2話 異世界召喚のお知らせです
「やぁ‼やっと起きたね‼」
声をかけてきた人影は美形の中性的な顔立ちだった。男と言われれば男に見える、女と言われれば女に見える、そんな顔だった。なんと言うか印象に残りにくい顔だなぁー、とぼーと見ていると。彼?彼女が喋りかけてきた。
「あれあれ?オキテルよね?もしもーし、起きてるー」
「…あぁ、起きてるよ」
「あっ‼やっぱり起きてた。もーちゃんと返事しないと就職できないよ?」
「いや、俺死んでるし。ほら、腹に穴が…穴が……無い?」
「うん。無いねー」
「何で‼さっきまで穴が開いてたのに‼」
「えーっここに来たら穴なんてなくなるよー」
「いやっ‼弾痕だよ‼穴が空いてるんだよ‼しかも飛行機の中で‼治療もままならないのに‼つーかここ何処だよ‼」
「今頃そこに行くんだね…結構抜けてるのかな?…髪とか」
「抜けてねーよ‼失礼な‼つーか馴れ馴れしいし、誰だよ‼」
「んっ?僕?僕は神様さ‼」
と長ったらしい会話の後にやっと名乗った。自称神様だと。……はぁー。
「君。大人を馬鹿にするのは止めなさい」
「えーほんとだよ‼信じてよ‼」
「無理」
「えーっ‼…どうしたら信じてくれる?」
「神の奇跡でも見せてみろよ」
「えーっ…仕方ないなぁ」
そう言うと自称神様の背後に光が瞬いた。起きてるよとっさの光に眼を伏せた。輝きがなくなり眼を起こすことそこには羽が生えた自称神がいた何か神々しいオーラを纏って。自称神は腕を胸の前で組んで胸を張った。そしてドヤ顔で………イラッ!
ガシッ‼ギリギリギリギリギリギリッ!!
「イタタタタタっ‼何で‼何で僕の頭にアイアンクローをするの!!痛いから止めて‼」
「いや何かドヤ顔がムカついたから」
「まぁ痛くないけどね」
「痛くないのかよ」
「だって神様だもん‼」
「ふーん」
ドゴッ!!
「ハッハッハ‼無駄無駄無駄‼」
「ディ○かよ」
「ノンノン‼神様だよ‼」
「はぁー、わかったわかった信じるよ」
「本当‼ヤッタネ!!」
「でその神様が死んでしまった私に何かご用ですか?」
「何でそんなにかしずいてるの‼さっきみたいにフツーでいてよ」
「あっそう。じゃお言葉に甘えて、でなんだよ」
「きゅーに喧嘩腰だー‼」
なんとも騒がしい神様である。しかし立って話すのも忍びないとりあえずテーブルの所まで移動。改めて自己紹介させる。
「では改めて!僕は神様です。名前は好きに読んでくれてもいいよ‼」
「ふーん。俺は杉崎慎吾だ。よろしく…馬鹿」
「えっ‼呼び名馬鹿‼失礼だよ‼これでも神様なんだよ?」
「じゃー………ユーで」
「わかった‼僕はユーだ‼」
「でユー俺に何かよう?」
「うん。君が死んだのは僕たちの不注意だからね。」
「はぁ?不注意?」
「うん。君が体験したハイジャックは本来起こり得なかった事をだったからね」
「起こり得ない?」
「そう、あれは起こり得なかった事。神の不注意。神の予想を覆す事件。それがあのハイジャックだよ」
「何で?」
「あれ?結構冷静だね。うん、あれは簡単に言えば【第三次世界対戦の引き金】かなぁ」
「引き金ねー」
