4話
長いようで短い戦に勝ったファディアだったが、受けたダメージは思ったよりも大きく、初級のダンジョンとはいえ、これ以上の探索は危険な状態だった。
(残念ね。不本意だけど今回のダンジョン探索は、ここまでが限界のようね。)
「実力不足か...。」
そう小さく呟き、ゴブリンに刺さっているダガーを引き抜く。
(確か、ゴブリンを討伐した証になる部位は...右耳だったわね。)
少し迷いながら、引き抜き抜いたダガーでゴブリンの右耳を切り、簡単な血抜きをしてポーチにしまう。
この討伐部位というのは、そのモンスターを討伐した証になり、ギルドでそれを提出すれば、討伐報酬が支払われるという仕組みになっている。
残ったゴブリンの死体も同様に耳を切り、ポーチにしまう。
もちろん、もう1本のダガーを回収するのも忘れずに行う。
(ホントはこの部屋、調べたかったんだけどね...。)
名残惜しそうな顔をして部屋を見渡していると、忘れていた左肩の痛みが徐々に振り返し、ファディアの顔が歪む。
「っつ...。」
(そういえばまだ、応急処置をしてなかったわね。)
左肩の痛みに耐えながら、部屋の入口付近に置いてきたリュックの場所まで移動する。
リュックの場所に着くと、壁にもたれかかりながら座って、リュックを開ける。
リュックの中から、ナルラ草という薬草をすり潰して作った一般的な傷薬の1つ、ナルラの塗り薬の入った容器を取り出す。
容器を床に置き、ジャケットのファスナーを下まで降ろして左側だけ脱ぎ、容器の蓋を開ける。
ジャケットの下には黒いインナーを着ていたが、そこまで脱ぐ時間がもったいないと判断し、左手でインナーを少し引っ張り、右手に薬をつけて左肩の痣になっているところに塗る。
痣に塗るとヒンヤリとした感じと痛みが両方きて、癒されているのか、痛いのか、変な感じになったが、今は一刻も早くこのダンジョンから出ないと行けなかったので、ジャケットを急いで着、容器の蓋を閉めてリュックにしまう。
(この塗り薬って、独特のニオイがするのよね~。帰ったら、入念に着てるの洗わなくちゃいけないかな。)
「そんなことより、早くここから出ないと、っしょ、っつ...。」
立ち上がってリュックを背をうと、一瞬、リュックを掛けた左肩に痛みがはしり顔が歪むが、ダンジョンから出るために出口に向かって歩き出す。
ゴブリンと戦った部屋から出口に向かって歩いて行き、ようやく別れていた道まで戻って来た。
(分かってはいたけど、やっぱり負傷してると痛みで歩く速さが遅くなるわね。)
「このままモンスターに遭遇しなければ良いんだけどね。」
そう言いながら、別れ道を出口の方に歩き出すと、ファディアが歩いて来た反対方向。
つまり、次の階層があるであろう方向から物音が聞こえる。
このまま進めば出口まで1本道なのだが、何故か気になってしまい、振り返ってしまう。
冒険者なら、まだ助けを求めることが出来たのだが、歩いて来たのは...。
「ギギィ。」
「最悪だわ...。」
ゴブリンが1匹、行き止まりの部屋の方へゆっくりと歩いているのが見えた。
幸い、まだこちらには気づいていない。
振り向いた体を出口の方へと向き直り、こちらもゆっくりと歩き出そうとしたそのときだった。
カランカランカラン、コツン...静かなダンジョン内に石の音が響く。
(しまった。やってしまった。)
慌てて振り返ると、ゴブリンと目が合い動揺してしまう。
「マ...マズイ...逃げなきゃ。」
痛みを我慢しながら出口に向かって走り出す。
「ギィー!」
走り出したファディアを追うようにゴブリンも走り出す。
「ハァ、ハァ、ハァ...。」
出口まであと少しなのだが、痛みで思うように走れず、走りながら振り返って見ると、ゴブリンとの距離も縮まってきている。
(あと少しで出口なのに、頑張れ私!)
自分を鼓舞するように走り続けるのだが。
「ギィッ、ギィー!」
ゴブリンも獲物を逃がしてなるものかと、声を上げながら迫ってくる。
距離が迫る一方で、出口との距離もあと僅かまできていた。
「やったわ!」
なんとかゴブリンよりも先に外に出ることが出来たファディアは、すぐに隠れそうな草むらに身を隠す。
草むらでじっと身を隠してダンジョンの出入口を見ていたが、ゴブリンが出て来る気配が無いので不思議に思いはしたものの、なんとか助かったファディアは、商業都市ディラに向かって歩き出すのだった。
今回の話は、最終的に作者の実力不足で、無理やり次話につながる感じで終わらせてしまいました。
あと、ライティングの魔法は、ダンジョンから出たら自動的に消える感じにした説明を書くつもりだったのですが、入れると話が変な感じになってしまったので、やむなくカットしました。