表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/11

『魔王に繋がれちゃいました』



 監禁された日から三日目の朝。私はオースティンの屋敷の一番極上の部屋で、とても気持ち良い目覚めをふかふかのベッドの中で迎えていた。


 とても監禁されているなんて思えないくらい。何不自由なく私はオースティンの屋敷で、魔法使いたちにもてなされて魔王城にいる時よりもずっと平穏で、とても落ち着いた時間を過ごしていた。だから、私は魔王に対して少しだけ罪悪感みたいなものを感じ始めていた。


 私がこんな風に快適に監禁生活を過ごしていることが魔王にバレたら。きっと魔王はブチ切れて、城に帰ったら何をされるかわからないし。怒りに満ちている魔王を想像するだけで足が震える思いだった。


 罪悪感とは別に。昨夜から、背中にズキズキと焼けるような熱と痛みを感じながらも。なんとか眠ろうと私がゆめうつつになるたびに魔王の私を呼ぶ声が、耳元で聞こえたりして嫌な予感しかしなかった。そして、朝になって服を脱いで鏡で背中を見たら刻印みたいな痣が浮き上がってきていた。


「嘘でしょ? もしかして……。これが魔王の印?」


 すぐに服を着て慌てて私は部屋を出ると、屋敷の最上階の部屋の窓から外を覗いてみた。まだ、かなり遠くからだけど何かが飛んでこちらへ向かって来るのが微かに見える。そして何故か背筋が寒くなった。魔王は私を見つけたんだ。


 魔界に来た夜に魔王が私に自分が付けた印がある限り、私がどこにいても魔王には私を見つけられる。って自慢げに話していたことを思い出して、私は慌てて部屋を飛び出して廊下を走っていた。


「やばい。やばい。やばい。魔王に結界なんて意味なかったんだわ。早くオースティンに伝えてみんなを連れて逃げてもらわないと。魔王が屋敷中の魔法使いを殺してしまう!」


 私はオースティンの部屋へノックもせずに飛び込むと、魔王がこの屋敷に真っ直ぐに向かって来ていることを伝えた。


「そうですか。やはりあなたと魔王はその背中の刻印で繋がっているのですね。それにしても……。美乃里さまはお優しいのですね。監禁していた私どもの身を案じて下さるなんて」

「監禁って言ったって! 別に何も酷いこともされてないし。みんな、私に優しくしてくれたもん。だから、どうでもいいから、早くどこかへ逃げて! このままじゃ魔王に殺されちゃうよ!」


 一時でも早く逃げるように私が説得していると、オースティンは急に私の腕を掴んで抱き寄せると私をギュッと強く抱きしめていた。


「世を捨てたはずのわたくしも。この三日間は美乃里さまのお陰でとても有意義に過ごすことが出来ました。次こそは必ずあなたをあの魔王から奪ってみせましょう。ああ。出来ればこのままあなたを連れ去ってしまいたい」

「あの? オースティン? えっ? あっ!?」


 オースティンはベッドへ私を押し倒して優しく唇を重ねていた。それから、もう一度ギュッと私を抱きしめてから、とても名残惜しそうにジッと私を見つめていた。


「オースティン? 早く! 早く逃げて! お願い」


 少し震えている私の言葉を聞いて、オースティンは静かに頷いて起きあがってローブを纏うと。屋敷にいる魔法使いたちを連れて屋敷から逃げる支度を始めた。


 暫くして……。魔王が魔獣に乗って。たった一人で屋敷に乗り込んで来た頃には屋敷には私だけが残されていて、屋敷中の魔法使いとオースティンは姿を消した後だった。


「オイ! あのババァどこ行きやがった? それに他にも誰かいたんだろ?」

「私は……。私は、ずっと部屋に監禁されていたから。何も知らない。エルザしか見てない」


 何だろう? 魔王の顔を見てホッとしたのか? それともオースティンとの別れが悲しかったのか? 嘘をついている罪悪感からなのか? 私の瞳からはポロポロと涙が溢れて止まらなくなってしまった。


「あ~。オイ! まいったなぁ~。マジで本気で泣いてんじゃねえ。バ~カ! もういい。面倒臭えからさっさと帰るぞ!」

「う、うぇっ。うぇっ。うん」


 その冷たい台詞とは裏腹に。魔王は泣いている私を抱き抱えて魔獣に乗ってから優しく指先で涙を拭うと、黙ってそっと優しくキスをしていた。私はオースティンよりも。やっぱり魔王にキスされたほうが、胸が熱くなって苦しくてドキドキしていた。


**************


 魔王城へ帰ると、小さい魔物たちや魔王軍の兵士たちが私の無事をとても喜んで迎えてくれていた。私が部屋へ戻るとすぐに小さい魔物がやって来た。そして、私を浴場へ連れて行って身体の隅から隅までゴシゴシ洗って、岩盤に寝かせていつもよりも念入りにオイルマッサージをしていた。


