雨上がりのホイッスル
今朝は雨が降っていた。とはいえ、ざあざあ降りじゃなくて、……そう、まるで思い出したように内緒話をする、そんなポツリとした雨だった。
昼休憩を告げるチャイムが鳴る頃には雨はすっかりあがり、休憩の間に、朝の重たい雲など無かったかのような青空が広がった。体育祭練習という名の魔の五時間めには、運動場にわずかな湿気が残るのみだった。
運動場の片隅に整列させられた僕らに、強い日射しが降り注ぐ。少しずつ短くなる並列へと、体育教師のホイッスルが空を切る。
一足ごとに靴底に纏わりつく、土の感触。鼻腔に舞い込む、その匂い。自分のとも友人のとも分からない足音が、耳に積もっていく。
景色が揺らいで見えるのは小さな蜃気楼か、幻かーー。
ゴールに着いて、膝に両手をついて、背中から汗が噴き出すがままにまかせる。今なら背中で呼吸ができそうだ。
「おつかれ」
短い言葉と共に首にふわり、タオルがかけられる。目線の先で、細すぎないふくらはぎがくるりターンした。
膝を手で押し姿勢を元に戻すと、声の主はさっさと彼女の友人たちと合流してしまう。
タオル地に染み込んだ、柑橘系の鮮やかな香りが鼻孔をついた。
瞬間。僕の中に夏が始まっていく。
暑いのは日射しのせいだけじゃないーー。