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雨上がりのホイッスル

作者: 銘尾 友朗

 今朝は雨が降っていた。とはいえ、ざあざあ降りじゃなくて、……そう、まるで思い出したように内緒話をする、そんなポツリとした雨だった。


 昼休憩を告げるチャイムが鳴る頃には雨はすっかりあがり、休憩の間に、朝の重たい雲など無かったかのような青空が広がった。体育祭練習という名の魔の五時間めには、運動場にわずかな湿気が残るのみだった。


 運動場の片隅に整列させられた僕らに、強い日射しが降り注ぐ。少しずつ短くなる並列へと、体育教師のホイッスルが空を切る。


 一足ごとに靴底に纏わりつく、土の感触。鼻腔に舞い込む、その匂い。自分のとも友人のとも分からない足音が、耳に積もっていく。


 景色が揺らいで見えるのは小さな蜃気楼か、幻かーー。




 ゴールに着いて、膝に両手をついて、背中から汗が噴き出すがままにまかせる。今なら背中で呼吸ができそうだ。


「おつかれ」


 短い言葉と共に首にふわり、タオルがかけられる。目線の先で、細すぎないふくらはぎがくるりターンした。


 膝を手で押し姿勢を元に戻すと、声の主はさっさと彼女の友人たちと合流してしまう。


 タオル地に染み込んだ、柑橘系の鮮やかな香りが鼻孔をついた。


 瞬間。僕の中に夏が始まっていく。


 暑いのは日射しのせいだけじゃないーー。




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― 新着の感想 ―
[良い点] うわー、すばらしいです。ありがとう
2019/10/17 00:05 退会済み
管理
[良い点] いいですね。 甘酸っぱい恋の始まり。 ヒロインの描写がわずかなところ。主人公の心情が語られていないところ。 この、すべてを書ききらないところが、いい余韻に浸らせてくれます。 素敵でした。…
[良い点]  甘酸っぱさ。  そして、さわやかな想い。  私にもそんな時代があったのですかな?  恥ずかしながら、とうの昔に忘れていた淡い思いがよみがえるようでした。  すべてを書ききらないことで、読…
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