10 私達農作業します!
最弱なはずのスライム達の恐ろしい体を震わせる音が響くダンジョン。
その姿を柔らかいまなざしで見つめていたダンジョンマスターは、ふと気づいたように声をあげた。
「あー、鼠さんたちのご飯どーしよー?さすがにイム助達みたいにー土は食べないよねー。」
【ダンジョンモンスターは魔素を利用して生きているので、入り口の空いた今食料に悩む必要はないかと。】
マスターの呟きに適切に答えを返していくダンジョンコアだった。
ダンジョンで召喚されたモンスターはダンジョンマスターと同じく、魔素によって肉体が作られている。
なので一定の魔素が空気中に含まれていれば、食事も睡眠も必要としない。
ダンジョンマスターのように攻撃されてもすぐに魔素で復活できるわけではないが、空気中の魔素が濃ければそこからほんの少し回復するので、野生のモンスターより少々打たれ強い。
また魔素で出来た体は死んでも死体は残らないという性質を持つ。
死体の代わりに体内で結晶化した魔素、魔石と呼ばれるものだけ残るのである。
これを目当てに来る冒険者なども多い。
そんなダンジョンコアの常識的な返答を聞くも、彼女は首を横に振った。
「でもーそれじゃあーイム助みたいに進化したりー増えたりできないでしょー?」
【はい。モンスターの進化や繁殖には魔素のこもった食料が必要となります。】
「でしょー。もしかしたら鼠さんもイム助みたいにすごーい進化するかもしれないしーいっぱい増えたら偵察も楽々だよー?」
【召喚を使わずに戦力追加するというお考えでよろしいですか?】
「うんーそんな感じー。」
のんびりとした声で彼女は言った。
もちろんいつものことながら、少女は深くは全く考えていない。
スライムだけご飯あげてたら、シャドーラット達が可哀そうかもぐらいにしか考えていないのだ。
しかし周りの反応は違った。
ダンジョンコアは魔素をなるべく使わずに戦力を強化しようとする賢い方法かもしれないと実現への道筋を計算し始めた。
スライム達は何と慈悲深き主であろうと体を震わせ感動していた。
「鼠さん流石に土は食べないよねー?」
【土を食べるのはスライムと一部のモンスターだけですね。魔素の含有量から考えると人間の死体でもあれば、一番効率がいいのですが。】
「一人あれば鼠さん全員お腹いっぱいになりそうだねー。」
人の死体に群がるシャドーラットを想像し、ケラケラと笑う少女。
どうやらモンスター達が人肉をくらうことに対しての嫌悪感はないようだ。
【ダンジョンの外の環境を考えると、外部からの食料調達は難しいと考えます。】
「岩も食べられないもんねー。」
【安定した食料調達を可能にするには植物系モンスターを召喚し、その一部をシャドーラットに与えればよいかと。】
「あー農業だねー!なければ作ればいいんだねー!鉄腕系だねー!」
ダンジョンコアの提案に納得したのか、楽しそうに同意した少女は、さっそくモンスターカタログを開き検索を始めた。
「えーとー“植物系”でー“食べられる”っとー。結構いるー。コアさんアドバイスあるー?」
【そうですね。このダンジョンの広さから考えると、樹木系のモンスターはあまり適さないと思います。】
「あー天井ちょっと低いもんねー。じゃあこれどうかなー?トラップビーンズー!」
【トラップビーンズの豆は毒性もなく、食用に適しています。シャドーラットのエサにはちょうどいいかと。】
ダンジョンマスターが選んだトラップビーンズは野生では深い森の中に生えてるモンスターである。
近くを通りかかった小動物などをそのツルで絞め殺し、栄養とする肉食植物で、危険を察知すると硬い豆を飛ばしてくるのが特徴だ。
人間を絞め殺すほどの力はなく、豆も当たってもあざになる程度の威力なので危険度は低い。
栄養価の高い豆は森を探索中の冒険者の貴重な食料とされている。
「通路にびっしりツルが覆うようにー豆を植えたらダンジョンぽくってかっこいいと思うんだー。」
【トラップビーンズは召喚した場所に植えられるので、植えたい場所でどのように植えたいかを想像しながら召喚することをおすすめします。】
「りょーかい。じゃあ最初の部屋から次の部屋の間の通路に植えようー!」
「プルプルッ!」
【行ってらっしゃいませ。】
モンスターカタログを開いたまま、少女は目的の場所に向かおうと立ち上がった。
それに合わせてスライム達も動き出した。
あるスライムはダンジョンの拡張に、あるスライムは掘りかけの彫刻の場所へ。
そしてイム助を含む一部のスライムは主を守るために、少女の周りを囲むようについていった。
「とーちゃーく!」
「プルッ!」
数十分歩いた先にたどり着いた通路は、幅は大人二人がすれ違える程度で、長さは50メートルほどだった。
ここにも何本か石柱に見立てた彫刻が掘られている。
「ここなら短いし少ない数の豆さんでー埋め尽くせるよねー。イム助ー何体ぐらいがいいかな?」
「プルルップル!」
「2メートルに1体かー。じゃあー25体ぐらいかなー。」
モンスターカタログを見つめながら、少女は左右交互に植えられている豆を想像した。
そしていつものように軽く口を開けた。
「25体のしもべートラップビーンズよー我が呼びかけに答えよー!」
変わらない適当な呪文にモンスターカタログは答えたようだ。
少女が豆が植わっていると想像した通りの場所が輝きを放った。
そしてのその輝きが消えるとそこには、1mくらいまで伸びたツル科の植物のようなものがいた。
「おー成功したー。」
「プルプルッ!」
「そうだねーイム助ー。まだ豆はないみたいだねー。でも小さなつぼみはいっぱいあるよー?」
豆はまだないがつぼみをいくつか持っているトラップビーンズを見て少女は、楽しそうに笑った。
「豆さん達ーこの通路いっぱい埋め尽くしてーお豆を鼠さんにあげて欲しいんだー。」
「ざわざわっ。」
「おぉー返事したー。モンスターって賢いんだねー。」
「プルプルッ。」
植物であるトラップビーンズは発生器を持っていないが、ダンジョンマスターの声に答えるようにツルを動かしてた。
それを見て少女はケラケラっと笑い、スライムは体を震わせていた。
「頑張って大きくなるんだよー!」
「ざわざわっ!」
近くに植わっていた豆の葉を撫でるように少女は笑みを浮かべて彼らの成長を励ました。
トラップビーンズ達は前身の葉を揺らめかせている。
どうやら励まされて嬉しかったらしい。
少女の笑い声。
ダンジョンコアのきらめき。
スライムの体を震わせる音。
シャドーラットの小さな鳴き声。
そしてトラップビーンズのさざめく音。
また一つ音を増やしたダンジョンは、恐ろしさも増していくのだった。
例の無断転載サイトでショック受けてた…
まさかこの作品まで転載されてるとは思わなかった。