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年間を通じて気候の穏やかなグラルフェーゼではあるが、それでも一応の四季は存在する。迎えた夏の日々は他の季節と比較してやや強い日差しが注ぎ、明るく照る太陽が奥庭の灌木の影を草地に濃く投影していた。
ユーリは型をなぞって振るっていた剣を納め、調息に深く息を吐き出した。少し離れた位置ではレンディットが衣の裾をふわりと広げて地面に座り込んでいる。
ユーリが精霊宮へと赴任してから十日余りが経とうとしていた。此処での生活にも多少は慣れてはきたと思うが、その内の多くの時間をユーリはこの奥庭でレンディットと過ごしていた。
朝の祈りと食事を終えて他に用事が無ければ、レンディットは大抵の場合奥庭へと出掛ける。稀に見回りの守護士の姿が遠くに見える他は普段からほとんど人気の無い場所だがレンディットはそれが気に入っているらしく、いつも此処で静かな時間を過ごしているのだ。
レンディットは白詰草の花を摘んで冠を作っている。ユーリはその様を何とは無しに眺め、休憩がてら草地に腰を下ろした。
初めの内は巫女に倣って大人しく時間を潰していたユーリだったが、最近は此処で剣の稽古をする事に日課にしている。日常何事も起こらないのは結構な事だが、ただずっと巫女の傍に付いているだけの仕事というのは実際退屈なものだった。何より、こう毎日毎日じっといているのでは身体も腕も鈍ってしまう。
幸いな事にレンディットはユーリが隣で稽古をする事を快く許してくれた。淑やかで典雅なその雰囲気からは意外に思えるが、彼女は剣の稽古を見るのが好きなのだという。鈍い自分では絶対にそんな風に動けはしない。だからこそ人が自在に剣を扱っている姿に感動を覚えるのだと、レンディットは言っていた。
「ユーリは凄いですね。剣の流れが綺麗で速くて……ずっと見つめていると、それだけで斬られてしまいそうです」
レンディットが手元から顔を上げる。感心したような言い方ではあるがレンディットは何処となくぼんやりとして見え、本気で言っているのか冗談なのかは今一つ判断出来ない。
とはいえ、一応褒め言葉なのだろう。取り敢えず目礼くらいは返しておいた。こういった素っ気ない態度を取ってもレンディットは特段気にはしない。精々微笑むか、もしくは少し困ったような顔をするくらいだ。この寛容さは主に頂くにあって無愛想を自覚するユーリにはとても好ましい。
続かぬ会話に奥庭には静寂が訪れ、葉風に揺れる灌木がユーリ達に代わってさざ波めいた音を立てて囁き合う。
冠作りに戻ったレンディットは、器用に白詰草を束ねてゆく。細い指が白い花を手折り、束ねてを繰り返し、花冠は少しずつ形を整えていった。
「――うん。もう少しで出来上がるからね」
レンディットの口からは時折独り言のようなものが零れ落ちる。だがそれが独り言ではない事は虚空に向けられたレンディットの楽しげな表情から推測出来た。屡々見掛けられる光景だ。巫女殿の中でも遭遇する事はあるが、どちらかというと奥庭にいる時の方がよく見掛ける。
ユーリには視えない精霊との会話。そうやって極自然に友人との会話を楽しむかのように精霊と話せる事がどれ程凄い事なのか、きっとこの巫女は考えた事も無いのだろう。精霊の巫女とは代々そういったものだと先日女官長に聞いたが、それにしてもレンディットはその傾向が格別顕著なようだ。ネルを除けば同じ人間と話すよりも今のように精霊と語り合っている時の方が余程親しみを持って接しているのではないかと思う。
