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真田竜  作者: 近藤最上
1/8

一、大阪夏の陣

一六一六年 五月 茶臼山 

真田幸村 四十九歳


「すげえ燃えてる、大阪城」

 幸村は肩まで無造作に伸びるボサボサの髪をかきむしりながらつぶやいた。

 フケがポロポロと赤い甲冑に落ちる。

 大阪城からは巨大な狼煙のような黒煙があがっている。

「ここまでかな」

 幸村が指揮していた軍勢は徳川方の井伊直孝軍、藤堂高虎軍との戦いで全滅し、茶臼山の上には幸村と、その隣りで翼をしきりに舐めている赤い竜しかいない。

 赤い竜の大きさは大木ほどで、翼の所々には鮮血がにじんでいた。

「確か、おまえと初めて会った日も、敵は家康だったな」

 幸村は日本語ではなく竜語と呼ばれる竜の言葉で赤い竜に話しかける。

「ウン」

 赤い竜も竜語で答える。

「リュウ」

 幸村は赤い竜の名前を呼ぶ。

「おまえは帰っていいぞ」

 リュウは翼を舐めるのを止め、幸村の方を見て聞く。

「ユキハ?」

「オレは」

 幸村は視線を大阪城から茶臼山の下に広がる徳川軍に向け、

「家康の首をとる」と答える。

 リュウは幸村の言葉を聞き、一息おいてから答える。

「オレモ」

「いや」

 幸村はリュウの目を見て言う。

 エメラルド色した美しい瞳だ。

「おまえは帰れ。帰るところあんだろ」

 リュウは幸村の目をじっと見返す。

 話す時は相手の目を見て話す。幸村に習ったことだ。

「オレモ」

 その答えに幸村は思わず視線をそらし、下を向く。

「おまえはいつもオレモオレモだな」

 幸村は大きくため息をつくと「いいか、リュウ」とリュウの顔を両手で挟んだ。

「死ににいくんだ、俺は。オレモじゃねえ、おまえは死ぬべきじゃねえ。家族がいるだろ」

 リュウは一言。

「オレモ」

 幸村とリュウは永遠と思われるほど見つめあった。

 先に諦めたのは幸村だった。

「わかった」

 リュウの頭をポンポンする。

「勝手にしろ」

 リュウは嬉しそうに顔を幸村にこすりつける。

「だから、それ痛えんだよ、ゴツゴツしてんだからよ」

 そう言いつつも幸村はリュウの顔を離そうとはしない。

「だから、痛えって」

 むしろ、幸村もリュウの顔に自分の顔をこすりつけていた。

 しばらく二人はそうして顔をこすり合わせていた。

 茶臼山のふもとから銃声が聞こえ、幸村とリュウは音がした方を向く。

「じゃあ、行くか」

 幸村はそう言うと細い身体を軽やかに舞わせリュウの首元に跨った。

 リュウは幸村を乗せたまま嬉しそうに翼を目一杯広げた。

 それは茶臼山に咲いた柘榴の花のようだった。


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