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精霊と踊る君と  作者: 此島
三章
11/33

「――もう!きちんと話をお聞き下さい!!」

 常日頃からひっそりと静かな巫女殿に突如として少女の怒声が轟く。付近にいた者達が驚いて皆一斉に此方へ視線を向けるが、彼女等は廊下の直中で大声を上げたのが巫女の侍女だと知るとそそくさと目を逸らした。

 辺りの女官達は見ていない振りをしながらも実は興味津々で、ユーリ等三人の事をちらりと忍び見てはこっそりと聞き耳を立てている。掃除の手が半端に止まっている者もいれば、普段ならもっときびきびと歩いている筈であるのにやけに歩み鈍く脇を通り過ぎて行く者もいる。気取られぬようざっと見回してみれば、近くにいた本殿との連絡役の祭司官が繋ぎ役の女官と話すのを中断してまで此方の様子を窺っていた。

「ええと……聞いているつもりなのですが…」

 ネルの剣幕に少し圧され気味なレンディットは申し訳程度に反論を述べる。が、ネルは聞く耳を持たないといった体で語気を荒くしてレンディットへと詰め寄った。

「いいえ、全然お解りになられておりませんわ!夜に私室の窓を開け放したままにしないで下さいと、何度言ったらご理解頂けるのですか!幾ら精霊宮の中といっても不用心が過ぎますでしょう!?」

「……あ、えっと…。ごめんなさい、ついうっかり…」

「うっかりで済む話ではございません。朝、お部屋に起床のご挨拶に伺って私がどれだけ肝を冷やした事か。万が一にも賊など侵入したらどうなさるおつもりなのです?」

 侍女としての口調を維持したままネルは怒濤の説教を行う。レンディットは困り顔をした後でにこりと微笑み、「ごめんなさい」と謝った。全く反省の色の見えない態度にネルが一層眉を吊り上げる。

「っ、巫女様!!」

 怒鳴るネルを見つめながらユーリはよくぞ此処まで化けられるものだと心密かにその演技力を絶賛していた。これだけやれるのならきっと役者にもなれるだろう。ネルは自身の口調や態度の切り替えが非常に素早い。ついさっきまで荒い口調でレンディットを小突いていたかと思えば、次の瞬間にはもう侍女の顔になって即座に仕事に戻ってゆく事が出来るのだ。これはもう一種の才能だと思う。

 とはいえユーリもこうしてただ観劇してばかりもいられない。頃合いを見計らってレンディットとネルの間に片腕を差し挟み、向かいに立つネルを見下ろしてユーリは冷淡に口を開いた。

「そのくらいにしておけ。…巫女様も一応、反省しておられる。そもそもこの精霊宮に忍び込もうなどという肝の据わった賊もそういないだろう。其処まで口煩く言う必要も無いと思うが?」

「一応の反省では困ります!巫女守のユーリ様がそのように巫女様を甘やかされるから巫女様が私の話をお聞き入れ下さらないのですわ!!加えてそのおっしゃりよう、それでは私の方が悪者のようではありませんか!」

 ネルの言うように巫女を甘やかした記憶は何処を探しても無いのだが、この場は甘んじて聞き流そう。

 きっ、と怒ったように眼を細めたネルはレンディットを庇う姿勢のユーリを睨み付けてくる。取り敢えずその瞳を見返しているとネルはややあってから大きく、諦めと思われる種類の溜め息をついた。

「解りました、もう結構です。それでは、私は別に仕事がございますのでこれで失礼致します」

 そう言い残してネルはユーリ等に背を向け、廊下の奥へと歩き去る。侍女らしい淑やかな動作の範疇で肩を怒らせてみせるとは、やはり彼女には役者としての素質があるようだ。半ば本気で考えながらその姿が見えなくまでネルを見送り、ユーリはレンディットと共にいつも通り巫女殿を出た。