大方、花冠の完成を待ち詫びる精霊でも其処にいるのだろう。この前も同じような事をやっていた記憶がある。その時はどうやら風精に作ってやったらしく、レンディットが宙へ捧げた花冠は猛烈な突風に攫われ、あっという間に青空の彼方へ飛んで行った。
果たして今回の約束の相手は何の精霊なのか。レンディットの近くにいるのだろう自分には目視出来ない精霊の事を考えていると、右肩辺りにいつもの〝気配〟を感じた。
其方へ目を向けても視界に映るのは木立と石壁と、草花の織り成す奥庭の風景のみ。だが確かに気配は其処に存在していた。レンディットの周りに感じる他の精霊の気配は微弱でよく判らないというのに、この気配だけは意識を遣ればとても強くその存在を感じ取る事が出来る。
「…精霊憑きの中でも、闇精憑きの方は珍しい、って…本に書いてあるのを見掛けた事があります。何でも、人間とは余り波長が合わないのだとか」
ユーリの肩の付近に目を遣り、小鳥のように首を傾げてレンディットが言う。そういう話は以前にも聞いた事があった。気配しか判らない無用の長物の為、自分に憑いた闇精の力が何なのかなど気にしてはこなかったし、これまで意図的に無視してきたが、実際のところ〝これ〟はどのような精霊なのだろう。ユーリは幾許の躊躇いを抱きつつも、思い切って巫女へと訊いてみた。
「…闇精とはどういったものか、尋ねても?」
「ええと、そうですね…。…夜と月とに属し、死に通じる力を持つもの。全てをその闇の帳で覆い隠し、包み込む。そこから転じて隠された真実を抱くものとされ、秘密の守護者とも言われています」
言葉は透き通った声で歌うように紡がれる。しかしレンディットの語調はまるで本か何かの記述を読み上げるかのように上滑りだ。
「……そう、本で読みました」
少々ばつの悪そうな顔でレンディットは出来上がった花冠を膝の上に置いた。それから数呼吸、巫女は言おうか言うまいか悩んでいるように花冠を見つめていたが、やがて独り言でも呟くようにして口を開いた。
「……優しい冷たさと、見守るような傍観。いつもすぐ近くにあって、同時に凄く遠い。…私が感じるのはそんな――温かくてひんやりとした感覚です」
レンディットはユーリからの視線に曖昧な笑みを浮かべた。誤魔化すような、あるいは困った風なその瞳はほんの瞬き程度の内に、いつものにこりと笑んだ表情に変わる。
「……でも、私はその闇精に嫌われてしまったみたいですね」
レンディットは目線をユーリの傍らへ滑らせると、微笑を形作ったままそう言った。
「まさか」
巫女本人の言とはいえど、ユーリには己に憑いた精霊がレンディットを嫌っているなどとはとてもではないが信じられなかった。レンディットは数多の精霊達に深く愛され、日常生活に於いてまでこうやって精霊に囲まれて暮らしているような少女なのだ。驚異的なまでの親和性の高さを発揮するこの巫女を嫌う精霊など、この世にいる筈がなかろうに。
言っている事が少しも理解出来ずユーリは顔を顰めた。微かに俯いたレンディットの顔が不可解な苦悩染みたものを含んで陰りを帯びる。
「私に怒っているみたいですね。そう言われても、仕方の無い事だけど…」
「〝これ〟と話したのですか?」
「はい。今さっき、少し。ごめんなさい、内緒話のような事をして。…その闇精、ユーリの事が大好きなのですね」
いつの間に、というユーリの疑問にレンディットは精霊とは心話で語り合う事が出来るのだと言った。暗い表情から一転、レンディットは微笑ましいものを見るような優しい目をしてほんのりと笑みを零す。
正直、嬉しくはない。邪険に扱っている精霊が己を好いていると聞かされても居心地が悪いばかりだ。場繋ぎにユーリは闇精との話の内容を訊いてみる。けれどレンディットは曖昧に笑むばかりで何を話したのかを明かそうとはしなかった。
