はじまり
[本当に好きな人とは結ばれない]
最寄りの駅の改札を出て左に曲がると切符売り場に隣接する立ち食い蕎麦屋がある。出汁の香りの風を肌で感じると「帰って来たな」と感じる。
集合の時間は過ぎていたが、言い訳するのも疲れるので落ち合った時に話すことにしていた。
ーいらっしゃいませっ!何名様でしょうかっ?ー
「あ、先に来てると思んですか?」
ーかしこまりましたっ!探されますか?ー
「そうします。」
すごくハツラツとした店員さんにかつての私は
あのような振る舞いで対応していたのだろうかと
頭をよぎったのもつかの間彼らを見つけた。
「おっと、お出ましだな。お前も生で良いか?」
「あっ、そうだな。ビールでいい。」
「すみません!生4つください!」
先ほど私を出迎えてくれた店員さんが注文を受けてくれた。やはりあのハツラツさは気分がいい。店全体が明るく感じれるのは彼女の明るさだと感じた。
「店員の語尾気になるわー小さい「っ」入ってる感じ気にならへん?俺嫌いやわ〜」
こいつは、人の変わった部分を過剰に反応するところはあの頃から変わらない。良いように思ってない所も変わらない。誰もそんな話聞いてもいないのに誰に需要を求めているのかもわからない話をよく彼はする。
「あきらは、細かいねん。個性出してちょっとでも誰かの気にとまりたいんやろ。」
こいつもこいつで、変わらない。この2人はよく張り合っていたが性根がそっくりだ。人の努力を軽く払うように邪険に扱う。
「おい。あきら、かずき言い過ぎややめとけ。まぁでも、相変わらずのふたりで少し安心したよ。懐かしい友だちと大人になって酒が呑めるまでにもなれて。良かったわ。」
言葉の混ざりに気持ち悪さを感じた。転勤の多いい仕事をしてるからイントネーションがぐちゃぐちゃになると前に聞いたがここまでとは思わなかった。でも、あの頃からこいつはこの2人を止める立ち回りだった。主体性もあって爽やかで、いかにも生徒会長という感じが隆明だった。
「隆明は成人式けえへんもんやと思ってたわ〜仕事で転々としてるって聞いてたからさ」
「俺もそう思ってたわ!出席者名簿?のところにも名前なかったからな」
この2人は、思考まで似ているのかと妙な一体感に疑問を感じながらも、私自身も隆明が来ることは知らなかったので隆明の反応が気になった。
「俺も最初は行かれへんから断ろうとしてんけど、正木が「生徒会長がこうへんのはおかしい」ってわざわざ電話して来たから、どうにか休み取れて正木に連絡したらサプライズゲストになれって言われて名簿に名前なかってん。全然嬉しないやろ同級生のサプライズ登場なんてって思っていたけどみんな予想以上に喜んだでたから良かったよ」
「正木の仕業かよ。まぁ、副会長やし幹事やったから当たり前か。全然おもないやんけ」
正木は隆明と生徒会をしていた。隆明と1番時間をともにしていたからそれはそれで妥当な配役だった。
面白くないといえば面白くはないただ、僕は正木さんの心には隆明が今も記憶の中心にいたことが少し笑えた。だか、視界に入る嫌な輝きに引き戻された。
「そう言うなよ。正木の連絡が無かったら行くつもりなかったから正木には感謝しないとな。こうして、また4人集まる機会をくれたのは正木のおかげでだからな」
「確かに、俺もかずきも、隆明は忙しいだろうから連絡入れて気を使わすのもと思って連絡入れへんかったもんな〜。正木の勇気に感謝!」
珍しくすごく良いことをあきらが言ったので、一度息を飲んだ。まさか正木さんの気持ちを僕以外に知っていたのかと思ったが2人がそのような会話をするとも思えなかったので神様が与えた気まぐれだと思った。
「やっぱり中学卒業して5年経ったって数字だけ見ると少ないけど、実際に五年後の同級生に会うとかなり実感するよな。時の流れを」
隆明の言う通りだ。卒業して5年が経ち互いに別々の行きていくため選んだ道でもがきながら進んで、20年目の節目に中間報告のように懐かしい人に会い、話をし、懐かしむ。日本にこの文化か長年継承されていてくれて良かった。こうして懐かしいこいつらと会うことができた。本当に心から思えた。
「ところで、お前ら何が1番びっくりした?俺は元カノが結婚してたのがすげぇーなんか、なんて言うのかな?モヤモヤじゃないけど、なんか、ちょっとした衝撃だったわ」
「かずきが付き合ってたのって笠松だっけ?」
「隆明ちゃうで!笠松はあきらで俺はレイナ、和田レイナやで」
「和田さんか!和田さん結婚したゆうてたな!
かずきとあきらごちゃごちゃなってたわ」
「びっくりやわ。ほんま!高二で妊娠してやめて結婚したとか信じられへんわ……」
「親戚のおじさんかお前は!5年も経てば色々あるわな〜そんなあきらさんも成人式を境に里奈とヨリを戻すとは………」
「はぁ〜?!あきらお前!俺がちょっと落ち込んでる間になにを笠松とちゃっかり盛り上がってんねん!早よ言えやぁ!!」
「おいおい!店やねんからあんま声荒げるな。他のお客さんに迷惑やから。」
なにを中学の時の教室みたいなとこをしてるんだと3人から目を背け僕はあの店員さんがこっちを見て引いていないか目を配るがどうやら僕らの席付近にはいないみたいだった。
「くっそ。一気に胸糞悪なったわ。お前ら2人は元カノとさいかぁ………。あれ、そう言えば2人って中学の時誰と付き合ってたけ?」
眉間にシワ、腕組みと必死に思い出そうとしている人の銅像ですと言わないばりに、かずきは無駄に記憶を巡っている最中、隆明が。
「俺は誰もと付き合ってないで?たしか、お前も……やんな?」
隆明が何かを思い出し少し口角を上げ僕を見る。一度息を飲んだ。
「なんやねん!おもんないわーー」
かずきの眉間のシワが山を作り、勢いの良い息を吐いた。隆明はまだこちらを見ている。あげていた口角が口を開けた。
「でも、こいつは同じ中学ではって話だけど!」
しまった。とも思ったが彼の中で何か僕の記憶と食い違う部分があるような感じがしたので少しばつが悪い表情を浮かべるだけに留めておいた。
「なんやなんや!初耳やぞ!隆明話せ話せ!俺ら4人に秘密なんて勿体無いわ!」
ー失礼しますっ!生4っつになりますー
もう何杯ビールを呑んだかわからないが、成人式の時にあきらはあまりお酒が強くないみたいだったので今、至福の表情を浮かべ昔の恋にまた火がついて盛り上がりがすごいのか名前を連呼しているのでかなり呑んでいるのは確かだと思えた。
「こいつは、別の中学の女の子のことが好きだったんだよ」
そう僕が好きだった人は。僕とは別の世界にいた人だった。彼女と出会ったあの3年間のうちの2年は僕が唯一幸せだと誇りを持って語ることができる期間だ。
それを知っているのも、ばつの悪いことに
隆明だった。