分には可愛らしいですよね。

実際に子育てしている方々は本当に尊敬します。


次回旦那が出てくる予定です。

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