第1話『私の…』
遠い遠い遥か昔に、歌で人々を癒やし、力を与えた伝説の歌姫がいた。
ディラスという化け物が現れてから世界は日々恐怖に怯え、希望を諦めない戦士は戦いに明け暮れていた。
けれど、闘えば傷付き下手をすれば死さえも免れない中にたった一人だけの女性が歌って癒やした。
初めは誰もが軽蔑するようにその歌を耳障りだと言ったが、聴いていく内に身体の疲労がなくなり逆に力が付いた事に気付く。
やがて女性の事を女神と呼べは、癒やしの歌姫だと呼ぶ者が増えた。
そんな中、ディラスの攻撃で女性が宇宙の彼方へと消えてしまった事件があった。
戦士達は必死に探したが、広い宇宙の中に消えた女性は見つからず死んだ者とされる。
けれど、女性が居なくなった後からディラスの出現率が下がり人々はこうも言っていた。
”彼女が自らの歌で引き寄せて護っている“のだと。
人々は女性のように歌う歌姫を探した。
少しでも癒やしが欲しくて────・・・
少しでも戦力になると信じて────・・・
それから数百年と時は流れた。
今では”アスラルト“は平和な日々が続くようになり、ディラスが来ても対抗出来る程の戦力を得た。
しかし、女性のように癒やし、力を与えるまでの人材は未だ現れては居なかった。
「♪~聞こえますか 私が誰か知ってますか~♪」
2061年四月頃、”アスラルト“に一人の少女が現れた。
己の名前も出身地も分からない少女は、唄う事だけは知っていた。
その歌は、とても美しく綺麗な歌声でけれど気持ちは悲しくなるようだった。
「……私の名前は…私は………誰?」
何も無い少女は、そう言ってまた歌い出した。