 私がスッキリと綺麗になって部屋へ戻ると魔王はすぐに私をベットに押し倒して胸に顔を埋めて横になった。


「やっぱり。これがないと落ち着かね~わ。ムフフフ♪」

「もう~! 帰って来てすぐにド変態モード全開ですか? 魔王さま!」


 私が少し呆れた顔をしていると、魔王は埋めていた顔を少しだけ上げてニィっと笑って再び胸の感触を楽しんでいた。


「三日もろくに眠ってねえんだ。黙って寝かせろ! バ~カ!」


 魔王はそう叫ぶと、また胸の谷間に顔を埋めて今度は本当に気持ち良さそうに眠ってしまった。魔王の寝顔を見つめながら私は少し胸が痛くなった。私がオースティンに抱きしめられてキスされたことを魔王が知ったら魔王はどうするんだう? オースティンはまた私を魔王から奪いに来るって断言していたけど。私はオースティンのことを出来れば魔王には話したくない。


 オースティンが私を誘拐したのは平穏のためで戦争をするためではなかったし。監禁されていたと言っても……。私をとても大切に扱ってくれていた。あの優しい魔法使いたちを私は守りたいと思っていた。


****************


 翌日。魔王はベットから起き上がると寝不足で目を擦っている私を衣装部屋へ連れて行くと魔物たちに出掛ける支度をさせた。


「今日からお前はずっとオレ様の側においてやる。またお前を連れ出されたらたまんねえからな!」

「ちょっと? マジで言ってんの? ずっと一緒にって? 無理に決まってるでしょ?」


 私が驚いて魔王に聞き返した時には、魔王は平然とした顔でケラケラと笑って私に鎖の付いた皮の鍵付きの拘束用の腕輪を左手にはめてから、自分の腕にもう片方の腕輪をしていた。


「えっと。これは何? どうしてこんなことしてるの? ねえ~!?」

「これは念には念をってやつだ。魔法使いのババァがまたお前を狙って来るかも知れねえからな! お前がオレ様と繋がってればババァも簡単に手を出せねえだろ~? クククク」


 魔王は嫌がる私のことは全く気にしていなかった。どちらかと言うと……。何か新しい遊びでも始めた小さい子供みたいだった。そして、魔王はそのまま私を連れてベルゼブブの所へ向かった。


 魔王に繋がれたままベルゼブブが待っている魔王軍の司令室に入ると。私と魔王の姿を見たベルゼブブは目を見開いて固まっていた。しかし、この状況を把握出来たのか? ベルゼブブはクスクスと声を出して笑い出した。


「ククククク。オイ、魔王。また連れ去られでもしたら大変だからって自分の腕に奥方を繋いで連れて回るっていうのか? 勘弁してやれよ~。それじゃ~奥方が気の毒すぎるぜ!」

「うるせえ! お前は黙ってろ。こいつはオレ様のモンだからオレ様の好きにして何が悪い?」


 ベルゼブブが固まっていたのは、私と魔王の姿があまりにも滑稽で思わず吹き出しそうになったのを私の為に堪えてそうなったようだった。でも、結局は我慢しきれずにベルゼブブは、ガハガハといつまでも笑っていた。


「だから無理って言ったのに! こんなの恥ずかしすぎるから外して!!」

「嫌だね。絶対にはずさねえ! お前は大人しくオレ様に繋がれてろ!」


 私が怒って腕輪を外せと腕を引っ張って暴れたら、魔王はすぐに私を抱き抱えて押さえつけると、猿ぐつわをして口を塞いで両手も後ろ手に縛って椅子に拘束してしまった。


「オイオイ! それじゃ~奥方は囚人じゃねえか? ちょっとやり過ぎだろ?」

「だから! お前も黙ってろ! コイツはオレ様のモンだって言ってんだろ?」


 魔王が青筋を立てて叫ぶと、さすがにベルゼブブも諦めてそれ以上何も言わずに仕事にとりかかっていた。


「奥方を連れ去ったのは紛れも無く大魔法使いオースティンの手の者らしい。エルザはオースティンの率いる魔法使いたちの幹部の一人だったそうだ」

「何が目的だ? オレ様か? それとも美乃里の魔力か?」


 私が黙っていても魔王軍はオースティンのことを突き止めてしまったようだった。魔王はオースティンの目的が何かをベルゼブブと考えているようだった。


「オースティンは世を捨てたと言われるほどに争いを嫌う大魔法使いだからな。まさか魔王にケンカを売ろうなんて考えちゃいないだろう。だとすれば奥方だなぁ~」

「奴は美乃里の魔力が何なのかを知ってて連れ去ったんじゃねえか? 昔からいけ好かないやつだったからな。オレ様のことを信じちゃいねえんだよ!」


 あれ? 魔王とベルゼブブとオースティンは知り合いなの? なんてことを二人の会話を横で聞きながら、私はオースティンとのことを魔王に問い詰められたらどうしようかとドキドキしていた。


「オイ! やっぱ。お前もしかしてオースティンを庇ってんじゃねえだろうな?」


 図星を指されて私はすぐに首を左右に振って否定してみたけど背中には嫌な汗が流れていた。魔王とオースティンには私の知らない何か因縁のようなものがあるようで、この先どうなるのかすごく私は不安を感じていた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