レンディットが口を噤んだので話は其処で途切れた。風の囁きばかりが耳朶を擽る静穏に、草を踏む軽い足音が近付いて来る。振り返ると此方もすっかり見慣れた深紅の色が視界に飛び込んでくる。
「よお、お二人さん。仲良くやってるか?」
巫女の身の回りの世話をするのが侍女の主な役目とはいえ、ネルにも他に色々と細々した仕事があるらしい。なのでネルは大概後から奥庭に合流するのだが、今日はいつもより遅いご登場だ。
此処へやって来るとすぐさま地面にどっかりと腰を落ち着けるのがネルの常なのだが、今日はその場に立ったままで一向に座る気配が無い。下手をすれば大の字になって昼寝を決め込むくらいであるのに、どういう訳かネルは座るユーリを見下ろして靴の爪先で地面を掻いている。
「…んー。あのさあ、ユーリ。ちょっと私の相手してくれねえ?」
言いながらネルは来た時からずっと後ろに回していた手を身体の正面に持ってくる。その両手にしっかりと握り締められている物を見て、ユーリは怪訝な目付きで赤髪の少女を見遣った。
「あんただって、一人で素振ってるよりかは相手がいた方が稽古になるだろ?」
ネルが手にしていたのは鞘に納められた二本の剣だった。彼女はその内の一本をユーリに投げて寄越す。試しに軽く抜いてみるが、きちんと研がれた刃を持つ真剣である。
「――本気か?」
純然たる疑問の言葉だったのだが、ネルは違う意味に取ったらしかった。心外だと言わんばかりに少々怒ったような声を出して、ユーリをじろりと見据える。
「んだよ、私じゃ役者不足だってか?慎ましやかな侍女の皮被ってても、ガキの頃からお師匠様にみっちり鍛えてもらってんだぜ」
お世辞にも今のネルの態度は慎ましやかには見えないのだが、それよりもそのお師匠様というのが誰なのかが気に掛かる。もしやと思って尋ねてみると、あっさりとした肯定がなされた。
「ああ、ファルガ様だよ。自分で言うのもなんだけど愛弟子なんだぜ。嘘だと思うんなら――…ああ、レン。その花冠くれねえ?」
ユーリはネルの力量を疑ってはいなかった。寧ろ道理であの体捌きと、先日包丁を突き付けられた時のネルの動きに納得したくらいである。だがネルはユーリが疑っていると思ったらしく証明の手段を講じてレンディットへ言う。
「え?これはこの水精にあげる約束で作ってるもので…木の枝か何かじゃ駄目?」
「探すの面倒臭えだろ。また作りゃあいいじゃねえかよ。材料なんか幾らでもあるんだし、お前ならすぐ出来上がるだろ?」
「それは、まあ…。ええと、いいかな?……渡さないと、力ずくで取り上げられそうだから」
口振りからするに過去には本当に取り上げられた経験があるようだ。レンディットは傍らの空間へ目線を向けて、許しを乞うように囁く。其処にどんな遣り取りがあったのかは定かではないが、先約の相手から許可を得たらしくレンディットは花冠を手にネルに尋ねた。
「いつもの?」
「おう」
ネルが何をするつもりなのか心得ているらしいレンディットが少し残念そうに溜め息をつく。レンディットは花冠を両手に持つとネルへと向かって差し出すように、思い切り放り投げた。
ほぼ同時に、身構えたネルの手が素早く剣の柄へと伸びる。瞬きの速さで鋭い輝きが閃いた。次の瞬間、花冠は空中で斜め真っ二つに両断され、細かい白い花びらを撒き散らせる。
「ファルガ様直伝、ってな。どうだ、相手してくれる気になったか?」
地に落ちた花冠の残骸を見ると、細い茎は実に滑らかな断面を覗かせている。予想以上のネルの腕前にユーリは舌を巻いた。断る気などは更々無かったのだが、これは相手に取って不足は無い。