 爽やかな緑の香りを含んだ風が奥庭を吹き抜ける。午前の清々しい空気に喬木の何処かから鳥の鳴き声がしていた。

 定位置になっている墓所の真裏に当たる場所まで行き、ユーリは柔らかな草地に座り込んだ。いつもであればユーリは剣の鍛錬をするところなのだが今日はまだそんな気分になれなかった。傍らに佇んだレンディットが虚空と短く言葉を交わして、そっと歌い出したからだ。然程音楽に興味の無いユーリからしてもレンディットの歌には一聴するだけの価値がある。

 紡がれる歌詞は例によって精霊への祈りの聖句。時折何も無い空に向かって笑い掛けながら、複雑に流れる旋律を事も無げに口遊む。足下の緑を揺らす風に急かされるようにして簡単な舞を始めたレンディットは他の場所では見せないような楽しげな表情を浮かべていた。

 目まぐるしく移るその目線から察するにレンディットの周りには沢山の精霊が集まって来ているのだろう。以前、ネルが「あいつはいつでも一人精霊祀状態だからな」と少し呆れたように言っていた事がある。多分あの言葉はこの状態を指すのに違いない。ユーリにも幽かに感じ取れた幾つかの気配。それ等がレンディットの差す手引く手に合わせ、踊るように動いている。

 密やかな歌舞を終えたレンディットは空の中程と視線を交わして笑み、風に踊る草の上に腰を下ろす。

「…見事だな」

 吐息に紛れるように洩らした感想は本音だった。本人にとっては遊び感覚だったと思われるその舞も、巫女としての所作も、ユーリの目からすれば非の打ち所の無い完璧なものとして映る。

 だが、幼い頃からもう何年もそうして過ごしているとはいえ辛くはないのだろうか。女官長やネルといった味方がいるといっても『精霊の巫女』として性別を偽り生活するのには当然様々な困難が付き纏う。結果的にはこうなったが当初の予定では新たな巫女守には全てを隠し通すつもりだったのだから、事情を熟知していたファルガが守であった頃とは比べものにならない苦労を強いられた筈だ。周りもそうだが、レンディット自身に掛かる負担も相当なものだろう。

 レンディットは特に何をするでもなく、周囲に咲く白詰草の花を眺めている。何かに声を掛けられたかのように不意に顔を上げた彼は数度瞬きをして、ユーリの方へと目を向けた。

「あの…、何か?」

「何かとは?」

「いえ、その……ユーリがずっとこっちを見てる、って…」

 どうやら当人はユーリの視線には気付いていなかったようだ。精霊からの注進を受けてそれに気が付いたらしい。翡翠の色の奥底を覗くようにレンディットの瞳を見つめながら、ユーリは声を潜めて尋ねた。

「……巫女としての暮らしを、どう思っておいでです?」

「え?」

 問われてすぐには質問の意図が判らなかったようで、レンディットは小さく首を傾げた。遅れて何を尋ねられているのか理解したらしく巫女を務める少年は言う。

「――仕方の無い事ですから。大変な事もありますが、セレナ女官長が心を砕いてくれますし。……だから、僕よりもネルの方がきっと…辛い想いをしていると思います」

 彼に纏わる真実を知ってから数日が経過しているが、レンディットが自分の事を〝僕〟と称するのをユーリは初めて聞いた。周りに他者のいない時でもそうだったので彼の一人称は元々〝私〟なのだと思っていたが、そうではなかったらしい。本当は常に意識して切り替えて使っているのだろう。

「…ネルは僕が巫女になる事になったから、ああして侍女として傍にいてくれています。あの子は負けず嫌いだから絶対に弱音なんて吐かないけど…僕の所為で大変な苦労を掛けている事くらいは解っているつもりです。それなのに、僕はあの子に何もしてあげられない。……酷い兄でしょう?」

 解っていても少女にしか見えない顔立ちに深い憂いと自責を湛え、レンディットが幾重にも重ねられた衣装ごと両膝を抱え込む。

「兄?」

「…セレナ女官長からお聞きになったのでしょう?僕は生まれて間も無くセレナ女官長のお姉さんの所へ預けられた、って。だから、僕とネルは兄妹のように育ちました。……いえ。両親が亡くなるまでの間、ずっと本当の兄妹だと思っていたという方が、正しいかな…」

