7話
駐留所から出てまず向かうのは、様々な冒険者ギルドが並ぶ、通称ギルド区画。
その区画は、ファディアが入った北門から南に歩いて行き、観光名所にもなっている都市中心部に位置するラーベイ時計塔から東門へ歩いて行ったところにある区画だ。
「ハァ~...。」
(あんなに大見得を切ってダンジョン攻略に挑んだのに失敗するなんて...ギルドへの報告が憂鬱だわ。)
ファディアの受注したクエストは、当日限定!ルアイナ草原 初級ダンジョン探索【何度受注しても可】。
達成条件は、ダンジョン内で入手したギルドで査定できる物を、何でもいいので受注したその日の内にギルドに提出するというもの。
備考欄に、報酬金額は持ち帰った物の査定した金額で支払うといったものだった。
それを踏まえると、クエストはゴブリンの討伐部位が有るので達成していると言えるのだが、ファディアは最深部のボス部屋を攻略し、宝箱を開けて持ち帰ることが達成条件だと勘違いをしていたため、失敗の報告をしなければいけないという思いに、若干ではあるが落ち込んでいた。
いろいろな事を考えながら歩いていると、盗賊ギルドが見えてきて。
ここで、各ギルドの見分け方について説明すると、ギルド別に掲げている看板で大抵は見分けがつく。
他にも、外観やギルドに入る人物などの違いで見分ける人もいるのだが、やはり1番は、最初にあげた看板だろう。
看板には各ギルドの象徴が描かれており、例えば盗賊ギルドなら、バンダナが宝箱に被せてあるものが看板に描かれている。
「すぅ~、はぁ~、すぅ~、はぁ~...よし!」
意を決してギルドの扉を開ける。
とはいえ、意を決して扉を開けることもなかったのだが、そこはまだまだ新人、これからに期待したい。
わいわい、がやがや...。
ギルドの喧騒の中、ファディアは一直線に受付に向かう。
ファディアの向かった受付カウンターには、白いカッターシャツに赤紅色の細いネクタイを締め、キリッとした顔立ちの黒髪ポニーテール美人お姉さんが立っていた。
「盗賊ギルドへようこそ。今日はどういった御用でしょうか?」
朝に受付をしてくれた美人お姉さんと違った人だったので、少しホッとした。
同じ人に報告するより違う人に報告する方が、ファディアにとっては気が楽に思えたからだ。
「え、えっと、依頼の報告に来たんですけど?」
初めての依頼報告、それも失敗したと思い込んでいる依頼報告なので、若干緊張した感じの喋り方になってしまう。
「あら?依頼報告でそんなに緊張しているとこれからが大変よ?新人さん。」
緊張した喋り方だったので、すぐ新人だとお姉さんには分かったのだろうと思ったファディアだったのだが、実はギルドに入って来た時からお姉さんには新人だと気づかれていたの内緒である。
「こ、これから気をつけます!」
言葉に出来ない微妙な恥ずかしさから声が大きくなってしまった。
「フフフ。それじゃあ、依頼書と冒険者手帳をだしてもらえるかしら?」
少しだけ顔を赤らめながら、ファディアはポーチから冒険者手帳を、リュックからは依頼書をカウンターに置く。
受付のお姉さんは、カウンターに置かれた冒険者手帳の1ページ目を開きながら依頼書を手に取り、確認しながら今回のファディアの成果提出を求める。
「それでは、ファディアさんが今回受けた、探索依頼の成果を提出して下さい。」
「それが...なんと言いますか、成果を...。」
ファディアが心なしか小さな声で失敗の報告を最後まで話す前に、お姉さんがファディアのポーチを指差しながら話し始める。
「ファディアさん、そのポーチの中に入っているゴブリンの耳を早く提出して下さい。」
「あっ!えっ!?」
お姉さんの話しにファディアは頭が真っ白になり、あたふたしてしまう。
それを見たお姉さんは右手で頭を押さえ、溜め息混じりで話す。
「ハァ~。さてはアナタ、最深部まで行かないと失敗って勘違いしてたでしょ?」
「えっ!?違うんですか?」
「そうよ。ここをよく読んで見なさい。」
そう言いながら、依頼書の備考欄を読むようファディアに指摘する。
(ええと、報酬金額は持ち帰った物の査定した金額で支払..う...。)
「あっ!」
っと、お姉さんを見る。
「わかったかしら?まぁ、今日は新人さんってことで大目に見るけど、依頼書をちゃんと確認するっていうのも、ギルドに所属する冒険者として大事なことなんだから、以後気をつけるのよ。」
「すいませんでした。」
しょぼんとしてゴブリンの耳を提出するファディアに微笑むお姉さん。
「ほら、そんな顔していると可愛い顔がだいなしよ?それに、気持ちの切替も、冒険者にとって立派な仕事の内よ。」
ゴブリンの耳を受け取りながら、アフターケアも忘れないお姉さん。
「そ、そうですよね!これから頑張ります!」
幾分か元気を取り戻したファディアに、お姉さんが報酬金と冒険者手帳をカウンターに置く。
「これが今回の報酬金になります。」
金額を確認すると、銅貨が3枚冒険者手帳の上に置かれている。
ここで金額について説明すると、1番高価な白銀貨から、金貨、銀貨、銅貨と、価値が下がり、流通する通貨も高価な程、見る機会は少なくなっていく。
また、銅貨=100枚で銀貨1枚。銀貨=200枚で金貨1枚。金貨=500枚で白銀貨1枚となっている。
「お~。ありがとうございます。」
初めて自分で稼いだ金額に、嬉しさが込み上げて来る。
そんな嬉しさを噛みしめながら、ポーチの中に入れていた巾着を出し、巾着の中に銅貨3枚を入れ、冒険者手帳と一緒にまた、ポーチにしまう。
「まだまだこれから大変なことの連続だとは思うけど、頑張るのよ。私は、ディナ・ヴァイカ。アナタのこと気に入ったから個人的に応援してるわね。」
そう言って、左目を閉じウインクをするお姉さんもとい、ディナさん。
「これからよろしくお願いします!」
と、勢いよくお辞儀するファディア。
「それじゃ、また次に会えるのを楽しみにしてるわね。」
「はい!それじゃあディナさん、さようなら~。」
ディナさんと挨拶を交わし、ファディアはギルドを出る。
ディナは、ギルドを出るファディアを見ながらこれからを思う。
「ファディアちゃんか...フフフ。可愛いし、ホントにこれからが楽しみな新人さんよね。それに..."もう1人"面白そうな新人もいることだし。これからホントに楽しみだわ...。」
ディナにそんなことを思われていることなど全く知らないファディアは、昨日から泊まっている宿屋に向かうのだった。
ようやく更新出来ました。
なかなか投稿出来ませんが気長にお待ち頂ければ幸いです。
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※作者が意図して使った字は直さないことも有りますので
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