ユーリはネルの足下に置かれていたもう一本の剣を手に立ち上がった。ユーリの承諾を汲んだネルが嬉しそうににやりと笑う。
「相手をする事は構わない。だが、巫女を放っておいていいのか?」
「おう。心配すんなって。仮に二人して熱中しちまっても誰か人が来りゃあ精霊がレンにご注進するさ」
言われて肩越しに軽く振り返ると、また新しく白詰草を摘み直し始めたレンディットが苦笑染みた顔をした。
「私の事なら気にしなくて大丈夫ですから。ネルは爺様ともそうやって稽古していたので。…あの、付き合わせてしまってごめんなさい」
巫女本人までがそう言うのであれば、本当に大丈夫なのだろう。広い空間を確保する為にレンディットから離れた位置に移動してユーリはネルと相対し、剣を構えた。
「手加減は無しにしてくれよ。本気で相手してもらいたいからな」
「元からそのつもりだ」
相手まで四、五歩の距離で見つめ合い、そのまま数拍を数える。直後どちらからともなく踏み込めば、噛み合った刃が火花を散らした。
突いては薙ぎ、斬り払い、振り下ろす。身を捻って躱し、いなしては受け流す。ユーリの純白のマントとネルの深紅の髪が諸共に踊るように翻る。
ネルは充分に強かった。身が軽いらしく、剣を振るう動きは野を駆ける獣の如く素早い。よくもまあそんな裾丈の長い女官衣で其処まで動けるものだ。などと感心しながらユーリは冷静にネルの動きを観察する。
攻めるに思い切りがよく勢いもあるのだが、その分防御には詰めの甘さが見られる。その欠点は有り余る速度で補われているようだがユーリの眼には既に隙が見えるようになっていた。横薙ぎに振るわれたネルの剣を半歩後ろへ退いて見送り、彼女の剣が此方へ返ってくるまでの一瞬にユーリは己の剣をネルの喉元に突き付ける。
「――っ!?」
細い喉にぴたりと寄り添う鋼の切っ先を凝視しネルが音を立てて息を呑む。落胆に深い溜め息をついてネルは両手を挙げた。
「………参りました」
降参の宣言にユーリは剣を下ろし、レンディットの側に置いておいた鞘を取りに行った。ユーリが近寄るとレンディットは仕上げに掛かっていた手を止め、膝元にある鞘を二つ差し出してくる。
「お疲れ様でした。…二人共、格好良くて羨ましいです」
掛けられた言葉に小さく会釈を返して鞘を受け取る。ユーリは片方をネルの方へと投げ、右手に提げていた剣を鞘に納めた。
「――…ちっくしょーっ!負けたぁー!!」
剣を納めるやいなや、ネルは大声を上げてその場に頭から倒れ込んだ。地面に突っ伏し低く唸るネルの姿は傍目にも非常に悔しそうだ。
「あー、ったく!やっぱり強いな、あんた。確か城の騎士サマにも勝ったんだもんな。そりゃファルガ様が後任に推薦するわけだ」
嘆息し、ネルは腹這いのままでユーリを見上げてきた。
「言っておくが、正式な試合で勝ったわけじゃない」
少なからずの賞賛が込められたネルの眼差しにユーリは誤解の気配を感じ取った。勘違いで妙な尊敬を抱かれるのはユーリの本意ではない。早めに訂正しておいた方がいいだろう。
「あれは向こうが衛士風情と莫迦にしてきたから一戦交えただけだ」
ユーリが騎士と立ち会う事になった理由など、真相はつまらないものなのである。
衛士として城下の見回りに出ていた際の出来事だ。ユーリの幼馴染みである娘が赤の騎士服姿の若い男に絡まれているのを偶然見掛け、彼女が至極迷惑そうにしていたのと男がしつこく言い寄っていた事から仕事の一環として声を掛けた。すると何故か男の方が突然激昂した為に仕方無く伸す事になってしまったというのが話の顛末だった。騎士団長から入団の誘いを受けたのもその後始末の延長に過ぎない。後日部下の非礼を詫びに来た団長がユーリが精霊憑きであるのを見て取りそのように声を掛けてきたというだけなのだ。