 呟く言葉尻は消え入るようなものだった。レンディットは抱え込まれて膨らんだ巫女衣に顔を半分埋める。

「……だから、お父さんとお母さんの他に自分に生みの親がいるなんて、考えた事も無かった……」

 独り言のような言葉。一つ、二つ。レンディットが呼吸だけを繰り返し、長い睫毛が寂しげに伏せられる。

「――…もしよかったら、これからもネルの稽古に付き合ってあげてもらえませんか?あの子、本当は衛士とか騎士になりたがっていたので…。ユーリが剣術の相手をしてくれたのを、とても喜んでいましたから」

 顔を上げたレンディットが笑う。憂いも陰も跡形も無く、まるでそんなもの初めから存在しなかったかのように。

「…構いませんが」

「本当ですか?……よかった。有難うございます、ユーリ」

 微笑むレンディットは客観的に見てとても愛らしく、だからこそ大抵の者は上辺の可憐さに騙されて気が付かないのだろう。ユーリは端からレンディットの造作の美醜など精々偶の観賞用程度にしか思っていない。だからこそ気付く事が出来た。レンディットの浮かべるこの笑顔が、いつ見ても全く同じ作りをしたものだという事に――。

 さながら鋳型に填めて作り上げたかのような〝笑顔〟。例えば人と目が合った時。話をしている最中。レンディットは間々この〝笑顔〟を浮かべる。けれどもネルと話をしている際に彼がこのように笑っているのは一度も見た事は無かった。その辺りの事に留意すればこの表情(えがお)はレンディットが意図的に作っているものだと推測が付く。

 この笑みは恐らくレンディットの作り出した一種の〝壁〟のようなものなのだ。自らの心情を他人に見せない為の、他人と距離を置く為の、笑顔の形を取った防壁。

 ユーリの見つめる先で、精霊に何事か話し掛けられたらしいレンディットは作り物の笑みを消してそれに応じている。精巧な人形のような美貌に浮かぶのは何処となくぼんやりとした、おっとりとした雰囲気の表情。多分、こういった顔をしている時の方が本来のレンディットなのだろう。

 尤もそれを知ったところで然して意味も無い事ではあるが。見出した事実を所詮自分の仕事には関係の無い事と割り切って、ユーリは小さく息を吐き出した。

 さて、そろそろ鍛錬でも始めるとしよう。ユーリは腰を浮かせて立ち上がろうとした。一拍遅れてレンディットがふと墓所の東の角の方を見遣り、言う。

「ラグナー祭司長が来るみたいです」

 これもまた精霊から教えられたのだろう。其処彼処に存在する数多の精霊達が彼の頼みを聞いて周囲の物見役を務めているのだから、つくづく巫女としての才有る少年だ。

 祭司長が此処へ来るのであればまだ鍛錬は止めておいた方がいいだろう。あの男は守護士長とはまた違った意味でユーリの事が気に食わないらしい。何の変哲も無い事柄ですら、彼に掛かればすぐに小言の種に早変わりするのだ。どうせ用が済めば立ち去るのだから、祭司長が用事を終えるまで大人しくしていた方が無難だ。

 間も無くして、レンディットの言った通り墓所の角から精霊宮祭司長を務めるラグナー・ソルヴンがやって来た。他の祭司官等に比べて意匠の細かい白衣を纏い、紋章の入った長い裾を捌いて歩いて来る彼の姿は正しく聖職者といった雰囲気を纏っている。しかし祭司長が此方に近付いて来るにつれ、その印象は徐々に薄らいでくる。彼が酷い渋面をしているのがその原因だろう。

 ユーリ等まで数歩の距離の所まで来て立ち止まった祭司長は少しも心の無い形ばかりの礼をレンディットに取った。鳶色の瞳に浮かんだ不機嫌を隠そうともせず、神経質そうな顔立ちには不満の色が濃く映し出されている。

