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15 私達交渉します!

ダンジョンコアとダンジョンマスターの彼女の会話が終わったのを見計らったかのように、聞き覚えのある音が聞こえてきた。


「プルルッ!」

「あーイム助おかえりー!」


少女に頼まれて部屋を出ていたイム助が体を震わせながら、帰ってきたのだ。

その後ろにいるこげ茶色のスライムを見て、少女はパッと顔を輝かせた。


「ちゃんと連れて来てくれたんだねーありがとうー!」

「プル!」

「プルルゥ?」


イム助は任務を達成できたことを誇らしげにし、こげ茶色の方はなぜ呼ばれたのかわからないとばかりに不思議そうな音を出していた。

そんなスライム達と目線を合わせるためにしゃがみ込む少女。


「うんー。いつもご飯作る時のあれー私の手に向かってやって欲しいんだけどーできるー?」

「プルゥー!」

「できるんだねーすごいねー!じゃあちょっと待っててー」


こげ茶色のスライムに何やら確認をとった彼女は、床に転がっている妖精の方に近づいた。

妖精は目をつむり、うめき声すらあげなくなっていたが、胸元が呼吸のために動いていることからまだ生きているようだ。

少女は指でつんつんと妖精をつつきながら、声をかける。


「ねーねー、シロップちゃんー起きてるー?」

「……なんですかぁ……とうとう殺されるんですかぁ……?」


かすれた声で吐き捨てるような言葉を吐く妖精。

だが少女は気にした様子もなくニコニコしながら、会話続ける。


「ううんーどっちかというとー逆だよー」

「逆……?」

「うんー。お水手に入るよー?」

「みっみず!?」


さらっとシロップが一番求めているであろう物の名前を出す少女に思わず大きな声を出してしまう妖精。

そのかすれた叫びを聞いて彼女はこげ茶色のスライムを近くに引き寄せる。


「この子ねーマッドスライムなんだけどーとっても食いしん坊ーでグルメなのー」

「はぁ……」

「他のマッドスライムの子はー普通の土でも食べてくれるんだけどーこの子は泥っぽいのしか食べないのー」

「プルゥッ!」

「でも岩山だからあんまり泥がなくてー困ったマッドスライムちゃんはなんとー!自分で水を作り出してー泥を作れるようになったのですー!!」

「は!?」

【それは本当ですか?】


自慢するかのようにこげ茶色のスライム、マッドスライムを撫でまわす少女の言葉に、妖精だけではなくダンジョンコアまで驚きの声をあげるのも無理はない。

水を作り出すという魔法はもちろん水属性の魔法になる。

そしてマッドスライムは土属性のモンスターになる。

属性が違うのである。

属性違いの魔法を使うモンスターもいるが高位の進化をしたものか、ゴブリンメイジなどの魔法に特化したモンスターになる。


マッドスライムは最弱スライムから一回進化しただけの、雑魚モンスターの一種である。

沼地などに多く生息し、ぬかるんだ地面と同化し冒険者などを転ばせる程度のことしかできず、殺されるモンスターだ。

そんなモンスターが属性違いの魔法を使えるというのは、聞いたこともない事なのだ。


驚いている周りのことなど気にせずに、マッドスライムを撫で続ける少女はしゃべり続けた。


「うんー。水の玉作ってー壁とか地面に当てて泥作ってるよー」

【その情報が正しければ、その魔法は水属性のウォーターボールである可能性が高いですね。】

「プルゥープル!」

「魔力を使って土が出せるならー水が出せないわけがないってー思ったらしいよー?」

「そんな馬鹿な……」


根性論のようなもので今までの常識をぶち壊したマッドスライムに対し、妖精はそう呟くしかなかった。

常識外れのスライム自身は誇らしげに体を揺らしているだけだった。

少女はあきれ果ててる妖精の深緑の瞳を覗き込むように顔を近づけた。


「それでーシロップちゃんー?」

「はっはい!?」


正気の人間とは思えないダンジョンマスターの少女の顔がぐっと近づいてきたことに、妖精は怯えたような表情をする。


「ワリーと取引しましょー!」

「とっ取引ですか?」

「うんーシロップちゃんはお水が欲しいー!私はもっと情報とか知りたーい!」

「えっ……でももう話すことなんてないですぅ!」


先ほどのコアの尋問で持っている情報など全部吐き出してしまった妖精は、顔を青くした。

しかし少女の表情は変わらない。いつも通りの笑顔だ。


「じゃあ集めてきてー?」

「えっ?」

「だからお外に行ってーいっぱい情報集めてきてー?」

【この虫を外に出すのですか?恥という文字を知らなそうなこの小さな脳みその虫のことです。きっと帰ってきませんよ?】

「そっそんなことないですぅ!」


コアの冷徹な言葉に対し、慌てて否定する妖精だった。

せっかく帰してもらえるというのに、その提案をつぶされてしまっては溜まらないとばかりに必死だ。


「大丈夫だよーまたトラップ品使うからー!」


もめている一匹と一個など知らないかのように、彼女はトラップカタログを展開させる。

そして、銀色のシンプルな指輪を召喚した。

その指輪を見て、ギラギラとしていたダンジョンコアの光が安定した輝きに戻っていく。


【なるほど、誓いの指輪ですか。それならばこの虫の頭でも安心ですね。】

「そーなのー!約束破ったりー忘れてたら教えてくれる便利な指輪なんだってー!凄いよねー!」


少女が手にしている誓いの指輪は、ダンジョンでは浅い場所の宝箱に置かれる魔道具の一種である。

この指輪をつける際に約束ごとをすると発動するもので、約束を破りそうな時や約束の期限が迫っていれば

指を締め付け痛みを与える。

そしてもし約束を破った場合は、指輪から呪いが発動し一週間後には死ぬ。

呪いの解除方法はその約束をした相手に許してもらえること。


このような効果のため、人間の間では少し愛の重いカップルや夫婦が浮気防止に使っているようだ。

魔物の間では一個しか約束できないようこの指輪は使わず、つけたものを言いなりにする隷属の首輪の方を多用するものが多い。


ダンジョンコアの光照らされ、キラキラと輝く指輪を妖精に見せつけながら彼女は質問する。


「ねーシロップちゃーん?お水あげるからー指輪つけさせてー?」

「っ……」


このダンジョンの中で死んでモンスターの餌となるか、生きてダンジョンの犬となるか。

そんな残酷な質問を彼女は変わらず笑顔で突き付けていた。

怯えたように息を漏らした妖精は、答えは決まっていたがすぐに返事はできなかった。

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