その1 新たな敵と日常
時刻は17時を少し過ぎたところで、帰路につく多くの人々が街にいた。
「ソレ」はそんな人々の足を止めるかのように、突如として海上の空に現れ巨大な影を水面に落としていた。そしてゆっくり街へと向かっていく。
「何だあのでっかいタコはぁぁぁぁ~~?!」
誰かが叫んだ。そう、「ソレ」はまさしくタコだった。
タコが何かを知っている人間ならば、100人中100人が「あれはタコです。」と答えるだろう。
しかしタコにしては巨大すぎる事、そのボディもすでにゆで上がっているように赤く、さらにくりんとした可愛らしい目玉がついていて空を飛ぶ等、様々な矛盾がそこにはあった。
そしてよく見るとそのタコの頭上には人影が一つあった。
「さぁ!オクチャン!今度こそあのおばさんを叩きのめすのデス!!」
「オクトーン!!!」
その人物に呼応するようにタコが叫んだ。
声の主の年齢は15、6才ほどだろうか。赤と黒を基調にした所謂ゴスロリファッションに身を包んでいた。
そして同じく赤黒のヘッドドレスの横から小さな角が顔をだしていて、バラモチーフのシルバーアクセサリーが巻き付けてあった。
どうやら先程「おばさん」と呼んだ人物に用があるらしい。
「・・・誰がおばさんよ?クソガキ。」
「ーひっ?!」
・・・気配が、なかった。
しかし確実にその人物は今、少女の耳元に悪態をつき、両肩に手を置いている。
驚きと恐怖で硬直する中、何とか目線のみをゆっくりと音を認識したほうへ向けると、天使のような柔和な笑みを浮かべた人物がいた。
ーあ、これやばいやつだ。
少女の本能が瞬時に警鐘をならすのがわかる。
そこにいたのはまさしく目的のおばさん・・もとい魔法少女メロディだった。
「・・・聞く耳持たないクソガキさん?17時以降は来るなって前いったよね?」
「メロディ、落ち着くんダヨン?!魔法少女の台詞じゃないヨン・・・。」
「うっさい!!!人の言うこと聞かないクソガキが悪いんでしょ?!」
ー痛っ?!
ダヨンと言い争うはずみで両肩が圧迫され、痛みで体が反射的にメロディの両手を払いのける事ができた。
まだたったそれだけの動きしかしていないのに、呼吸が激しく乱れていた。
「だ、誰がクソガキデスよ?!アタクシにはレヴィアっていう高貴な名前があるデス!だいたいそっちの要望をなんでこのアタクシが聞かなきゃなんデスか?!何時に来ようがアタクシの自由デス!!!偉そうに指図すんなデス、このエセロリおばさん!!!!」
よし、言った。言ってやった。出だしは噛んだけどまぁいい。
さらに指まで指してやった。ザマミロ。
レヴィアは心の中でメロディを見下す事に成功した。
メロディは静かにうつむいて反応しない。
「クスクス、正論過ぎて何も言えないのデス?!さぁ、今日こそ・・・」
ピアノの音が、聞こえた。
ちょうどドからドまで、流れるようにワンオクターブ分。
「へあっ?!」
「オオオ、オクト?!」
さっきまで安定していた足元が急にぐらつきだした。
さらに大きめの「何か」が高いところから落ちたような轟音が僅かな時間差で8回響いた。まだ海上だったので、反動で高く水しぶきが上がった。
タコ本人(?)も自身に何がおこったのか理解出来ていないようだ。
簡単に言えば、その姿はもう「タコ」ではなかった。
レヴィアがそれを理解した時、頭上から光が降り注いだ。
「・・・・・・嘘デスよね?こんなの・・。」
ゆっくり仰ぎ見ると、そこには優しく微笑むメロディがいた。
巨大な光輝く音符を頭上に掲げ、全ての慈悲を詰め込んだ、聖母マリアよろしくな雰囲気で。
「・・・いいですかクソガキよ。大人は忙しいのです。特に仕事終わりの母親なんていうものはこれからが最も忙しいのです。とにかく時間がないのです。まだあなたは自由なんて当たり前のクソガキかもしれないですが、もっと有意義に過ごしなさいね。いいですかクソガキよ。大人の言うことは聞いておいた方がいいですよ?今度17時以降に現れたら本気でお説教だゾ♪」
「クソガキって言い過ぎダヨン。」
「だから私はレヴィアって名前がデス~~~~~!!!!!」
再び轟音と巨大な光に包まれて、タコだったものとレヴィアは姿を消した。
「ご清聴あざっしたーーー!!!やばい!!時間がない!」
「急ぐんダヨン!今度遅れたらマジで追い出されかねないヨン?!」
「それだけはやばいのよ~!このまま飛んでいきたいぐらいだけど・・・」
「だーめ!私利私欲の為に魔法は使えないんダヨン!」
「・・・・ですよね~~あーあ。」
時刻は17時半間近。
保育園のお迎えのタイムリミット18時まで残り30分ほどだった。
アクセス全然確認できてなかったのですが、4/24現在で累計がまさかの120越えてました!
初心者で更新も遅いのに読んでくださる方々がいることに感謝です。
これからも書き続けていきたいので、よければ宜しくお願いします。
あ、レヴィアはちゃんと逃げたのでまたきます。
次回はいよいよ双子ちゃんが出てくる予定です。