時計の電池が切れた時
諸君は、時計が止まったらどこに持っていくだろうか。
大型チェーンカメラ店?デパート?近所のカメラ屋?
女は出かけた先の、用事がある場所の向かいに、「時計電池交換1000円」という看板を見つけ、これ幸いと飛び込んだ。
と、小型のふわふわな犬が出迎えてくれた。
「人懐っこいんだよ」
とは主人の言。
動物を飼ったことがなく扱いに慣れない女も、その愛くるしさに目で追い、出来れば触ろうとした。
「高そうな時計だねえ」
と主人は正直な感想を言って、時計屋らしいレンズの眼鏡を頭にセットして時計の中を覗く。
「すぐ終わるよ」
助かった。
それから主人は、息子が継がないからここは俺の代で終わりなんだ、なんて寂しい世間話をした後、女には見慣れない伝票を見せた。
「普通はお客さんに原価なんて見せないんだけどね、うちの電池は長持ちするよ!ほら、外国製の電池の安いこと。でもね、うちのは違うよ!安心しな!」
格好いいなあ。女は惚れ惚れした。
「また来ます」
「その時計の電池がまた止まる頃には、俺が死んでるよ!」
物騒な話だったが、女は笑って、このことをインターネットの日記に書き留めた。