「いや、それはそれで迷わず応戦するところが凄えよ…。つうか、あんたそれ絶対その娘の恋人か何かだと思われたんだって。女官達の間、最近あんたの噂で持ち切りなんだぜ?女性とはいえ素敵よねー、とか何とか言ってさ」
心中の呆れを全力で露わにし、ネルはごろりと寝返りを打って仰向けになる。
「こっちはそんな気ねえってのに、『ネルはいいわよね、巫女守様ともお近付きになれて』――なんて言われてさあ。やってられねえよ。外見がいい男に見えりゃあ何でもいいのかね、あのお姉さま方は」
「…成る程。やけに女官の視線を感じると思えばそういう事だったのか」
勿論意識してそう振る舞っているわけではないのだが男性に間違われる経験は多々あり、その事をユーリ自身は別段気にも止めていない。レンディットといる時もそうでない場合もユーリが巫女殿を歩くと通り掛かる女官等が妙に此方を見ているので気にはなっていたのだが、そんな下らない事だったとは考えもしなかった。ユーリなどの容姿の話題で盛り上がれるとはおかしな者達だ。レンディット程の美貌の持ち主であれば観賞に堪え得るとは思うが、自分はそれ程の美形ではないのだが。
「……あんた、鏡とかちゃんと見てるか?興味の無い私から見ても、見た目結構な美男子だぜ、あんた?ま、あんたのそういう頓着しないところは悪くないけどな」
「褒め言葉として受け取っておこう」
すげなく聞こえるであろうユーリの無愛想な返答にネルが声を上げて笑う。気取りも飾りもしないネルの性格にユーリは好感を持っていた。堅苦しい精霊宮の中にあってネルの屈託の無い、さながら活発な少年のようなこの快活さは大分心地が好い。
「よかったよ、あんたがファルガ様の次の巫女守で。あんたみたいな奴なら、もしかしたらさ――」
笑いを収めたネルは瞳を閉じて静かに呼吸をし、胸の内の何かを吐き出すみたいにして呟いた。ユーリは言葉の続きを待ったがネルはその先を呑み込んでしまったかのように口を閉ざした。
少しして目を開けたネルは、にっ、と唇の端を吊り上げてユーリに向かって笑ってみせた。腹筋を使って跳ね起き、草の付いた女官衣を大雑把に叩いて豪快に伸びをする。
「さあて、そろそろ昼飯の時間かな。レン、悪いけど先に戻るぜ!」
「あ、うん!」
呼び掛けられて、今し方泉のへ歩いて行ったレンディットが振り向く。レンディットは泉の側に両膝を突いて屈み込み、新たに出来上がったらしい花冠を水面に向かって差し出していた。
白と緑の色彩を纏う冠が幽かな水音をさせて水面に触れる。花冠はほんの僅か水面をゆらゆらと揺蕩い、静寂に溶けるように水中へと沈んでゆく。常に精霊と共に在る巫女のレンディットやその侍女のネルには日常なのかも知れないが此処に来てまだ日の浅いユーリには、ゆっくりと水中へ消える花冠は不可思議な情景として映った。
立ち上がったレンディットが虚空を見つめ、何かを囁き交わすように小さく笑う。ネルが「じゃあな」と片手を振って巫女殿へと帰って行く。ユーリは精霊と話をしているのであろう巫女の姿を眺め、ふとレンディットの表情が笑顔から少々の戸惑いへと変わっているのに気付いた。
怪訝に思ってユーリはどうかしたのかとレンディットへ尋ねようとする。が、一足遅かった。
「―――え?…わっ!?」
泉の水面が不自然に波打ったように見えたその瞬間、まるで意思を持っているかのように躍り上がった一筋の水がレンディットの腕を掴んだ。異変を察知しユーリ達が即座に走り出すも間に合わず、水に手を取られて均衡を崩したレンディットが泉の中へと倒れ込む。
ばしゃん、という大きな水音と水飛沫とが泉の静穏を掻き乱した。