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桃香理事長日誌  作者: 葉月 優奈
六話:|罪《フィーリング》の対価
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あたしたちは、理事長室に戻っていた。

無事に学校法人の学園長や理事長たちを玄関まで見送った。

スーツを着ていたあたしは、首元のスカーフを緩めてソファーにくたびれた顔で座った。

黒髪に染めた北小路は、あたしの前のソファーに座っていた。

もちろん着慣れないスーツのネクタイを緩めて、だらしなさそうにしていた。


「全く、あの男しつけーよ!」

「ね~、あれはないわよね。言いがかりにもほどがあるじゃない」

あたしと北小路が、噂する男はもちろん髪の立った男。あー、顔が浮かんだだけでもなんかイヤ。


「『こんな学校は廃校にすべきです!』だって、お前に言われる筋合いないっつうの」

「そうよ、珍しくあたしと意見があうじゃない。北小路」

「大体あの学校だって、いじめがかなり多いみたいだぜ。北九州宇喜中。

元は中高一貫校だったけど、負債抱えて付属の高校だけが消滅したんだ。それの逆恨みもあるんじゃねえのか」

「あら、随分詳しいのね北小路」

「ああ、二年前には俺は北九州宇喜高(そこの学校)の教師をしていたからな。

あの学園長は、俺に対しても個人的に恨みもあるわけだろ。まあ、俺もあいつは願い下げだけどな」

苦い顔で愚痴る北小路にあたしも相槌を打っていた。そこにお茶を運んできた露木さん。


「お二人とも、お疲れ様でした」

いつもながらに落ち着いた顔、露木さんは今日もダンディだ。

ただ綺麗に七三分けにされた髪は最近白髪が増えているみたい。きっと気のせいね。


「お疲れ。露木さんも、ねっ」

「私は大したことはやっていません。理事長代理が来てくださったから、うまくいったんです」

「あたしは……そうよ、あたしのおかげ」

「何言っているんだよ、ブス理事長」

誇っているあたしに、容赦なく浴びせる北小路の野次。


「あら、久しぶりに言ったわね、あたしのけなし言葉」

北小路に久しぶりに言われると……やっぱりムカツクわ。

そのまま、前の北小路の頬を引っ張った。北小路も悪態ついてあたしを睨んでいた。


「便乗して言うんじゃないわよ、口悪教頭」

「へいへい、そりゃ悪ふござひまひた」

「もう、絶対に反省しないでしょ」

「俺は嘘やおべっかが大嫌いだ、ブス理事長」

「あー、また言った!」

北小路の頬から手を離して、不機嫌な顔になったあたし。

黒髪の北小路の目つきの悪さは、見た目以上に迫力に欠けていた。それを微笑ましく見る露木さん。


「それでも、学園法人の方も満足されたようですよ」

「それはよかったわ」

「ええ、これでいじめ問題も解決しましたし……」

「まだよ、この学校のいじめは解決していないわ。いじめは絶対になくならないから」

「ああ、そうだな」

あたしの言葉に真剣な顔で北小路が同意した。

そんな時、露木さんがカレンダーを見ていた。棚のそばにあるカレンダーは二月が開いてあった。


「それより、理事長代理」

「なんですか?」

「そろそろ、日程が迫ってきましたね」

「あら、もうそんな日なのね」

露木さんの言葉にあたしは、急に暗い表情になった。

棚のそばにかけてあったカレンダーを見ていた。今日は二月二十五日。

もうすぐ、三月であるこの日。カレンダーの二月末日には赤くまるが書いてあった。


「何の日程だ?」

「うん。北小路あのね、あたしの理事長の任期が二月いっぱいまでなの」

あたしの言葉に、立ち上がってあたしのそばに来た北小路。

一瞬うつむいた彼は、すぐにあたしの肩をつかんできた。


「な、なんだよ。なんで俺に報告しない?」

「北小路?」

「てめーがやめるがやめないが、知ったことはない!だけどよ、だけど、お前は俺には報告しろ!」

「何を急に怒っているのよ、北小路!」

「お前が勝手すぎるからだろ!」

「そんなことないわ!元々決まっていたことだから」

眉間にしわを寄せてあたしは、ちょっとだけ背の高い北小路に言い返した。

互いに目を逸らさないで睨み合う。一気に空気が変わった。


「あの……北小路」

沈黙を破ろうと露木さんが声をかけようとしたけれど、それを北小路が阻んだ。

「勝手にしろ、ブス理事長!」

そう言いながら、北小路が先に目を逸らしてあたしの体を両手で押してきた。


後ろに押されて、のけぞったあたしはすぐに北小路を睨み返す。

あたしを押した北小路は背を向けてドアのほうに歩く。

そのまま、不機嫌そうに部屋を出て行った。


(分かっているわよ、でもしょうがないじゃない)

北小路が露木さんに、何を言ったのかわからない。

だけど、あたしはこの学校を離れる事がなんだか切なく思えた。



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