「そうあの痩せた男が最初に殺そうとした子供、彼女はアメリカ大統領の娘でね。たまたま居合わせたんだ、たまたまね。そしてあのテロ組織は北朝鮮の隠れ蓑。これでわかったでしょ。彼女が死んでアメリカは北朝鮮にぶちギレ、まさに戦争の火蓋が落とされた。アメリカVS北朝鮮、漁夫の利を狙う他国誰が味方で誰が敵かわからない状況での各国での同時多発テロ。それが国か個人か解らない。そんな疑心暗鬼、暗中模索での戦争、大量の兵器、流れ出る大量の血、次々に滅ぶ国、そして大国同士の核戦争に発展。荒れる大地、渇れる海、放射線が飛び交う空。そんな世界は何も住めないし育たない、バクテリヤや細菌でさえ死滅したそんな世界に未来はない。そんな未来を変えたのが杉崎慎吾君、君なんだよ。あの時、君が彼女をかばったお陰で世界は滅ばなかったんだよ。……本当にありがとうっ」
「……」
「君がかばわなかったら、君があの飛行機に乗らなかったら、君が生まれて居なければあの世界はなくなっていたんだ。神を代表して君に感謝する。 本当にありがとう‼」
「……そっか…俺がやったことは無駄じゃ無かったのか…」
「…うん。でもあの世界の君は死んでしまった。」
「いや、構わないさ。地球が滅ぶのと俺が死ぬとでは価値が違うからな」
「うん…。だからね…僕達は相談したんだ。世界を救った英雄には褒美を与えなければとね。ゲームでも英雄は王様から褒美を貰うからね。あのまま世界には王様がいないから代わりに僕達が褒美を与えるね。…………さぁ、世界を救った英雄は世界の王に何を願う?」
…子供を助けたら、世界対戦を止めてて、世界を救ってて、さらに神様からの褒美ねー。……俺は一体何を願うのかなぁ。……そうだ、死ぬ前に願った事があるじゃないか。俺の生き甲斐が。
「そうだな。俺はの……いや、私の願いは」
俺は世界の王に願った世界を救った英雄として世界を救った対価として、自分の前にいる神様の代表と言う神ユーに。
「私の願いは、自分の好奇心が刺激される世界に行きたい」
と。俺が願った事、それは異世界への召喚を願った。それを聞いた神様は微笑んだ。そして神々しく、神秘的に、そして純粋な子供のような、そんな笑顔だった。
「承知した。そなたの願い、神の代表としてこの【ユー】がそなたの願いを聞き入れ、そして叶えよう。」
そう言うとユーが手を出した。そしてその手の上で光が輝いた。その光は徐々に集まり、集い、そして凝縮されていく。それは神の力。神にしかできない奇跡の体現。あらゆる物を司る神が創る異世界への鍵。神が生み出す異世界への門。
光が収まった時ユーの手にあったのは神々しいく神秘的な鍵。異世界へのチケット。ユーは出来上がった鍵を観て満足げに頷き、俺に鍵を手渡した。
「それは、君が望んだ異世界への通行書だよ。それを使えば異世界に行ける。行ける異世界には魔法がある。魔物もいる。君が願ったように好奇心が刺激される世界だよ。しかし、君の前に立ちはだかる壁があるかも知れない。君がその壁を乗り越える事を願っているよ。……さぁー‼異世界への航海の果てに君が何を見て何を感じるのか。僕たちが見届けよ‼さぁ‼行くのだ英雄よ‼新たなる世界に旅立つのだ‼」
ユーは言った。それに俺はうなずいた。俺は鍵を何もない空間にさした、そして捻る。こぼれた光。それは英雄の新たなる旅に祝福するかのようだった。俺は最後に振り向いた。振り向いた先にはユーがいた。この真っ白な世界での出会い喋った友達。俺は笑顔を向けた。
「ありがとう、世界の王よ‼いってくるぜ‼」
それだけ言って俺は光に飛び込んだ。光に包まれる感覚。消える意識の最後に聞いた声はユーの言葉。
『いってらっしゃい。僕達は君を見ているよ』
そして俺は光に落ちた。