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第2話『歌う少女現る』



・・・────ある人は言った。


世界は広く摩訶(まか)不思議な事があると。


ある人は言った。


宇宙は果てしなくて未知数だと。


……俺は、そんな世界を、宇宙を知りたいと思った。


ただ資料を読むだけでなく、この目でこの身体ごとで感じたいと。












カチャカチャカチャカチャ…ッカチャ



「オッサン、出来たぞ」


「おぉ、凄い。本当に直った!」


「当たり前ってーの。次からは壊すなよー」



ここ、アスラルトシティーの町外れに居る一人の少年は中年男に修理した腕時計を料金と交換で手渡していた。



「いやー、それにしても助かったよ。これは大事な形見だからねぇ」


「そりゃ良かったな。まぁ、こんな修理めったにしないからちょっと骨は折れたけどな」


「まぁねー、今じゃ技術がかなり進んで腕時計もデジタルな物ばかりだ」



中年男の言葉に少年は「…だなぁ」とボヤいてシティーの方に視線を向ける。


シティーでは真っ昼間だと言うのになんとも賑やかな音が聞こえていた。


車はタイヤが無く地面を滑るように走り、ポスターやビラなんかは紙ではなくバーチャルで紙のようでそうでなかったり、電話なんか手首に付けるブレスレット型になっていて小指と親指をたてれば繋がるようになっている。


世の中は便利に作られていて、人間はそれを便利だと言って器用に使いこなしている。


だが、俺はあまり好きでなかったりする。



「じゃ、私はこれで失礼するよ」


「まいどー」



中年男を見送ると俺は荷物をまとめてどこへ行く宛もなく、その場所から離れた。


町外れには森が沢山あり、今日はそこで野宿をしようと思った俺は川のある場所を探した。



「─────・・・」


「…?」



歩いて数十分経った頃だろうか、微かに何かが聞こえてくる。


しかも同じ方向には川の流れる音までするので俺は、音をたてないようにソッと近付く事にした。


近づくごとに次第にその何ながハッキリとしてきて、それが歌だという事が分かる。



(…なんて悲しい歌を唄うんだ…)



ある程度まで近づくと川の近くで桜色の長い髪をなびかせながら歌う少女の後ろ姿が見えた。


表情は分からないけれど、その歌は儚くて胸が締め付けられそうになる程の悲しさで溢れていた。


だが、もっと聴きたいと思ってしまうのは何故だろう。


その時、足元を注意深く見ていなかった俺は小枝に気付かなくて思わず踏んでしまった。



(…っしまった…)



パキッと音がするとあの歌声もピタリと聞こえなくなってしまい少しだけ勿体ないと思いながら恐る恐るに少女の方に視線を戻す。


するとどうだろう、少女の顔がしっかりと此方を見ているではないか。



「………アナタは、誰?」


「あー・・・俺はアラン。アラン・シーだ。ごめん、盗み聞きするつもりはなかったんだけど…つい聴き入って」


「構わない。でも、聞いて」


「えっ?…何を??」


「─────私の歌を、聞いて」



少女はそれだけを言ってまた歌を唄い始めた。


今度は心が安らぐような気持ち良い程の優しい歌を。


少し変わった少女だと思った。


風に揺れる髪に唄う姿はとても美しいのに、それだけではない”何か“が俺の視線を少女から離さないでいた。


自分でもよく、分からない何かが。













・・・この時、既に俺の人生が大きく変わる瞬間になったとは思いもしなかっただろう。


きっと、誰も分からない出来事だったのではないだろうか。


俺は後から知ってしまうだろう。


これが、少女との縁を結んだ瞬間だった事を。




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