13 私達尋問しました!
このダンジョン初めての侵入者の尋問という大きな分岐点に彼女たちはいた。
重い空気が流れる中、ダンジョンマスターの少女は子供のような無邪気な笑顔を妖精に向け続けている。
目を覚ましたばかりの妖精のぼんやりとした瞳が、その笑顔にピントが合っていくにつれて歪んでいくのがよくわかった。
「ひぃっ!!」
怯えきった妖精の高い声の悲鳴を聞いて、少女は首を傾げた。
「あれー?どうしたのかなー?そういえば妖精さんに日本語って通じるのー?」
【日本語がどのような言語が存じません。しかし、現在ワリー様がしゃべってる言語はこの辺りではメジャーなヴァルガーリス語ですので、通じるはずです】
「えー私外国語喋ってたんだー。気づかなかったー」
【私に触れた際に基本言語としてインストールさせていただきました。】
「すごいねー。英語の授業とか満点取れそうー!」
この度が過ぎたバカなダンジョンマスターは自分が普段喋っていた言語と違う言語を使っていたことに、半月近く気づいていなかったようだ。
この空気に合わないテンションで、明るく会話している彼女に怯えながらも妖精は自分の現状を把握しようと周りを見回していた。
岩肌しか見えない閉鎖された空間。
石化して全く動かない自分の手足。
自分のことをにらみつけるように見てくるモンスター達。
ケラケラ笑う少女とピカピカ光って喋る石。
自分が生きているということ以外、いい情報を得られなかった妖精は震える声で尋ねた。
「あっあなたたちは誰ですか?」
その声を聴いてワリーは元気よく質問に答えた。
「私はワリーだよー!ここのダンジョンマスターやってまーす!」
「ダンジョンマスター!?あなたが!?」
その答えに心底驚いたような顔をした妖精が大きな声をあげた。
その声にスライムやシャドーラット達は一気に臨戦態勢になるが、大声を出された彼女はまったく気にした様子がない。
ニコニコと笑みを浮かべながら会話を続ける。
「そーだよー。で、妖精さんは誰ー?」
「嘘っ!報告書に傀儡タイプって書いてあったもん!傀儡タイプは無表情だって教科書に書いてあったもん!」
「くぐつタイプって何ー?あとお名前はー?」
「それとも貴女魔族!?人間みたいな見た目の魔族っていたかな?」
まったく話を聞こうとしない妖精に対して、モンスター達の怒りはどんどん増していった。
この反応に基本的に鈍い彼女も、眉が下がり始め笑顔に曇りが見え始めている。
そんな中で一番最初に我慢できなくなったのは、チカチカといつもよりも激しい光で点滅していたダンジョンコアだった。
【ワリー様、この虫はまともに話が聞けないようです。その無駄に長い耳をシャドーラットにかじってもらえば、少しは音が聞こえるようになるのではないでしょうか?】
「そっかなー?そういえばドラなんちゃらも、鼠に耳かじられたんだよねー。そのショックでー体が青くなっちゃったらしいよー。」
「ひぃ!!」
イライラしているダンジョンコアの物騒な発言とワリーの的外れな呟きに妖精は、また悲鳴を上げた。
シャドーラットに噛まれて気絶してた身からすれば、体が青くなるという表現は青白い死体になるところを想像してもおかしくはない。
それに追い打ちをかけるようにシャドーラットのうちの一体が、妖精に近づき威嚇するように短く鳴いた。
「チュッ!!」
「ごめんなさいっ!!話します!!何でも知ってること話しますぅ!!だからかじらないで!!」
泣きながら懇願する妖精に対して、パッと笑顔が戻るワリー。
「よかったー。じゃあ妖精さんのお名前は?」
「シロップと申しますぅ!」
「シロップちゃんかー。甘そーだねー。どこから来たのー?」
「食べても甘くないですぅ!美味しくないから食べないでぇ!あとパピーリィオ訓練施設から来ました!」
いつものペースに戻ったダンジョンマスターの適当な質問の意味を考える余裕などないまま、妖精は怯えながら答え続けた。
もちろん考えたとしても特に意味などないのだが。
小一時間そんな質問と応答を繰り返すとワリーは満足したのような顔で、わかったことを忘れないように声に出し始めた。
「シロップちゃんはーパピーリィオって町からーこのダンジョンを偵察に来たんだねー。でもまだ偵察する妖精さんとしては、見習いさんで不安だったのかー。あとパピーリィオはー果物もおいしいとー。」
「はひぃ。ここはできたばかりだから、お前でも大丈夫だろうと言われてきました。」
「そっかーお疲れさまー。」
「……これで終わったんですか?」
【いえ、私からも質問させていただきます。】
ワリーの適当な質問が終わったと安心しかけた妖精をコアはばっさり切り捨てた。
終るどころか、尋問の内容としてはダンジョンコアの方が本番であろう。
ダンジョンコアの反応を聞いて、妖精の顔は暗く曇った。
自分のことを虫呼ばわりし、耳をかじらせるように提案するような冷酷な光る石から質問されると聞いたら絶望したくもなる。
「まだあるんですかぁ。」
【聞きたいことが山のようにあります。まずはなぜダンジョンがここにあるとわかったのですか?】
「えっとそれはー……。」
【ワリー様。あの妖精の好きなところむしってください。あの羽など好事家に高値で売れますよ。】
「へーオリジナル綺麗なもの好きだしープレゼントしたら喜ぶかなー?」
「やめてくださいっ!話しますから!」
妖精としては命の次に大事にしている羽をそんな軽いノリでむしられると言われては、泣きそうな声で質問に答えるしかなかった。
ダンジョンコアの冷たい淡々とした質問と、妖精の泣きそうな答えと、ダンジョンマスターのケラケラっという笑い声は日付が変わるまでダンジョンに響いていた。
ちょっとプロローグ書き直しました
目線がオリジナル目線に変わってます