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紫色の鳥人形は心臓を啄む  作者: サンシーク
5/7

5、後変 『終焉の歌』

「…ん?」


 『深喜小芸亭』の若い劇場関係者の彼は、右腕に痺れるような違和感を感じ、目が覚めた。


 俺、また、DVDを観ている途中で寝ちゃったのか。


 枕元のデジタル時計を見ると、午前三時四十一分九秒。

 右腕を圧迫して寝ていたのだろうか。

 しばらく放置していれば、痺れは治まるだろう。そう想い、そのままにしておいたが、何時まで経っても違和感は消えない。むしろ、痺れが酷くなった様子さえある。

 一体、何なんだろう。そう思い始めた時だった。

 

♪『…さん…………し……ー………く……』


何か、聞こえる。人の声?いや、歌?

 遠くの方から、いや、頭の中から、いや、耳元から、いや、天井から、いや、ドアの向こうから、いや、床下から、いや、キッチンのシンクの中から、いや、布団の中から、 いや、いや、いや、いや、いや、いや、いや、いや、いや、いや、いや、いや、いや、いや、いや、いや、いや、いや、いや、いや、いや、いや、いや、いや、いや、いや、いや、いや、いや、いや、いや、いや、いや、いや、いや、いや、いや、いや、いや、いや!

 どこからともなく、甲高い声が、聴いたことのある歌が、聞こえる!


♪『いいい今、羽ばたタタタタザッたくよ。君の姿を探すヒヒヒために。』


 この歌は…


♪『心地良い南風がガガ、ザザザッ、僕のアハハ羽を揺らす。そんなナナ何気ないことが、とても幸せだったザザザッた。』


 この歌は、ゲッシークさんと相方である人形…そう!鳥人形の『ゲコ』くんがたまにネタの時に唄っていた歌!?


♪『何時からだろう。冷めめメメめたイ北風があおぁあおおぁぁ少しししィずつ僕の身体凍らせて、なな無くしたものをイヒヒヒヒ!想い出さザザザッせル。』


 しかも、所々ノイズや奇声が入るが、この歌声は『ゲコ』くんの声!?


♪『心の中の光はかか身体暖めるコトナク、ただ無情に暖かイイイい記憶が、身体凍らせセテセテセテてゆク。』


 段々と声が近づいてくる!?それに伴い、右腕の痺れも酷くなってくる!


♪『凍てツいたいた羽根羽根羽根羽根羽根羽根羽根羽根羽根ハ動かずに、ただ地ヲヲ待つのみ。誰かが拾うでしょうカ。誰かが溶かすでしょうカ。』


 もう、歌声がすぐ近くまで!


♪『教えて下さい。鳥が飛ぶ意味を。』


 歌が終わっ…


『知らねーよ!てめーで考えろや!』


 っ!この台詞はネタ中に『ゲコ』くんが歌を歌った後、ゲッシークさんが『ゲコ』くんに向かって言う台詞!

 でも、ゲッシークさんの声ではなく『ゲコ』くんの声だ!


『お、怒らレタ!』


 これもだ!これは『ゲコ』くんの台詞だから合ってはいるが。


『お、オオオ怒られた?だだだだダだぁだ誰に二?』


 え?


『ボボボぼくは誰ににに怒らららららられた?』

 誰にってそれは何時もならゲッシークさんに…


『ゲッゲッッシークさん?ゲッシークさン?さん?さッゲーシクん?サンシークさん?ゲッシークさん?…ウわワわわァァあ!!オぁぁアぁぁァァぁ!ああいやぁぁァぉァぁ!!!!!!!』


 なんだ!?


『ひひひひ!ぁあぁののひヒひ人は死んだ!死んだ。死んだ。死ンだ。死ンダ。死んだ。死んだ。死んダ。死んじゃった!

 あの人ハ殺さレた。コロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロされた!!!!』


 右腕の痺れが刺すような痛みへと変わってきた!


『ダダダッダダ?ダダダ誰ニコロコロ殺コロコロされた?

 オ前に?あイつニ?コイツニ???

 ソソソソうだッ!ヤツにににににににににににに!コロコロコ殺コロ!コロされた殺さレタ!!』


 痛い!

 痛い!!

 痛い!!!

 右腕が痛い!!!!!!


『キひひヒヒ!ヒヒッッひヒヒひひヒひッひひひヒヒヒヒヒヒひ!

 ダカら、お前モ殺す。 

ファぁァヒャヒャヒャッ!コロす殺すコロす殺すコロす殺すコロす殺すコロす殺すコロす!!!シシ心臓を穿つ穿ツ穿つウガつ穿つ穿つ穿つッ!!!』


 頭の中に箸を突っ込まれて、かき混ぜられているような目眩が襲ってくる!


 『サァ、そレデは次ハこノゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲ芸人の登場でスすスす!

