とりあえずエピローグです
サラが生まれてから三ヶ月が過ぎていた。
母乳をあげていたのは二週間ほどで。驚いたことに、魔王と人間のハーフのサラは三ヶ月目にはしっかり立って歩いていて、普通の人間の三歳児位の大きさにまで成長していた。
髪の色は何故か魔王にも私にも似ていない。燃えるような真っ赤な赤毛で、髪全体にはちょうど良い感じのウェーブがかかっている。エルザやオースティンが言うには私の中の魔力の影響が強くて、こんな赤毛になったようだ。
瞳の色は宝石のようで、綺麗なエメラルドグリーンのような蒼眼の魔王の瞳をもう少し緑に近くしたような。すっごく綺麗な色をしていて、私はサラを見る度にその瞳に惚れ惚れしていた。
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「魔族の特に魔力の強い悪魔の子供の成長は驚くほどに早くて。一年もすれば人間でいうところの十歳位の姿にまで成長致します。二年もすれば、成人の姿になり。そこでほぼ、容姿は老いることもなく時が止まったように変わらなくなります」
「え? そうなの? だったら魔王は一体何歳なの? ねえ! すっごく若いと思ってたけど……。違うのね?」
今日は魔物の先生の授業の日で、サラが何故あんなに成長が早いのかを私が聞いたことで、先生はわかりやすく説明してくれていた。
「先生はしっかり年老いてるけど。魔物によっては年老いるものもいるってことなの?」
「仰る通りです。低俗の魔物は確かに人間よりは長生きしますが歳を重ねるごとに姿も老いていくのです」
そこで私は重要なことに気付いてしまった。
「ちょっと。ということは……。私だけさっさと年老いて死んじゃうの?」
「フフフフフ。ご心配はご無用でございます。奥さまは奥さまがお持ちの魔力の影響で、成人されたら魔王さまと同じく成人のお姿のまま老いることは無いでしょう。まぁ~そうでございますね。ざっと何千年。長生きされることでしょう」
先生に心配無いと笑われて、少しホッとしたけど何千年も生きるって。それはそれで大変そうなので、私は大きくため息を吐いた。
授業を終えて部屋へ戻ると、サラが乳母と世話係から逃げ回っていたようで私の部屋へ物凄い勢いで駆け込んで来た。
「姫様! お待ち下さい! お着替えがまだ全部終わっておりませんよ!」
「やだ~~~! 動きやすいからこのままでいいの~! ドレスはやだ~~~!!」
逃げまわるサラを。乳母とサラの世話係が必死になって捕まえようとしていたが。サラはすばしっこくてなかなか捕まらないようだった。
「もういいわ。あなたたちは向こうで待っててちょうだい。私がサラと話をするから!」
「は、はい! かしこまりました。奥さま。それでは失礼致します」
見兼ねた私は乳母と世話係を下がらせて少しサラと話をしてみることにした。
サラは乳母たちがいなくなると、ホッと胸を撫で下ろしてそうっと私の側へ下着姿で近付いて来た。
「フフフ♪ サラはドレスが嫌いなの?」
「だって~! ドレスじゃ走り回れないし。すっごくきゅうくつなんだもん!」
すでにサラがしっかりと自我を持って言葉もしっかり話していることに私は感動していた。
「でもね~! 下着のままじゃ格好悪いわよね~(笑)何かもっと普段着的なものがほしいわね♪」
「ふだんぎ? ふだんぎってなに? このままはかっこうわるいの? かあさま~?」
目を丸くして知らない言葉に戸惑いを見せつつ。私が怒っていないことがわかるとサラは私の膝にベッタリと身を寄せて甘えていた。
私はその夜。すぐに戻って来た魔王にサラの様子を話して聞かせると、あるお願いをしていた。
「サラがドレスを嫌がって逃げまわっててね。あれじゃ~乳母たちも大変だし、下着のままでウロウロさせてるわけにもいかないでしょ? だから城下へ服を買いにサラと出かけたいんだけど」
「しょーがねえなぁー。わかった! オレ様が明日連れてってやるよ!」
魔王が意外にもあっさり私の願いを聞き入れてくれたので、少し拍子抜けして私が驚いていると魔王が私の片方の頬を引っ張りながらニィッと笑って言った。
「オレ様だって。たまにはサラと一緒に出かけたっていいだろ? そんなに驚くなよな!」
「だって。一応魔王さまだからね。それに。悪魔って冷たいイメージが強いでしょ?(笑)」
私が舌を出して冗談を言って笑うと、魔王も笑いながら私の両頬を掴んでグイグイ引っ張ってふざけていた。
「それは人間の勝手なイメージだからな! 魔界には魔界なりの秩序もある。冷酷なだけな悪魔のほうが少ねえんだよ! フンッ!」
「いひゃいって!! あにゃして! いひゃいって~! あうううう」
痛がる私を面白がってギューギュー更に引っ張って魔王はケラケラと楽しそうに笑っていた。
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そして約束通り魔王と私はサラと城下で子供用の服を手に入れてあまりかわいい服が無かったので、ついでに生地やレースもいくつか買い込んで私は退屈しのぎにサラの洋服を作ってやることにした。
お城へ帰った私は、サラの服をいくつかデザインして世話係に生地を裁断してもらって人間界から持って来たミシンで服を何着か作ってやった。
すると、サラは丈の短いワンピースが気に入った様子で同じものを何着か作ってくれとわざわざねだりに来るぐらいだった。長い丈のドレスとは違って、自由に走り回れるようになったサラのお転婆ぶりは、どんどんひどくなるばかりで。乳母や世話係たちは苦労が耐えないようだった。
そんなサラが、何故かオースティンの前になるとモジモジと大人しくなることに私は最近やっと気付いた。サラにも成長とともに異性を意識する乙女心というものが芽生えていることを知って私は少しホッとしていた。
「こんにちはサラ様、ご機嫌麗しゅう。また、少しお会いしない間に大きくなられましたね。フフフ♪」
「こ、こ、こんにちは……」
サラは挨拶をするのがやっとで、耳の先まで顔を真っ赤にして軽く会釈をして自分の部屋へ戻ってしまった。
「おやおや。私は姫様に嫌われてしまったのでしょうか?」
「フフフフフ♪ その逆よ! だから気をつけないと。魔王にバレたら殺されちゃうかもよ~!」
私がサラがオースティンに想いを寄せていると教えても、オースティンは少しも動じずにクスクスと笑っている。
「そうですね~。気をつけないといけませんね。(笑)サラ様は魔王が目の中に入れても痛くないというほど溺愛されている姫様でございますから」
「まだまだ、サラってお子ちゃまだけど。あと一年もすれば成人の姿になるんでしょ? そうなった時が本当に大変なのかも知れないね~」
本当にサラが大人の姿になって、誰かに恋なんてしたら。本当に魔王は片っ端からその相手を消してしまいそうで……。ちょっぴりママとしては心配になってしまった。
そうして。サラが生まれてから二年が過ぎて。サラは私と並ぶと母子というよりも姉妹にしか見えないくらいにまで成長していた。ドSで親バカな魔王と成長したサラを見守る私の苦労話は、また別のお話で語ることになることでしょう。
【完】
最後まで読んで頂いて本当にありがとうございましたm(__)m♪
次回はタイトルをまた新たにして成長したサラとドSで親バカな魔王の間で苦労する美乃里の話を面白おかしく書いていこうと思っております。
今後共ドSな魔王さまシリーズをよろしくお願いしますm(__)m♪




