出逢い
隆明の真意を確かめるべく、約束を書き付けた。
その前に彼女「中村京子」との出逢いに迫る
中学の2年の夏頃駅前に学習塾が出来た。
家に帰るとその学習塾への勧誘のチラシがその他のチラシたちとは別にテーブルの上に置かれて居た。
「お母さん、なんでこれだけ……」
「あんた、帰ってたん?そうそう新しく出来た塾に入れようと思って隆明くんのお母さんと決めてん」
母はいつも僕に相談もなく物事を決めてくる。
まだ小さい頃外です遊ばす、戦隊モノのロボットの玩具やレゴで遊んでばかりいた僕を見かねて、寝ている間に全ての玩具を捨てた人だ。
「隆明ってまだあっこ行ってるんじゃないん?」
「あー、あんたが辞めたところやろ?なんか、隆明くんも前から合わへんって言ってたらしくて良い機会やから変えるらしいで。あんたも隆明くんおるねんからええやろ?」
僕の母は、なにかと僕よりも優れている人、頑張っている人と比較をしたがる。その根底には「あなたはやれば出来る子」という謂れの無いレッテルがある。「やれば出来る子」は言わば、「やらないから出来ない子」と等しいと僕はこの頃から思っていた。
僕たちの小学校では一時期、学習塾に通うことが流行りかのように挙って通っていた。元々駅の近くにはこの周辺の子どもたちが一度は入塾する学習塾があったがみんなそこは中学に上がるとみんなもっと上の学習塾に乗り換えるその中で隆明は中学に上がってもそこに通っていた。気づくのが遅いということよりも継続する力あると言うレッテルが隆明には付けられた。
「隆明くんも、もっと早く違うところに行ってたらものすごい子になれたかもしれへんのにここまで続けたのはあの子のすごいところやねんからあんたにもそれぐらい出来るねんから隆明くん見習い!」
母の紡ぐ言葉1つ1つが僕の自己肯定感を蝕んでいく。だけど、今塾に入ることに関しては賛成せざるおえない。僕の成績は塾をやめてからかなり地底を目指していた。
「塾には行くよ」
こう答える他なかった。学校が終わってから、また勉強をしないといけないのは、嫌だったが
僕には、少しありがたい側面もあった。環境が少し変わるのはある意味、都合が良かった。
隆明はいるけれど。
そして、塾に通い迎える初めての冬のこと。塾にもなれ、もちろん他校の顔見知りもできそれなりにやっていた頃。僕は走って塾に向かっていた。自転車で向かえば駅前はすぐなのだが、その日は前輪が長く使われずに腑抜けになってしまったサッカーボールのようになっていたので、走って向かった。 走ると少し距離がある。小雪が頬を濡らしながら寒空の下僕は駆け抜けた。もちろん講義には遅れたが誠意を見せる為荒い息のままの方が都合が良いと思い扉を開けた。そして出逢ってしまった。入り口を入ってすぐの教室と教室の間に友だちと談笑をする『中村京子』と出逢ってしまった。あの時の衝撃は今でも覚えている。身体全身に電流が……いや、雷に打たれたような感覚と同時に荒くなっていた呼吸が止まっていた。
これが僕と「中村」との初めての出逢い。この出逢いは僕に向けられた報酬だとも思えた。彼女と談笑していた友だちが僕がこの街に来る前に住んでいた街でよく遊んでいた女の子だった事。小さい頃のことなのにその子が僕のことを覚えてくれていたこと。僕に「中村京子」を紹介してくれたこと。その全てが今思えば偶然なのか必然なのかはわからない。ただその報酬には代価もあった。それは「隆明」の存在だ。僕の知り合いは隆明以外いない。彼女たちに紹介するのもこれもまた必然だった。案の定その出来事の3日後には隆明は2人と話をする仲になっていた。
仲良くなる分には全然いい。
ただ、隆明が「中村京子」に対し僕と同じ思いを抱かなければ。それだけを常に祈っていた。
いつも感じる朝日よりやけに目をつく眩しさで目覚める。約束の時間までかなりか時間があったがもう一度眠るより頭を整理するのに時間を費やすことにした。
全く手につけていなかったにテレビをおもむろにつけると勢いよく挨拶をし原稿に目を通しながら世で起こった出来事を淡々と話していた。
ー特集です。まだ未来ある若き女性の命が断たれてから1年が経ちご遺族から悲痛な叫びが番組に寄せられました……ー
「特集か…人の死をあてにコーナーを作ったって事か……悲しいな。こういう形にしないと取り扱わないのも問題か。」
この遺族も僕も世の中の不条理、自らの手ではどうしようもなく道筋を立てる事ができない。思い通りにはいかないのがこの世界だ。
だが、今日は今日だけはその世の中の不条理に、立ち向かわなければならない。
もう隆明にのまれてはならない。