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『私……誘拐されちゃいました』



 ドラゴンの谷の麓の街は、氾濫を起こしたドラゴンたちを魔王が一掃したことで落ち着きを取り戻したようだった。


 相変わらず魔王は、公務中に気に入らないことがあるとすぐに癇癪を起こして帰ってきて、私を連れて城下の街や小さな村へブラブラと出掛ける回数が日に日に増えていた。


 それから、すっごく久しぶりに魔猫が魔王から頼まれていた仕事を終わらせて魔王城へ戻って来ていた。


「暫く会わない間にまた艶っぽくなったんじゃない? これだから人妻って奴はほ~んと。いやらしいったらありゃしないわね! フフフ♪」

「ほんと生意気なお猫様なんだから~! ひがんだって仕方ないでしょ~? 私~人妻ですから~♪ フフフ♪」


 私が平気な顔で嫌味を返すと、魔猫は目をまん丸くしてニィ~っと笑って尻尾をパタパタさせて喜んでいるようだった。


「アンタも随分と図太くなったわね~。魔界での生活が性に合ってるんじゃないの? それとも魔王さまにいたぶられすぎておかしくなっちゃたのかしら?」

「ねえ~? さっきから不思議に思ってたんだけどね。今日は何で猫語が入ってないの? 今日は普通にしゃべってるよね? なんかすっごく気になるんですけど?」


 魔猫が普通にしゃべっていることに疑問を感じて魔猫に聞くと、魔猫はクスクス笑いながらも教えてくれた。


「特に意味は無いんだけどね。月の満ち欠けで人型に近付いたり。猫に近付いたり。結構私って忙しいのよ! 今は月が欠けてる時だからほとんど中身は人型ってことね。わかった?」

「え!? そうだったの? そのことは、まだエルザからは教えてもらってないな~」


 エルザの名前を私が口にすると、魔猫はキョロキョロと辺りを見回してから私の顔をのぞき込んで小声で聞いてきた。


「ちょっと! 今、エルザって言った? あのヘンクツババァの魔女? ここにいるの?」

「あれ? 魔猫ってエルザを知ってるの? 知り合い? 魔王がこの前ドラゴンの谷の麓の街で、エルザを気に入って連れて来ちゃったんだよ!」


 魔猫は顔を引きつらせながら、また警戒してキョロキョロと周りを何度も確認していた。


「あのババァは苦手なの! ヘンクツで有名だし魔力もいまだにそこそこ凄いもん持ってるから、魔法使いや魔物たちも誰もあのババァには歯向かわないって噂だよ!」

「そうなんだ~。やっぱエルザって凄い魔法使いなんだね~。魔王が気に入るわけだね~♪」


 ところが魔猫はちょっと険しい顔をして、私にピッタリと身体を寄せて耳元で声を少し落としたまま話を続けた。


「あのババァは信用出来ないから気をつけなよ! 多分、魔王さまも十分わかった上で連れて来たんだろうけど。あのババァは危険だからね。用心しなさいよ」

「あわわ。マジで? たしかに少し気味の悪い感じはするけど。う~ん。わかったよ……。気をつけるよ!」


 魔猫は魔王から頼まれた次の仕事があるからと、私にエルザには気をつけるようにと何度も念押ししてから部屋を出て行ってしまった。


************


 そうして魔猫が任務に出て行ってしまってから、そろそろ二週間が過ぎようとしていた。その日はエルザの魔法の授業の日で、私は昼過ぎからエルザの部屋で魔法や魔力について資料を広げて、時々エルザが実演も入れながら授業を進めていた。


「そろそろ奥さまは自分の中に眠っている魔力について、もっとくわしく知りたいと思われませんか?」

「え!? あ。うんうん、知りたいと思ってるよ! でも、魔王がそのうちわかるって言ってるし……」


 エルザが唐突にあの魔力について興味が無いのかを私に聞いてきた。私は出来るだけ話をはぐらかそうとしたけど、エルザはかまわず魔力について話を続けていた。


「知っておいた方が奥さまのためなのですよ。ですから、今日は特別に奥さまの中に眠る魔力のことを少しお教えしましょう。そんなに怖がらなくて大丈夫です。私に全てお任せ下さい」

「でも……。魔王に叱られない? 大丈夫なの?」


 私の問いなど気にも留めずにエルザはフフフ♪ と笑って私の手を取っていた。そして、エルザは何か大きな魔法陣を描いてその中に私を座らせて肩の力を抜いて目を閉じるよう私に指示していた。


「目を閉じたら両手を左右に広げて。そして掌を上に向けて強く自分の力を望むのです。意識を集中して出来るだけ強く願うだけで良いのですよ。おおお! すごい! やはり奥さまは凄い魔力をお持ちのようで……」


