3話
まず行った事は、ゴブリン3匹の気を自分とは違う方向の壁に向けさせる為に、石を投げ、壁の方に気を反らすといったものだった。
ファディアが大きく振りかぶって投げた石が、ヒュッと空気を切ってゴブリンの上を飛んで行く。
投げた石と同時にゴブリンの方に走り出したファディアの両手には、既にダガーが握られており、気を反らすであろうゴブリンの1匹に狙いを定めて意識を集中させていた。
投げた石が壁にカツンと当たって地面に落ちると、3匹のゴブリンが石の当たった壁の方を向く。
「ギギィ?」
1匹のゴブリンがまるで『なんだ?』と言っている様な感じで声を出すのと同時に、1番右側にいるゴブリンの首をファディアが刈っ切り、切られた首筋から赤紫色の血が勢いよく吹き出し、1匹目のゴブリンが地面に倒れ、生き絶える。
その血しぶきが他2匹のゴブリンの顔や体に当たったことで、自分たちの仲間が殺されたのだと、倒れた仲間を見てから隣に立つ相手を睨みつける。
「「ギギャー!」」
2匹のゴブリンが怒りの声を上げる。
「さて、ここからが問題なのよね~。」
そう言いながらバックステップでゴブリンとの距離をとる。
しかし、怒り狂っているゴブリン達も黙ってはいない、距離を取ったファディアに対して、1匹のゴブリンがこんぼうを振り上げ、距離を詰めるように走りだし、もう1匹が石を拾い、援護とばかりに投げてくる。
「くっ。」
投げられた石を寸でのところでかわし、迫ってくるゴブリンに対し身構えるのだが...。
「ギィー!」
すでにファディアの目の前まで来ていたゴブリンは、勢いそのままに、こんぼうをファディアの頭目掛けて振り下ろすところだった。
振り下ろされるこんぼうを避けきれない、そう思い、咄嗟に両手に持っているダガーを交差させ、受け止めようとするのだが、交差させたダガーとファディアの筋力だけでは受け止めたこんぼうの勢いを全て殺すことができず、こんぼうが頭に当たってしまう。
「っつ...。」
幸いだったのは、ダガーで受け止めきれなかったとはいえ、受け止めようとした分だけの威力は少なからず落ちたので、頭から少しだけ血が額にかけて流れる程度のダメージで、致命的なダメージを受けなかったことだろう。
「ギギギィー。」
今度はこんぼうを両手で振り上げ、こちらが優勢だと言わんばかりに攻撃しようとするゴブリンと、先ほど石を投げてきたゴブリンも、こっちに向かって来るのが見えたので、このままだとゴブリンに袋だたきに会う、最悪の展開になってしまうのが容易に想像できた。
しかし、ファディアも負けてはいなかった。
「こっの!くたばれー!」
そう言いながら、右手で持っているダガーをゴブリンの喉に渾身の力で深く突き刺し、ダガーから手を離して距離を取る。
「ギィ?ガッ...。」
自分が優位に立っていた筈だった...それなのに唐突に訪れた死に、訳がわからないと言った様子で、ファディアが距離を空けた地面に倒れ、ダガーが突き刺さった喉から血が吹き出し、生き絶える。
こちらに向かっていたゴブリンもその光景を見て、ついに自分だけになってしまったことをさとる。
「ギィ...ギギ...。」
自分以外のゴブリンが殺られてしまった今、明らかに動揺していた。
しかし、奇襲と先程の攻防で、ファディアも精神的な疲労と若干の負傷により、最後の1匹のゴブリンがたとえ動揺していたとしても、五分五分...いや、総合的に分の悪い戦いになるかもしれなかった。
「ハァ...ハァ...ハァ...。」
(良かった。ヤツは動揺しているみたいね。この間に少しでも呼吸を整えないと。)
数分の沈黙が辺りを包む。
先に仕掛けたのはファディア、攻撃を仕掛けるため、ゴブリンに向かって走り出すのと同時に、左手に持ったダガーを右手に持ち替える。
動揺していたゴブリンだったが、近づいて来る敵にとった行動は、今だ動揺していたのだろう、自分のこんぼうを投げるといったものだった。
結果、ファディアもまさかゴブリンが手に持っていた自分の生命線とも言える武器、こんぼうを投げてくるとは思っていなかったので、回避行動が遅れてしまい、なんとか右に捻って避けようとするが、無情にも左肩に当たってしまい、その場に膝をつき。
「ふっ、ぐっ...。」
と、右手で左肩を押さえ、痛みで顔をしかめ、ファディアはくぐもった声を上げてしまう。
これは、ファディアにとって最悪に近い状況だった。
逆もしかりで、ゴブリンからすれば、まさに絶好の勝機ともいえたので、ニタッとした醜悪な笑みを見せ、側で死んでいたゴブリンのこんぼうを、拾い上げていた。
「ッチ。」
(やってしまったわね...。この状況をなんとかしないと、私の人生ここまでじゃない...。)
「イヤ...そんなの絶対にイヤ...ゼッ~タイにイヤよ!」
立ち上がりながらに出た、ファディアの痛みにも負けない大声に、ゴブリンもビクッと体を震わせる。
しかし、気合いだけでは現状を打開する手段には程遠いものであることは、彼女自身も十分に理解しているのだが、今頼れるものは何だろうと使う、例え、それが目に見えない力だったとしてもだ。
「いくわよ。」
そう小さく呟きダガーを構え、ゴブリンと対峙する。
「ギィー!」
動揺から立直った直後の大声だったので、ビクッと体を震わせ、また動揺してしまうところだったが、まだ自分のは方が優位に立っている自信がゴブリンを突き動かす。
握っているこんぼうを振り上げながら飛び掛かってくる。
その攻撃をファディアは必要最低限の動きで避ける。
なぜ必要最低限の動きで避けることが出来たのか、それは今、アドレナリンが多く出ているためにできることだった。
もしアドレナリンが出ていなければ、痛みからそこまで動けていなかっただろう。
「ふっ。」
ゴブリンが着地した右側に避けたファディアは、素早い動きでゴブリンの後頭部を蹴る。
「ギャ。」
後頭部を蹴られたゴブリンはバランスを崩し、前のめりになって地面に倒れる。
地面に倒れたゴブリンが立ち上がる前に跨がり、背中にダガーを深く突き刺さす。
「ギィ!ギギ...ギ...。」
ゴブリンが暴れ、血が吹き出る背中で突き刺したダガーに力を入れ、動かなくなるまで押さえつける。
やがて力尽き、動かなくなるゴブリン。
「フゥ~。やっと、おわった...。」
ようやく戦いが終わったことに安堵し、気が抜けるファディアだった。
今回の3話ですが、まだまだ勉強不足でここまでが限界でした。
上手く書けるよう日々頑張ります。