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貴方に捧げる永遠(とわ)のアイ  作者: 桜庭しおり
第一部 愚かだったわたくし
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004 王子兄弟の交渉

毎度毎度更新遅くてすみません…

「ぬ、抜け駆けはズルいぞカイト! 俺もアシュリナに行ってみたい!」

「抜け駆けでも、遊びに行くのでもありません、兄上」



 カイトは溜め息を吐き、ちらりとわたくしに視線を向けてからお母様に視線を戻した。カイトに冷たくあしらわれてエドは不満げに頬を膨らませている。



「アシュリナは我が国以外にも多くの国と国交があります。当然、今回の建国祭には彼らも招かれて居る筈。参加者のリストの中にはヴァルティアの名もあったのではありませんか?」



 カイトがお母様を真っ直ぐに見据えてそう言った。お母様が小さく息を零す。当たっていた、という事なのだろう。



 わたくしは自分が情けなくなってしまった。

 カイトに言われるまで、当然考えられるだろうその事態が全く頭に浮かんで来ていなかったのだ。



 ヴァルティア……ヴァルティア王国は、我が国エウリュアレ神国と敵対関係にあるいわば敵国だ。彼の国の建国には我が国が深く関わっている。

 我が国の民は、ほとんどが彼の国の人物……特に貴族の者たちを嫌っている。未だ彼らを″裏切り者の一族″と呼んでいる者は多い。特にそれは貴族に顕著だ。

 そして彼の国の民もエウリュアレの民の事を嫌っているらしい。我が国と彼の国には国交がないから詳しい事は知らないけれど。



「道中では姉上専属の侍女であるオフェーリアや護衛騎士のリオンが一緒かも知れませんが、会場内までという訳にはいかないでしょう。ギルバート宰相だってずっと姉上と共にいるのは不可能です。補佐は、宰相以外にもう1人くらい必要になりますよね」



 カイトがそこで言葉を一度区切った。

 わたくしはまだ未熟だ。もう成人も近いと言うのに、カイトの方が圧倒的にしっかりしている。会場内で傍に補佐がいなかった場合、わたくしが何かまずいことを言ってしまうかもしれない。弟に補佐してもらわなければ1人ではろくに外交も出来ないなんて、とても情けない気持ちになった。

 ……わたくしももっとしっかりしないといけないわね。1人でも、色々な事を任せてもらえるくらいに。



「それに私は、ギルバート宰相の後を継いで次の宰相となり、母上や姉上を支えていきたいのですよ。機会があると言うのなら、後学の為にも是非近くでその手腕を拝見したいのです」



 許可を頂けませんか、と真っ直ぐお母様を見つめるカイトを、お母様もまたじっと見詰めていた。本当に行くつもりなのか、今の言葉に嘘はないのか、見極めるように。

 それから暫くして、お母様はふっと息を吐いて苦笑した。



「ええ、構いません。存分に学びなさい」

「…ありがとうございます、母上」



 カイトが許可を出したお母様に小さく頭を下げる。それを見て、我もとばかりにエドも勢いよく手を挙げた。



「俺も俺も! 母上、俺も姉上に付いてアシュリナへ行きたいです!」

「何の為に、ですか?」

「え?」



 お母様の質問に、エドは目を丸くした。まさかそんな事を聞かれるとは思っていなかったのでしょうね。



「何の為に、アシュリナに行きたいのですか?」

「エウリュアレ以外の国を見てみたいのです! アシュリナだったら他国の品物も沢山ありますよね!?」



 元気よくそう言い切ったエドに、お母様はまた苦笑。今が朝餐で座ってさえいなければ、エドの頭にポンと手を置いてやさしく撫で出しそうな雰囲気だ。

 けれど、そんな優しい母の雰囲気は一瞬で霧散した。



「カイトのように明確な理由があるならともかく、好奇心なら許可はだせませんね。人数が多くなる程護衛も大変になりますから、今回は諦めなさい」



「……」



 エドは答えない。何も言いはしなかったけれど、カイトだけずるい、とその瞳が語っていた。



「エドワード」



 お母様が、強めにエドの名前を呼ぶ。それもいつも様に愛称で呼ぶではなく、本名で。エドは一瞬ふるりと体を震わせて、それからいかにも渋々と言ったように頷いた。



「アシュリナには、また次の機会があった時にでも行けばいいでしょう。アリーシャとカイト、ギルがいない間、エドは私の仕事を手伝ってくれると助かります」



「はい!」



 お母様がエドに頼るような発言をすると、先程までの表情はどこへやら、エドはあっと言う間に機嫌を直して満面の笑みで元気良く返事をした。普段お母様の仕事を手伝うのはわたくしやカイトばかりだから、手伝えるのが嬉しいんでしょうね。何だか可愛いわ。

 そんなエドの様子を見て、お母様が小さく笑う。それから、ポツリと静かに呟いた。



「アリーシャもカイトもエドも、もうこんなに大きくなって… …。アルバートも天国で見れなかった事を悔しがっているでしょうね」



 どこか遠くを見るような眼差しでしみじみとそう言ったお母様は、とてもとても寂しそうで。まだ、お父様を愛しているのだなと思った。



 わたくしが2歳の誕生日を目前に控えていた13年前の今頃、馬車の事故で亡くなってしまったお父様。お父様の記憶はほとんど残っていないけれど、朧気(おぼろげ)ながらもとても可愛がってくれた事だけは覚えている。

 カイトとエドがまだお母様のお腹にいて、妊娠すら発覚しない内にお父様は亡くなってしまったから、お父様は自分に息子がいる事を知らない。エドとカイトの2人には、わたくしと違って父親の記憶が全くないのだ。

 貴方にはこんなに立派に成長した息子が2人もいるんですよって、お父様にお伝えしたい。お母様は、新しい王配を迎えるでもなく、1人でわたくし達3人を育てて下さったんですよって。

 寂しそうなお母様の様子を見て、わたくしはそんな事を思っていた。

堅苦しい話はなしといいながら、結局真面目なお話をしてしまう仕事人間なお母様なのでした。笑

子供たちのことはちゃんと大切に思っています。


今回もお読み下さってありがとうございました!

少し前にはなってしまいますが、

『婚約破棄されたので修道女になったら何故か堕天使から溺愛(?)されているのですが。』

というタイトルで新連載を始めました!相変わらず更新は遅いですが、よろしければ覗いて見てやって下さいませ。

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