20 私達油断されています!
足取りが妙に軽い4人が不気味な道を過ぎた先にあったのは、広い空間だった。
先ほどまでは数えることすらも苦痛になりそうなほどあった像たちは、この部屋には一体もいなかった。
それどころか、何もないがらんとした空間が広がっており、彼らの視線の先には魔法の光でぼんやりと見える次の通路が見える。
この何もない部屋を見て、パッと顔を明るくさせたのは剣士の男だった。
「やっぱりこけおどしだったんだ!!だってここまでもこの部屋もモンスターもいなかったぜ!」
その言葉を聞いて、残りのメンバーも表情を明るくさせた。
ダンジョンの脅威といえば、やはりモンスターである。
トラップなども恐れられているが、タネがばれてしまえば攻略することは難しくないとされている。
いかにダンジョンに潜むモンスターを倒し、かいくぐり、最深部まで生きてたどり着くがダンジョン攻略の肝だと冒険者の中では常識になっている。
まぁ高難易度ダンジョンなどでは、攻略不可能とされているトラップなどいくらであるのだが。
ひよっこである彼らはそんなダンジョンの情報に触れることもなく、派手なモンスターとの戦いの話ばかり聞いて、己もそうなるんだと夢を見ている状態である。
そんな夢を見ている彼らが警戒すべきと思っているモンスターの姿を一回たりとも見ないこのダンジョンを、安全だと勘違いしてもおかしくはなかった。
「きっとダンジョンコアももうすぐね!」
「いや……油断は禁物だ。もしかしたら隠れているかもしれない。」
「しかしこの何もない空間では隠れるも何もないのでは?進めるときは進むべきだ」
一応警戒している短剣使いの男性をみて、騎士の男は苦笑した。
たしかに目に見える場所には何もないこの部屋では、モンスターが隠れる場所すらない。
初めてのダンジョンで警戒しすぎていると思った騎士は、短剣使いに進むように促した。
剣士の男性と魔法使いの女性もさっさと進んでいるのを見て、彼も渋々と進みだす。
「しかし……うわっ!!!」
しかし彼が進み始めてすぐのことだった。
基本静かな短剣使いが急に大きな声を上げたことに驚いた他のメンバーが振り返る。
「どうした!?」
「モンスターが出たの?!」
慌てる彼らの予想に反して、声を上げた男は怪我などは全く負っていなかった。
少し体制を崩したような短剣使いが、気まずそうに顔をゆがませているだけである。
「すまない……急に足元に穴があいてつまづいた……」
確かにそこには穴があった。
しかし落とし穴と呼ぶには小さすぎる穴であった。
直径は15センチほどであろうか、深さは10センチもない小さな穴だ。
穴にはまったとしても彼のようにつまづくのが精々であろう。
声の原因を知って3人は、危険性はないと考え、苦笑した。
「緊張しすぎて気づかなかったんじゃないか?」
「そうそう!警戒しすぎると視野が狭くなるっていうしな!」
「もっと気楽にいきましょうよ」
仲間にそう言われて、彼は何も言い返せず頷くしかなかった。
「……そうだな」
そして彼も大きく息を吐き、彼らのもとへと歩き出す。
もしここで彼が警戒を緩めていなければ、彼らの運命は変わっていたかもしれない。
もしくは彼の『急に足元に穴があいて』という言葉を聞き流さず、注意すれば気づいたかもしれない。
しかし彼らは進んでしまった。
しかも警戒心はなく、パーティ全員が油断しきってしまっている。
もしここの場面をあのダンジョンマスターの少女が見ていれば、こう叫ぶであろう。
「いえーい!!計画どーりー!!」
スライムたちと踊る、謎の勝利のダンス付きで笑うに違いない。
ダンジョンコアも珍しくノリにノって、リズムに合わせて輝くかもしれない。
それぐらいのレベルで彼らは、もうダンジョン側の手のひらの上で転がされているのだ。




