8話
2016/10/28 後半に少し文章を追加しました。
ファディアが泊まっている宿屋は、南門に行く途中の歓楽街にある、ウミネコ亭。
ウミネコ亭は見た目普通の宿屋なのだが、駆け出しの冒険者にとって財布にやさしく、それでいてサービスの良い宿屋。
それというのも、この宿屋は冒険者の事を良く知っている元冒険者の夫婦が開いた宿屋なのだ。
宿屋の主人こと、ゲイリー・ハーベイは元Aランク冒険なだけあって、ガッチリとした体型で身長は180ぐらいだろうか、髪は赤毛で右側の眉毛付近に大きな傷が入っているのは、冒険者時代の勲章といったところなのだろう。
その顔には歳を重ねることで出る渋さが滲み出ている。
女将リルカ・ハーベイも元Aランク冒険者であり、ポニーテールの黒い髪にキリッとした目。その目の下に泣きぼくろのある綺麗な顔立ち。引き締まった体に合った黒を基調とした服装に腰エプロンをした美人さんである。
そんな2人の結婚と冒険者の引退、それから始めた宿屋ウミネコ亭。
周囲からは、まだ引退は早過ぎるだとか、商売はそんなに甘くないから止めておけだとか、ゲイリーにはもったいな...これを言ったヤツはリルカに「私が惚れたんだ!次に言ったヤツはこんなんじゃすまさないよ!」と、ぶっ飛ばされていたので禁句となったが、あまり祝福の声は多くなかった。
というのも、リルカに惚れていた男冒険者が多かったのが原因なのだが、リルカの惚れた発言で、男達は血の涙を流しながら納得し引くしかなかったのだ。
それから結婚し、低価格でもサービスの良い宿屋を続けられているのは、これまで築き上げて来た冒険者時代の信頼と人脈あってこそだったと、ゲイリーは言う。
そういった経緯もあり、2人の事を良く知っているギルド職員は、新人の宿屋の決まってない冒険者にウミネコ亭を勧める。
まぁ、ギルド職員も宿屋の状況を見て勧めているので、新人全員がこの情報を聞けるのかと言われればそうではない。
ファディアは冒険者登録をした際に、ギルドの職員からウミネコ亭を勧められたことを思えばラッキーな冒険者と言えるだろう。
ファディアも職員の人が勧める宿屋だからと、宿泊することに決めたのだ。
ウミネコ亭に入ると、カウンターで帳簿のチェックをしているリルカさんと
目が合う。
「おかえりファディアちゃん。はい、部屋のカギね。」
「ただいまリルカさん。それと、ちゃん付けは止めて下さいって言ったじゃないですか!私、もう大人ですから!」
鍵を受け取りながら頬を膨らますファディアを可愛い物を見るような目で見るリルカ。もはや完全に狙ってやっていることにファディアは気づいていないのである。
「そうね~、考えとくわね。」
「もう!ゼッタイに考えといて下さいね!」
「そうだ、ファディアちゃん。今日の夕食は、ボレイ牛のシチューだから。」
「ホントですか!?私ボレイ牛のシチュー大好きなんですよね~♪楽しみに待ってますね!」
夕食のメニューを聞き、先程まで機嫌が悪かった顔はどこへやら、といった感じでファディアは笑顔になっている。
この会話を傍から聞いていると、大人と子供の微笑ましい会話にしか聞こえないのではないだろうか。
「じゃあ、夕食の時間になったら食堂に来てね。」
「はい!リルカさんまたあとで~。」
そう言いながら笑顔で階段を上がるファディアは、やはりまだ子供なのかもしれない。
書いては消し、書いては消し...
アイデアよ!私に降りて来い!
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