「毎日毎日飽きもせず奥庭で遊んでばかりいて…。それではいずれ墓所入りを果たされた際、先の巫女様方から安らかなる眠りの妨げをなさった事に対してご叱責を受けるのではございませぬか?」

 声に滲むのは明瞭過ぎる侮蔑。突っ慳貪な態度も然る事ながら、言うに事欠いてよくもまあそんな台詞が吐けるものだ。これが祭祀に於いて巫女を支える役目を司る祭司長の言葉かとユーリは眉を顰めた。レンディットが次なる巫女の候補に挙がった当時、最後まで頑なに反対していたのがこの祭司長だったとは聞いているが、その所為でレンディットの事が気に入らないにしても行き過ぎだろう。代々巫女の婚姻相手は当代の祭司長が選ばれる事が多いと聞くが、レンディットが本当に女性であったなら、二十以上も年の差があるこの陰険極まりない男が将来夫となっていたのだろうか。現実には起こり得ぬ事とはいえ、想像の中だけでも十二分に不憫に思えた。

 看過するにはきつ過ぎる言い様に守としてユーリは祭司長を一睨みする。だが祭司長はユーリへなどは目もくれず、座ったままのレンディットを蔑むように見下ろした。

「巫女様に巫女殿で大人しくお過ごし頂く事は疾うに諦めましたが、しかしこういった用件のある際には是非とも巫女殿の方でお待ち頂きたいものです。私とて暇な身でありませぬ故、要らぬ無駄足を踏まされるのはほとほと遠慮させて頂きたいものですので」

「…あ、ええと……すみません」

 大仰な溜め息と一緒に吐き出される祭司長の嫌味は隣で聞いているだけで気分が悪くなった。レンディットが祭司長を見上げる顔にあの笑みが浮かんでいない辺り、言葉だけの謝罪ではないのだろう。だが祭司長に対してレンディットが謝るべき事柄などがあるとはユーリには思えなかった。寧ろ祭司長の方にこそ謝罪させ、その無礼な態度を改めさせるべきなのではなかろうか。

 祭司長はレンディットの謝罪にさえも不満を感じているようで、少しも表情を和らげる様子は無い。何故自分がこのような事を、という気持ちが表れている動作で懐の隠しから一巻きの書類を取り出しレンディットへと甚く億劫げに差し出して来る。

「お話のあった件の同行者の名簿です。出立はご希望通り明日。此方からは高祭司官一名と祭司官四名を派遣致しましょう。護衛の守護士達については同行予定の守護士長殿が選抜して下さいました。……全く。突然シュリス湖へ出向かれたいなどと、このような我が儘は出来るだけ控えて頂きたいものです」

「あ、はい…。どうも有難うございます」

 礼を言ってレンディットが書類を受け取ると、もう用は済んだとばかりに祭司長は聖衣の裾を翻した。普通は手渡した物を巫女が確認するまで待つものだろうに、つまりは異議は認めないという事だ。これではどちらが上なのか判ったものではない。

 見ていると嫌気が募りそうなのでユーリは去り行く祭司長の後ろ姿からさっさと目を逸らした。祭司長とは逆方向にいるレンディットへと目を遣ると、彼は受け取ったばかりの書類を開いて中身を確認している。

「……こんなに付けてくれなくてもいいのにな」

 ずらりと記された名前の数々を見てレンディットが困った風に呟く。

「巫女が外出するなら当然なのでは?」

 安全が確立されている精霊宮の中ならばともかく、近場とはいえ巫女が外出をするのであればこのくらいの警護は当たり前だろう。一枚の紙面に書き連ねられた二十名近くにも上る守護士達の名に目を通し、ユーリは顔を顰めながらもそう言った。

