2 私達節約します!
出口も入口もない閉鎖された空間。
自身を身代わりと名乗った少女とダンジョンコアのどこか狂った会話はまだまだ続いていく。
「うーん……まずは何からしたらいいかなー?」
【特にご予定がないのでしたらステータスを確認することをおすすめします。】
「すてーたすー?ゲームみたいなやつー?どうやるのー?」
ダンジョンコアの提案に少女は首をこてんと傾げた。
ファンタジー小説などを現代の若者らしく触れたことはあっても、詳しくはないようだ。
【知りたいと意識しながらステータスと唱えてみてください。】
「わかった。えっとー“ステータス”?おっ!?」
コアのいうことを素直に聞いた少女の目の前には半透明な板がポンッと軽い音を立てて現れた。
彼女はいきなり現れた板にオレンジ色の目を輝かせて、後ろや横からも覗きこむ。
個体名:ワリー
職業:ダンジョンマスター
性別:女
[スキル]
苦痛耐性 7
算術 5
格闘術 4
狂化 4
ダンジョン作成 1
ダンジョン管理 1
火魔法 0
土魔法 0
[称号]
妄想者の身代わり
体力バカ
ダンジョンマスター
その板に書かれている言葉を読みながら、彼女は板に触ろうとするが手は板に触れることなく通り抜ける。
その不思議現象にますます目を輝かせた少女はキャッキャッと声を上げて笑う。
「なにこれーすごーいー!」
【ここに書かれているのがマスターのステータスになります。ちなみにこれも魔素で見えるようになってるだけですので、実際に板があるわけではありません。】
「へー魔素って万能だねー。スキルの横にあるのはレベルってやつかなー?この魔法のゼロってどういうことー?」
【はい。お考えの通りスキルの横にある数字はスキルレベルになります。10が最高でそこに達した場合は上位スキルを得られるか、これ以上上昇しないかの二択なります。スキルレベル0は才能はあるが開花していない状態を指します。】
「おーじゃあ魔法の才能あるんだー。ファンタジーっぽいねーやったー!」
無邪気に笑う少女はスキル欄を見て、幸せそうにしていた。
その異常さに気づくことがないダンジョンコアは話を続ける。
【まずはダンジョンの現状について理解していただきたく思います。今度はダンジョンのことを思い浮かべてダンジョン管理と唱えてください。】
「はーいー“ダンジョン管理”っとー。違う板でたー。」
ステータスが書かれていた板よりも一回り小さな板にはこう書かれていた。
名称:名無し
種類:洞窟型
マスター:○○(ワリー)
モンスター:0
トラップ:0
魔素残量:10582【警告!閉塞空間のため自動回復不可!】
「コアさんー警告って出てるけどーこれ大丈夫ー?」
板に書かれていた文字の中で唯一赤く光っていた文字を指してワリーは、少し不安そうな顔をした。
【このダンジョンには現在出入り口がございません。そのため空気中の魔素が新しく入ってこない状態になります。すぐに問題が出るわけではありませんが、将来的には魔素が足りなくなる可能性が高いです。】
「そっかー。入り口を作らなきゃ安心かなーと思ったけど、ダメなんだねー。」
【はい。狭くても人が一人入れるぐらいの外との出入り口が必要です。】
「りょーかーい。」
マスターの不安を解消をしたところで、ダンジョンコアの説明は続く。
【このダンジョン管理というスキルではこのようにダンジョンの現状を確認したり、魔素を消費してモンスターの召喚やトラップの設置を行えます。】
「つまりーダンジョンを作るのには魔素は必要不可欠なんだねー?」
【その通りです。ダンジョンの部屋や壁を作るダンジョン作成というスキルにも魔素を消費します。】
「じゃあー魔素を節約しなきゃだねー。」
ダンジョンコアから自身の体を構成している成分でもある魔素の重要さについて、話された少女は少し遠くを眺めていた。
そして少し経つと大きくうなづいた。
「うん!ワリーは馬鹿だからどうすればいいかわかんない!!」
【申し訳ございません。私も魔素の節約法についての情報は所有しておりません。】
「こういう時は相談だー。ちょっとみんなと話してくるから反応なくなるけど気にしないでねー。」
【かしこまりました。】
彼女はダンジョンコアから少し離れると、固い地面など気にせず横になり目をつぶった。
まるで眠っているかのようにも見えたが、ダンジョンマスターは睡眠を必要としない。
彼女を構成している魔素が時たま揺らいでいることを見ても、ただ眠っているわけではなさそうだ。
彼女の茶色の髪が一瞬白や金色に見えたり、体の大きさすら変わっているように見えることもあるがここにはダンジョンコアしかいない。
ダンジョンコアはマスターから気にするなと言われているので何も言わず、マスターが目覚めるのを待つだけである。
30分ほどたったころだろうか。
魔素の揺らぎが急におさまったと同時にワリーは目を開いた。
「んー。疲れたー。」
【お疲れ様です。ワリー様。】
「おー。それでー相談の結果こうなったんだけどー……。」
目を覚ました彼女はまるで聞いてきたことを思い出すような口調で、ダンジョンコアにダンジョンを作るための計画を話し始めた。
それは先ほどまでの無知の少女が考えたと思えない、よく考えられている計画だった。
【少々細かい修正点はございますが、その計画は可能で有効です。】
「やったー。じゃあこんな感じでダンジョン作ろうねー。」
【はい。よろしくお願いします。】
こうして自覚のない異常なダンジョン制作が開始されるのだった。