1 私達承認されました!
岩山の中にそれは発生した。
大きな力の持ち主によって、空間が捻じ曲げられ、無が生み出された。
そして、主となるものを待っていた。
暗い空間の中少女は目を覚ました。
「うーん……こういう時はあれだっけー?知らない天井だ。だっけー?」
全く知らないところに知らないうちに移動していたというのに少女はのんびりとした口調で周りを見回した。
そこは洞窟のように見えた。しかし出口も入り口もなく、一辺が5mほど正方形に近い部屋のようだ。
そこには彼女とそれしかいなかった。
「何これー?キラキラして綺麗ー。」
それは部屋の中央に不自然に浮かんでいた。
少女の頭ほどの大きさのガラス玉のようだが、ほのかに発光しているところだけ見てもただのガラス玉ではないようだ。
彼女はそんな不思議な物体に対して、警戒心なく好奇心赴くままに近寄った。
「なんで浮いてるのかなー?光ってるのも不思議ー。
……ーん?っ!!!!」
【魂魄の接触を確認。○○をダンジョンマスターと承認します。】
【“称号:ダンジョンマスター”“スキル:ダンジョン作成”“スキル:ダンジョン管理”を授与します。】
それに触れたことによって、脳内に響く機械音。
しかし彼女はそれにも頭痛とともに流れてきた多すぎる情報に驚いたわけではない。
オレンジ色の瞳を見開いてガラス玉の表面を凝視していた。
「……私が私の姿のままになってるー!!」
癖のあるショートカットの茶髪に、猫のようなオレンジ色の瞳を持つ少女がガラス玉には映っていた。
体を見てみると少女が思っていた体型と違ったようでまた驚いた。
子供のようなちんまりとした印象の体型の彼女は困惑していた。
「なんでーっ?この体はオリジナルのじゃないのー?」
【ダンジョンマスターの問いにお答えします。】
【ダンジョンマスターの肉体は魔素で構築されています。一般的な人類とは異なります。】
「へぇー……あれ?誰がしゃべってるのー?」
【私です。】
じっと眺めていたガラス玉は自分だと主張するように点滅した。
少女は少し表情を変えたが自分の顔を見たときほどではなく、崩れたように微笑んだ。
「へーキラキラ石さんしゃべれるんだー。すごいねー。」
【キラキラ石ではなくダンジョンコアです。】
「ダンジョンコアさんかー。そういえばダンジョンマスターとか言ってたねー。」
【はい。あなたがダンジョンマスターです。】
「そっかーファンタジーだねー。もしかして中にいるとき聞いた魂転移って最近流行りの異世界転移のことなのかなー?」
【“スキル:魂転移”ならばマスターのいう通り世界の壁を超えることもできます。】
「なるほどー。」
少女は知らない世界に怯えることなく、のんびりとコアとの会話を続けた。
どんな答えが返ってきても彼女が慌てふためいたのは、己の姿を見たときだけだった。
「つまりダンジョンマスターっていうのはー、お化けみたいに魂だけの状態なんだねー。魂の周りに魔素っていう空気みたいなのを体に変えてー、人間っぽく見せてるだけで。」
【概ね正解です。】
「体を壊されてもすぐに治せるけどー、ダンジョンコアさんを壊されちゃうとー、体に変えてた魔素が崩れて死んじゃうんだねー。」
【その通りです。】
「急所が1個しかないって素敵だねー。守りやすーい。」
己が人間でなくなったと聞いても、嬉しそうに笑う彼女を普通の人間が見たら狂っていると思われただろう。
しかしここにいるのは、キラキラと光るダンジョンコアだけである。
それはただダンジョンマスターの質問に淡々と答えるだけであった。
「だからーダンジョンマスターはダンジョンコアを守るためにダンジョンっていうおうちを作るんだねー。」
【はい。ダンジョンコアは多くの魔素を保有しているため他の生き物に狙われやすいのです。特に人間にとってダンジョンコアとは大変価値があるものらしいので、よく狙われます。】
「それでモンスターとかー、トラップとかーダンジョンに置いて守るのかー。」
【また、他の生き物を殺すまたは撃退することで、その生き物が持っていた魔素を手に入れることができます。その魔素を使ってダンジョンを大きくしたり、新たに配置したりすることができます。】
「つまり魔素の取り合いっこをするんだねー。頑張るー。」
人を殺せと言われた少女だが、まったく気にした様子はなかった。
むしろ異世界に住む人類に対して興味すら持った様子がない。
ただにこにこと笑いながら、ダンジョンコアの話を自分なりに理解しようとするだけだった。
「とりあえずやること分かったー。コアさんーありがとー。」
【マスターのお役に立てて何よりです。】
「マスターって呼び方かっこいいけど慣れないかもー。」
【ではなんとお呼びすればよろしいでしょうか?】
「あー自己紹介してなかったねー。」
少女は無邪気な子供のように笑いながら、ダンジョンコアを撫でた。
「私はワリーだよー。オリジナルの身代わりとして生活してるんだーよろしくー。」