ゲッシーク&ゲコくんデす!どウゾー!』


 その瞬間、目眩と右腕の痛みは嘘のように一瞬で収まった。 未だに恐怖から心臓が早鐘のように鼓動を打ち、止まらない。

 何だったんだ?今のは?

 夢、だったのか?

 と、思ったその時だった!

 再び歌が聞こえてくる!


♪『今羽ばたくよ、君の姿探すために

心地良い南風が僕の羽を揺らす

そんな何気ないことがとても幸せだった』


 『ゲコ』くんの声で、今度はちゃんとした歌が聞こえてきた。


♪『いつからだろう、冷たい北風が少しづつ僕の身体凍らせて、無くしたものを想い出させる』


 しかし!右腕では歌と同時に不可思議な現象が起きている!紫色した羽毛の様なものが、肘から指先の方へと徐々に生えてきている!そして、途中でぬいぐるみの鳥の足の様なものまで生えてきた!


♪『心の中の光は身体暖めることなく、ただ無情に暖かい記憶が身体凍らせてゆく

凍てついた羽根は動かずにただ地を待つのみ』


 もう止めてくれ!!!止めてくれ!!!止めてくれ!!!止めてくれ!!!止めてくれ!!!止めてくれ!!!止めてくれ!!!止めてくれ!!!


 その羽毛の一部は色褪せていたり、薄汚れている。

 羽毛の侵食が手首までくると、今度は、今度は!、今度は!!!

 徐々に指先へと向かいながら、鳥人形の頭が生えてきた。

 なんだ!これは!!なんなんだ!!!これは!!!!


♪『誰かが拾うでしょうか

誰かが溶かすでしょうか

教えて下さい。

鳥が飛ぶ意味を。』


 歌が終わり、全てが完成した。そして、その完成した鳥人形の顔には見覚えがあった。

 やはり『ゲコ』くん!

 しかし、『ゲコ』くんの顔もまた羽毛と同じく、薄汚れ、色褪せていた。だが、それ以上に目を惹くものがあった。それは『ゲコ』くんのプラスチック製の片目が取れ、糸一本で繋がり、ブラブラと揺れていたのだ。


 すると!次の瞬間!


『こンバんワ。』


 右腕に生えてきた『ゲコ』くんがこちらを向き、くちばしが勝手に動き、声を発した。


 っ!!!


 思わず、右腕の不気味な『紫色の鳥人形』を振り落とそうと腕を激しく振る!


『イヒヒひ、ウわァぁ~!タタ楽しイなァァ!』


 しかし、ビクともしない。さらに激しく振ってみたのだが、途中で右腕の感覚が全くなくなり、動かすことが出来なくなってしまった。


『お久しぶブりでス。積もル話もありマスガ、ボく、今かラ、アなタの心臓をクちばシでブちぬキマぁーすすすスすス!』


 この不気味な『紫色の鳥人形』は何を言っている!?


『失敬ダナぁァァぁ、ボクは『げコ』だヨ。』


 なんで、声に出してないのに『これ』は思ったことが分かる!?


『今度ハ『これ』カぁ。だからボくは『げコ』ダッてバ。』


 ふざけるな!俺の知ってる『ゲコ』くんは確かに腹話術の人形だったが、もし彼に意志があったとしたら、少なくともお前みたいな事は言わないはずだ!ゲッシークさんが言わせないはずだ!


『ゲッシークさん?……………………………………ゲッシークさん!!!』


 恐怖で出せなかった声を、俺は喉を振り絞って叫ぶ!

「そうだ!!!ゲッシークさんだ!!!」


『イヒヒひヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒひヒ!!ヒ!ヒヒヒ!ヒヒヒヒヒ!ヒヒヒヒ!!!!!ゲゲゲゲゲゲッシークさんは死んダ殺さレた死んだコロされタ死ンダ殺された死んだ殺された死んだ殺された死んダ殺サレた死ンだ殺されタ死んだ殺さレタ死んだ殺されタ!!!

 だから、お前も殺す。』


 っ!!!


 不気味な『紫色の鳥人形』が付いている右腕が勝手に動き出す!

 鳥人形のくちばしがこちらを向くような形で、腕が限界まで伸ばされ、くちばしの先端が俺の左胸の方を向いた!


 止めろ!止めろ!止めろ!止めろ!止めろ!止めろ!止めろ!止めろ!止めろ!止めろ!止めろ!止めろ!止めろ!止めてくれ!!!


 そして


『どうモ、アりがトうゴざいましタ!』


 『ゲコ』くんの声で、不気味な『紫色の鳥人形』が、芸事のネタ終わりの挨拶のような言葉を発した次の瞬間、


 グサッ!


 不気味な『紫色の鳥人形』のくちばしが俺の左胸を貫き、俺の身体と意識は終焉を迎えた…

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