5 私達穴掘りします!
閉鎖されたダンジョンの中で少女はツルハシを構え、狭いダンジョンの壁を見つめていた。
「じゃあー早速ダンジョン掘りますかー。」
【はい。計画を始めましょう。】
そう、彼女の計画とは自力でダンジョンを掘ってしまおうという単純なものだった。
“スキル:ダンジョン作成”を使えば一瞬で思ったように掘ることができるが、魔素も大量に消費してしまう。そのコストを削減するためだ。
「だってーダンジョンマスターって疲れないしー食べなくていいしー寝なくていいんでしょー?もうこれは掘るためだよねー。」
【ダンジョンへの侵入者にいつでも対応するためです。また肉体的疲労などはありませんが、精神的疲労は感じるようです。】
「あー大丈夫ー。辛いことや苦しいことにー耐えるのは慣れてるからー。」
【“スキル:苦痛耐性”が作用するのですね。ならば問題ありません。】
ダンジョンマスターは魔素でできているため、通常の人間のように休息や栄養補給を必要としていない。
呼吸も必要ではないのでこの狭いダンジョンでも酸素不足にならないのだ。
ダンジョンから召喚されたモンスター達も魔素でできているので特に必要とはしていない。
ただモンスターの場合は食事をすることでそこに含まれる魔素によって強化することができる。
そのため好んで食事をするものが多い。
「私が掘ってーなんでも食べるイム助たちが掘った土を食べるー。完璧だねー。」
【特に不備はないと思われます。ただ私はこの場から移動できません。もし何かご質問があれば、申し訳ありませんがここまで聞きに来てください。】
「りょーかーい。」
ケラケラと笑う少女の足元にはプルプルと震えるスライム達がいた。
少女とコアの会話をどうやら理解している彼らは、食事をもらえることを喜んでいるようだった。
スライムは食事をすることで他のモンスターと同じように強くなることもできるが、それだけではない。
多くの食料を取り込むことで分裂し、数を増やすことができるのだ。
なんでも食べ、勝手に増えるスライムは掘った土の捨て場と魔素の節約に悩む少女にとってはありがたい存在だった。
「よいっしょっとー!おーすごいー粘土掘るみたいに掘れるねー!」
【“効果:採掘補助”が発揮されているためかと。】
「たのっしー!!どんどん行くよー!イム助たちもたくさん食べてねー。」
「プルプルー」
高性能なダンジョン産のツルハシを楽しそうにダンジョンの壁に振り下ろす彼女。
そこから崩れた土を我先にスライム達がむさぼっていく。
「オリジナルのためならーえんやらこらー♪もうひとつおまけにーえんやこらー♪」
『ザクッザクッ』
「ぷるぷるぷるっ!」
どんどん道ができていくダンジョンでは少女の音が少し外れた不思議な歌とスライム達の震える音が響いていた。
何時間も十何時間も。
例え疲労がたまらないからと言って、同じ作業、しかもまったく景色の変わらない洞窟の中での作業を続けられるだろうか。通常ならば不可能である。
しかしこのダンジョンマスターの少女はケラケラ笑いながら、楽し気に掘り進めていた。
たまに掘る音が止まったと思うと、ダンジョンコアの所に質問しに来るだけだった。
例えば茶色に変わったスライムを連れて、ダンジョンコアに困ったように質問した。
「どーしよーっ!イム助が茶色になっちゃったー!」
【どうやらクレイスライムと呼ばれる種類に進化したようです。土の扱いがうまいスライムなので、土の消化スピードが上がり、ダンジョンを掘る手伝いもできるようになるでしょう。】
「ほんとー!イム助ーすごいねー!」
「ぷるるー」
ますますダンジョンを掘るのが楽しくなってきたと言わんばかりの笑みを浮かべながら、頼りになるスライムを連れてまた採掘現場に戻って行った。
またある時はキラキラ光る石を手にしていた。
「ねー掘ったら出てきたこれ金色でキラキラしてるけどー金ー?金だったらお金持ちだねー。」
【残念ながら金ではありません。黄鉄鉱です。】
「なんだーじゃあーこの虹色のキラキラはー?宝石ー?」
【こちらは酸化した黄銅鉱ですね。】
「どっちも価値がないのかー。」
自分の期待していたものと違うとわかるとがっかりしたような表情をした少女に、ダンジョンコアは言葉を続けた。
【ただ学のない侵入者をだまして遊ぶには十分な輝きかと。】
「わーまたがっかり大作戦だねー。楽しみー。」
また見つけたらとっとくねーと笑いながらまた採掘現場に戻って行った。
日が変わっても少女の歌は聞こえ続けた。
ダンジョンマスターの喉は枯れないので、掘ってる間ずっと歌っていた。
スライム達は数を倍に増やし、ほとんどのスライムが進化していた。
彼らも日が変わってもずっと食べ続けていた。スライムに満腹はないのだ。
ダンジョンコアはキラキラと光りながらマスターからの質問を待ち続けた。
狂ったマスターによるダンジョン制作は、楽し気な歌とともに進んでいった。
まだそれを人間達は知らない。