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世界の英雄が異世界に旅立つようです  作者: 朝倉 翔
プロローグ 英雄、異世界に旅立つ
3/30

閑話1 彼がさっさ後で……

閑話です。慎吾が異世界に旅立った後、一人残されたユーの話です。

彼が異世界へ旅立った。あって間もないけどいい人だったなー。少し泣いてしまったよ全く。僕は、白い世界での余韻(よいん)を感じていた。眼を閉じて彼との会話を、彼の表情を、彼の……寝顔を。それにしても神様である僕が好意を寄せるとは、人間の個性は神から見て変わらないけど、彼は他と違ったな~。と考えていると、自分以外の神力を感じた。そっと眼を開ける。見た先には歪み。他の者がくる前兆。そして次元に穴が開く。現れたのは女性と男性の二人。


女性のほうはおっとりした雰囲気の人。長く腰まである金色の髪、タレ目がちの優しい翠の瞳。体は母性溢れる体つき。眼を貼るのはあの忌々しい胸。僕は自分の胸を見る。そこにあるのは自分の足元が見えるほど薄い胸だけだった。くっ!


男性のほうは優しい雰囲気の人。短く切り揃えられた茶色の髪、少し切れ目の葵の瞳。体は細いがその服の下には鍛えられた刀のような鋭さを持つ。……たくましいけど慎吾のほうがいいからね‼と誰ともなく心の中で叫ぶ。


「やぁ‼どうしたんだい?お二人さん?」


僕の問いに答えたのは男性の方。声は穏やか声だった。


「いや何、私たちの世界に客人を送ったそうじゃないか。どんな人か気になって来てみれば、少し遅かったかな?」

「まーね。確かに少し遅かったかな?」

「あら~。それは残念です~」

「あぁ全くだな。挨拶ぐらいしたかったものだな」

「あははっ、行ったのは君達の世界だよ。会おうと思えばいつでも会えるじゃないか」

「それもそうだな。しかし、せっかく来たんだ。聞かせて送れ。英雄の力もない人間がどうやって世界を救ったか」

「私も気になります~」

「フフフッ、いいよ。彼がどうやって世界を救ったか少し話をしよう」



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



僕は二人に彼がどのように世界を救ったのか説明した。時には声を抑えて、時には全身を使って。彼の英雄譚を説明した。…いや、語ったと言ったほうがいいかも知れない。それは事務的な説明ではなくなってオペラの劇場のようだったから。二人は時に笑い時に驚き、時に泣いた。僕はそれに満足した。


僕の世界には英雄がいなかった。世界を魔王から救う勇者も、世界に蔓延する病を癒す聖女も、世界の大混乱を納める王も、英雄と言える人がいなかった。魔法もなく魔物もいない世界での敵は同じ人だった。最初はよかった。三國志のような武には武を持って、知には知を持って制した世界がしかし、時代が流れ武装が発達しコンピューターができた、拳銃ができた。戦いの規模は大きくなったが、力は薄れた。まるで水に垂らした絵の具のように。


僕はそんな世界が嫌いだった。幾百年も幾千年も待っても現れなかった英雄に。英雄を産み出さない世界に。でも、生まれた。【杉崎慎吾】と言う英雄が。待っても現れなかった英雄が、産み出さない世界に生まれた。僕は嬉しかった。僕の不注意で起きた事件に巻き込まれたただの人は一瞬で英雄に変わった。そんなことは他の世界でも今までに無かった子供を、だから何も無かった僕の世界で生まれた英雄に心奪われた。だから、彼をここに喚んだ。神の聖地にただ種火のような命を花火のように咲き誇った彼の魂を。


実際に会って、さらに思いは募った。彼の人柄に、彼の生き方に。だから嘘をついた。神は僕しか居ないのに、代表だと偽った。それでも、よかったと思えた。ずっと現れなかった英雄と一緒に会い、話し合いができた事に、まるで英雄譚に憧れを持つ子供のように。だから散った命を吹き返させた。彼にはまだまだ英雄譚を見たかったから、もっと聴きたかったから、彼の願いを聞いた。


そして異世界に言ってもらった。「いってきます」と言ってくれた彼に。だから僕は言った。『いってらっしゃい』と。


そうだ今こそ神としての義務を果たそう。自分の世界の英雄に力を与えるために。僕は二人に向き合った。そして僕のお願いを言った。


「二人にお願いがあるんだ」

「んっ?何かな?」「なんですか~?」

「彼を見守って欲しい。彼に君達の力を与えて欲しい」

「ふむ………わかった。微力ながら力を貸そう」

「私も貸しますよー」

「うん‼ありがとうっ!!」

「いえいえ、こちらこそありがとうとても素晴らしい英雄譚だったよ」

「うん。とても素敵だったよ~‼」

「アハハッ!そうだろう、なんたって僕の最高の英雄だからね‼」




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇





二人は帰って行った。あぁ~また一人か…。でも不思議と寂しくはない。…………よし‼頑張りますか。また英雄が現れるように。


そう考えるユーの真っ白な世界には確かに色好き始めた。

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