 巫女の外出には無論巫女守であるユーリも同行する。なので筆頭に記されたバルテス・クーガの名を見ると若干気が滅入った。本来守護士長という役職は精霊宮の警備を司るものであり、巫女守がいる以上は態々彼が同道する必要は無いのだ。要するにユーリを護衛役として信頼などしていないという意識の表れなのである。道中で無駄に言い掛かりを付けられそうな予感にユーリは辟易とした。先程の祭司長の言ではないが、それこそ守護士長殿には精霊宮で大人しくしていてもらいたいものだ。

「一度巫女殿へ戻りましょう。それを女官長に渡して来なければ」

「あ、はい」

 ユーリは一足先に先に立ち上がり、レンディットが書類を巻き直してから右手を差し出す。仮にも自分は守の騎士であるのだからこのくらいの事は当然だろう。だがその行動にユーリの主である筈のレンディットはきょとんと瞬きをした。

「……あの?」

「お手を」

「…え?…あ、はい」

 レンディットは差し出されたユーリの手を緩慢に取った。此方の意図を理解して返事をしているのか、いないのか。ぼんやりとした表情からはどうも判断が付かないが、こういう扱いにはファルガで慣れているのではないのか。ファルガはユーリとは違い元々騎士団の人間であったのだから、孫のように可愛がっていたとしても巫女であるレンディットには騎士として礼を尽くして接していただろうに。

 加減をしながら手を引いて、ユーリはレンディットが立ち上がるのを手伝った。有難うございます、と小さく礼を言うレンディットに会釈だけを返し、彼が先を歩けるよう脇へ退いて道を開ける。

「…あ、気を付けないとネルに怒られる」

 帰途へ足を踏み出そうとしてふと思い出したらしく、レンディットは付着した汚れを払う為に巫女衣の裾を軽く叩き始めた。前屈して裾に付いた草の切れ端を落とす仕草は外見はさておき、優美な巫女というよりはどちらかというと少年らしく見えた。

 流石に裾を払うのを手伝うのは子供扱いで却って失礼に当たるだろう。ユーリは一瞬悩みはしたが思い止まった。

 一旦手を止めて草の切れ端などが付いていないかを確認したレンディットはもう一度軽く汚れを叩き落とし、上体を起こしてユーリの方を見た。

「……ユーリは、変わった方ですね」

 自分の何処にそのような感想を抱かせる要素があったのか、甚だ謎である。惚けたようにそんな事を言われてユーリはレンディットへと意味を問うた。

「何がです?」

 レンディットは困惑するように首を傾げ、僅かに思案げな顔になる。

「ええと、その……本当の事を知る前と後で、態度が全然変わらないから…」

「…?何か変える必要が?」

 男だろうと女だろうと、仮にも相手は正当な巫女なのだ。ならばレンディットに接する当たって此方が取るべき行動自体に差異は無い筈だが。ユーリにはレンディットが不思議がる意味が本当に解らなかった。

「いえ、あの……そういうところが、やっぱり変わっていると思います」

 一人で何かに納得したように言ってレンディットは仄かに顔を綻ばせた。何となく嬉しそうに此方を見上げるその微笑みは件の笑顔とは違って淡く、すぐに掻き消えてしまいそうな妙に儚げなものだった。

「――…あの。色々ご迷惑をお掛けして申し訳ありませんが、明日の外出の件…ユーリも、どうぞよろしくお願いします」

「それが務めです」

 律儀にも頭を下げてくるレンディットの、緑掛かった長く美しい銀糸のような髪が肩からさらさらと流れ落ちる。大分見慣れてはきたが、やはりこの珍しい髪色が浮き世離れしたレンディットの容姿に拍車を掛けている気がする。

 まあ、常人と掛け離れているのは何も外見だけではないようだが。

 この少年はある意味では鬱陶しい守護士、祭司の両長よりも扱い難いのではないかとユーリは思い始めている。

 本当は男で、国王と同格の最高位に座する割には一々臣下に頭を下げ、加えて不可解な思考を持つこの巫女に変人だと称されるのは、実に何とも言えない心持ちがした。

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