 エルザの言葉に私が驚いて目を開けると、私の両手にはサッカーボール位の大きさの赤くて丸い光がフワフワと浮かんでいた。


「な、何? これが魔力? 私の魔力なの? エルザ? ねえ~?」

「フフフフフ♪ これで奥さまをあの方の元へやっとお連れすることが出来る」


 エルザは小声で何かを口走った後で、魔法陣へ入って早口で何か呪文を口にしていた。エルザが魔法陣に入って呪文を口にした後、私はすぐに気を失ってしまって記憶が曖昧だった。確かなのは私が次に目を開けた時には、全く知らないどこかの屋敷の寝室のベットで寝かされていたという大変な事実だった。


「う……嘘でしょ? ここはどこ? 魔王城じゃない。どこ?」


 私が慌てて起き上がって部屋の窓から外をのぞいて見ると、屋敷の周りは大きな樹々に囲まれた深い森のような所だった。


「やっと、お目覚めになられましたかな? フフフフフ♪」

「あ。エルザ! ここはどこ? ねえ~? どうしてこんな所にいるの?」


 私が慌ててオロオロしてるとエルザはクスクスと笑い声を上げていた。


「ここは魔法使いの唯一の安住の地。魔の樹海でございます。申し上げたはずでしょう? 今日は奥さまの魔力についてお教えするとね。このババァでは全てはお教え出来ません。ですから、大魔法使いオースティンさまに、まずはお会いして頂こうと思ってここへお連れしたのです」

「魔王は? そのことを魔王は知ってるの? 大丈夫なの?」


 エルザは私の質問には耳を貸す様子もなかった。起き上がった私の衣服を着替えさせると、次に髪を整えて別の部屋へ私の手を引いて案内していた。


 エルザが大きな扉を開けると、そこには、魔王よりも少し年上に見える落ち着きのある雰囲気の銀色の腰まで伸びた真っ直ぐな長い髪をした大魔法使いオースティンが私を待っていた。


「良くおいで下さいました。お初にお目にかかります。ワタクシはオースティンと申します。美乃里さまにこんなに早くお会い出来て光栄でございます」

「は、初めまして。宜しくお願いします」


 とても丁寧に挨拶をされたので、私が驚いて慌てて挨拶をして頭を下げるとオースティンはクスクスと笑って優しく私の右手を取り目を閉じていた。


「やはり……。美乃里さまは危険な魔力をお持ちのようですね。計り知れないこの大きな魔力を……。あの魔王の側に置いておくのはとても危険過ぎますね」

「えっ? あ? 何?」


私の手を握ったままでオースティンは跪くと、頭を下げて私の手の甲にそっとキスをした。


「今日から美乃里さまにはこのお屋敷で過ごして頂きたい。美乃里さまのその魔力はとても危険なのです。もしも、魔王にその魔力を悪用されてしまったら魔界どころか人間界も天界も滅びることになるでしょう」

「え~~~~~~~!? 嘘でしょ? そんなに危険なの?」


 私が驚いてパニックを起こしそうになっていると、オースティンは傍にあったソファーに私を座らせてから話を続けた。


「美乃里さまの中に眠るその魔力は、魔王が幼い頃に無くしたはずのもう一つの大いなる魔力なのです。どうして美乃里さまの身体の中にあるのかは……。多分、天界の神にしかわからないでしょう」

「天界? やだ~~~! なんか嫌な予感しかしない。魔王の魔力って魔王はこのことを知っていたの?」


 オースティンは私の問いに深く頷くと、魔王だからこそ気付いたのだろうと少し険しい顔をしていた。


「オースティンは魔王の敵なの? 魔王ってやっぱそんなに魔界でも嫌われちゃってるの?」

「わたくしは、魔王の敵でも味方でもございません。ただ、魔王はやはり魔界でも脅威の存在ではあります。ですから、美乃里さまを魔王さまのお側には置いておけないのでございます」


 話が終ると、オースティンが私の目を真っ直ぐに見つめて何か呪文を唱えていた。すると、私はすぐに意識が遠のき眠りについてしまった。


そして、次に目覚めた時には手足を鎖で繋がれて窓の無い部屋で私は囚われてしまっていた。


「どうしても美乃里さまを魔王の元へは帰すわけにはいかないのです。出来れば美乃里さまにも納得して頂いて、自由にこの屋敷で過ごして頂きたい」

「私は別に構わないのだけど。魔王にこのことを知れて、この場所が知られたら恐ろしいことになりそうなんだけど? 大丈夫なの?」


 私が自分の身の心配よりも魔王がこの場所をつきとめた時のことを心配していると、オースティンはクスクスと微笑しながら、屋敷のまわりには結界を強く張ってあるから、さすがの魔王でもすぐには見つけられないだろうと私の手足の鎖を外してくれた。


 私はこうして……。その日から、オースティンの屋敷で快適な監禁生活を送ることになってしまった。


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